子どもの「どうして?」は、考えるための素材集め
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事 飯田あゆみ(ライティングゼミ平日コース)
私の生業は、乳幼児とそのお母さんたちの外遊び活動をサポートすることである。毎週「ちびっこ探検隊」という乳幼児親子を野外に連れ出して遊ぶ活動を始めて6年になる。普段接しているのは、未就園の2,3歳児。昨年は4歳児も多かった。
子育て経験のある方ならわかると思うのだけれど、子どもはある時期「質問魔」になる。
「どうして空は青いの?」
から始まって、
「どうしてパパは仕事に行くのにママは家にいるの?」
「どうして男の子にはおちんちんが生えてるの?」
などなど、それはそれはいろんな質問がやってくる。
子どもがどうして質問魔になるのか、私なりに感じていることを書いてみたい。
それは、ちびっこ探検隊で、多摩動物公園に行った時のことだ。探検隊は、天気が怪しい時は、よく昆虫館に行った。昆虫館には屋根があるから、お昼ご飯をずぶぬれで食べなくていいので安心なのだ。
昆虫館に行くと、私は必ずすることがある。弱っている蝶を見つけて指にとまらせることだ。
館内には「蝶を捕まえないでください」と書いてあるので、羽を捕むことはしない。そっとひとさし指を蝶の頭の前に出す。飛び立つ力も残ってない蝶は、出された指にしがみつく。そして、間近で観察しても逃げない。
その日も私は二人の女の子と、弱った蝶を探して歩いていた。
彼女たちは、元気な蝶と弱った蝶の見分けがつかなかったので、最初は、指を出しては、すべての蝶に逃げられていた。そのうち、私が一匹の弱った蝶を見つけて指にのせることに成功し、彼女たちも順番に指先に止まらせて、にこにこ眺めていた。
その時、一人の女の子が訊いた。
「ねえ、ぢーこ?」(ぢーこというのは私のこと。子どもにも大人にもそう呼ばれている。)
「んー?」
「どうして、この蝶は、逃げないの?」
「もう弱ってるからだよ」
「弱ってるってなに?」
「もうすぐ、死んじゃうってこと」
「どうして、もうすぐ死んじゃうの?」
「チョウチョも、生まれてからだんだん年を取って、おじいちゃんやおばあちゃんになったら飛べなくなって、死んじゃうんだよ」
「ふーん」
彼女たちは、一昨年、私の父が亡くなった時、その話をお母さんたちから聞いていたようで、葬儀の後、実家から戻った私に
「ぢーこのお父さん、死んじゃったの?」
と、とても悲しそうな顔で聞いてくれたのだった。
あのころは、まだ3歳になったばかりの子が多かったので、人が死んでしまうという事についてはよくわかってなかったと思うのだけれど、それでも「お父さんが死んだ」「お父さんにもう会えない」というところに、自分たちなりの痛みを感じたようで、会うたびに、「ほんとうにかわいそうに」という表情で、父のことを聞かれた。
私は
「うん、そうだよ。ぢーこのお父さんは死んじゃったの」
と答えるたびに、少しずつ癒されていくような気がしていた。無垢な共感は本当にありがたい。
話し戻って、昆虫館での続き。
そんなわけで、彼女たちは、生き物が死んでしまうことについてはなんとなく理解している。だから、「死ぬってなに?」とは聞かれない。もう動かなくなる。もう会えなくなる。そんな風に理解している。が、生きているものがどうして死んでしまうのか、そこがまだわからない。
野外にいて、アリを踏み潰してみたり、バッタを強くつかみすぎてお腹から汁が出て死んでしまったり、というのは経験しているので、「殺すと死ぬ」ことはわかっている。けれど、何もしていないのに、どうして死んでしまうのかが分からない。なので質問する。
困らせたいわけではなく、知りたいから。知って、自分で考えたいから。
この日「飛べないチョウチョは弱っていて、もうすぐ死んでしまう」という事を理解した彼女たちは、死んでしまう前に、ご飯を食べさせてあげたいと、園内に設置されているエサ台に蝶を移そうとしていた。
誰かに言われたわけではなく、自分の意思で。
私たちは、子どもが言葉を話し出すと、つい、雑に接してしまう。生まれて、まだたった数年しかたってないのに、『言葉を操っている』というだけで、いろんなことを理解している存在だと勘違いしてしまう。そして、わかっているだろうと、説明を省いてしまうのだ。
子どもたちは、自分の頭で考えるためには、圧倒的に情報が少ない人たちなのだという事を忘れないほうがいい。
そして、自分たちで考え、判断したがっているということも。
子どもたちが質問魔になる時。それはきっと、自分で考えて判断したいと思っている時。大人の言うことに無条件に従うだけの存在でいたくない、と主張始めた時なのではないかと思う。
弱った蝶を見て「死ぬ前に、ご飯を食べさせてあげたい」と思ったあの子たちのように。
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