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ライティング・ラボ

振り込め詐欺の正体は3センチ姑だった


記事:なかむら ともこ(ライティング・ラボ)

それは高校生の頃のことだ。

朝の通学電車で、私は週刊誌の吊革広告の文字に目をうばわれた。

いくつもある見出しのなかで、そのタイトルがひときわ目立っている。

あまりにインパクトがあるので、他の記事がかすんで目に入らない。

『恐怖の3センチ姑!』

3センチ姑? 身長が3センチしかないお姑さんのことだろうか。見出ししかないので、記事の内容が分からない。

お姑さんが、何かの事情で3センチに縮んでしまったのか。それとも、元々3センチに生まれたのか。

気になる。

授業中も、3センチ姑のことが頭から離れなかった。

3センチの人間なんて、いるのだろうか。

「ビックリ人間」とかいって、上半身がくるりと一回転するとか、髪でトラックを引っ張るとか、とにかくどうしてそんなことになってしまったのかと驚くような人たちを、テレビで見たことがある。世界は広いのだ。3センチの人間がいてもおかしくはない。

元々3センチに生まれたのか。

「姑」ということは、息子か娘を産んでいるはず。3センチの人間が出産するというのは想像しにくい。出産後に、何らかの事情があって3センチに縮んだに違いない。

一日の授業が終わる頃には、私は3センチ姑の存在を確信していた。

友人には話さなかった。否定されるに決まっているからだ。そんな意見は聞きたくない。

帰り道に本屋さんに走って、記事の内容を確認する。

何のことはない。「お姑さんが、3センチだけふすまを開けて、息子夫婦の様子を覗き見している」という三面記事だった。

高校生にもなって阿呆みたいだなんて思わないでほしい。

思い込むと、人はそのくらい無理やりになるものなのだ。

あ、「人は」なんて一般化してすみません。「私は」に改めます。

こんなふうに、私は「思い込んだらまっしぐら」の道を突き進んでしまう。

ひとたび「こうに違いない」と思うと、それを裏付けるような証拠を持ってきて、ガードを固めるのだ。証拠というと聞こえがいい。要するに、自分に都合のよいもの、自分の考えを後押ししてくれそうな情報だけを集めてくる。

自分におべんちゃらを言う部下ばかり集めて、いい気になっているリーダーを想像してもらうと分かりやすい。

私は、事あるごとに、この「思い込んだらまっしぐら」の道を邁進する。

つい先日もそうだった。

冷蔵庫を買うために、家電量販店に行ったときのことだ。

どうしてこんなに沢山のタイプに分かれているのかと驚くくらい、売り場には違う型の冷蔵庫が並んでいる。

「このなかで選ぶとしたら、これかな」

ひと通り見て、そのうちのひとつに目星をつけた。

するとどうだろう。俄然、その冷蔵庫の良さが際立ってくる。

野菜室が真ん中だって。

そういう冷蔵庫が欲しかった!

ドアは両側開き。

うん。使いやすそう。

4人~6人向けスーパー大容量。

うちは夫と私の二人だけ。そんなに大きなものはいらない。今でさえ冷蔵庫の中はスカスカだというのに。

いいえ。これから先、私は料理好きになって、この中に沢山の食材を詰め込むようになるかもしれない。それに、大は小を兼ねるというし。

この型がCMに使われている。

ほーら。これがメーカーいち押しなのだ。

量販店の『当店人気No.1』シールが貼ってある。

私の選択に間違いはない。これだ。これに決定だ。

それにしても、値段が高い。他のものに比べ、群を抜いて高い。

それでも奮発するだけの価値はある。ここでちょっとケチって垢抜けない冷蔵庫を買うよりも、ずっとゴキゲンな毎日がおくれるはずだ。

 

こうして、私は「思い込んだらまっしぐら」の道を突き進む。

注文してから実際に物が届くまで、一週間ほど待たなければいけなかった。

その間に、さまざまな余計な情報が入ってきそうになる。

「両側開きは本当に使いやすいの?」というネットの書き込み。

他社のCM。

手頃な値段で冷蔵庫を買った友人の話。等々。

私は、そういう自分に不都合な情報は、いっさい蹴散らしたのだった。

自分の選択は間違っていなかったと思いたい。選んだ色だって正しかったと思いたい。(別な色にすればよかったかな)とチラリとでも思おうものなら「いいえ、いいえ、そんなことないでしょ。この色がピッタリよ」と、ねじ伏せる。

だって、もう買ってしまったのだもの。

こうして、自分の決断を脅かす要因は、とことん無視する。

こんな私だからかもしれない。(もしかしたらあれも)と、見当がつくことがある。

もしかしたらあれも、「思い込んだらまっしぐら」の現象ではないかと思うことがある。

それは、振り込め詐欺だ。

振り込め詐欺の手口はもはや万人の知るところだし、国をあげてその予防策を講じているというのに、いまだにその被害は減らない。

第三者からすると、(どうして分からないかなぁ)と思ってしまうけれど、日頃「自分はだまされない」「まさか自分が」と思っている人でも、その場になると簡単に落とし穴にはまるらしい。

手強いぞ、振り込め詐欺。いや、思い込んだらまっしぐらの道。

息子を名乗る男から電話がかかってきて、「仕事に穴をあけて、会社の金を使い込んだ」とか、「先輩の彼女を妊娠させてしまった」とか言われると、悪い想像がみるみる膨らんで、(息子が大変なことになる!)とうろたえてしまうのだろう。

この辺りから、「思い込んだら」の道を進み始めている。

(そういえば、仕事のノルマがきついと言っていた。一人では抱えきれなかったか。それで穴をあけてしまったのだろう)

あるいは、息子は優しい性格だ。悪い女に言い寄られたに違いない)

など、想像は膨らむ一方だ。

たとえ声がいつもと違っていても、(仕事が大変で風邪をひいたのだろう)と思い、たとえば公務員だから“会社”の金を使い込むというのが変であったとしても、「仕事上で関わりのあった会社のお金」と解釈し、また、ふだんは「お母さん」と呼ばれているのに、このときは「母さん」と呼ばれたりしても、(こんなときだから、甘えているのね)と、なおさら息子を愛おしく思ったりする。

よく分からないが、そんな流れではないかと想像する。

こうして、自分の考えのガードを固めていく。自分の意見を補強するような情報ばかりを集めてくる。

一度振り込んだ後にも、二度三度と振り込む人もいるという。

(どうして気付かないかなぁ)と思ってしまうけれど、これも気持ちが分からないでもない。

一度払ってしまうと、“だまされていないと信じたい”気持ちが強くなるのだ。冷蔵庫を買った後に、「自分の選択は間違っていなかった」と頑なに信じようとした私だから、その辺のところもよく分かる。

皆さんにもないだろうか、「思い込んだらまっしぐら」の道を突き進んでしまうことが。自分に都合のよい情報ばかりを集めて、反証は無視してしまうことがあるかと思う。

え? ないって?

例えば、欲しいものがあると、ネット検索して良いことが書いてあるものを探してしまったり、職場や学校でプレゼンするとき、その内容を正当化するような外部ソースばかり集めたりすることが、ないだろうか。

もっと日常的なことでは(あいつ、いけすかないな)と思う人と接していると、嫌なところばかりが見えて(やっぱり嫌いだ)と感じ「○○人はマナーが悪い」と考えていれば、マナーの悪い○○人ばかりが目について、きれいな店員さんが挨拶をしてくれると(うわっ、性格もいい! 育ちもいい!)と思い……。

あなたも、3センチ姑の存在を信じてしまうようなことが、あながちないとは言えない。

***

この記事は、ライティングラボにご参加いただいたお客様に書いていただいております。

ライティング・ラボのメンバーになると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

 

 

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2015-06-09 | Posted in ライティング・ラボ, 記事

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