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メディアグランプリ

毎朝が黒ひげ危機一髪っ! 娘との登園ライフ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:相内 洋輔(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「やっと今日が終わった……!」
 
4歳の娘を保育園に送り終えた後、ぼくはよく、こんな気持ちを感じる。時計は午前9時。これから今日が始まると言っても過言ではない時間にも関わらずこんな気持ちになるのは、一日分の仕事を行うよりも、娘を保育園に連れて行くことのほうが、遥かにエネルギーを消費する場合があるからである。
 
ちょうど今日の朝もそうで(幼児の子育ては、黒ひげ危機一髪をプレイしているようなものなのかもしれない……)としみじみと思った。
 
我が家は毎朝8時過ぎに家を出る。しかし今日の娘は、出発20分前になっても寝床から出てこなかった。寝ている娘をムリヤリ起床させるのは、見えている地雷を喜んで踏みに行くようなもので、彼女の主体性に任せる以外の選択肢はない。ぐっと耐え忍ぶ。
 
出発の15分前となり、買ったばかりのピカチュウのぬいぐるみを引きずりながらようやくリビングへと起きてきた娘は、すこぶる機嫌が悪かった。
 
うまくいくわけがないことは分かりつつ、精一杯の高い声で、娘のご機嫌を取ってみた。
 
「おはようーー! いっぱい寝たんだねーーー!」
 
無言で振り回されたピカチュウが、差し出したぼくの手を払った。これは想像していた以上にマズイ。救いを求めて妻の姿を探したが、洗面所にいるらしく、気配を感じることができない。
 
仕方なしに次の矢を放つ。なぜなら時間は限られているのだ。ひるんでいては始まらない。
 
「朝ごはん何食べるー?」
 
娘からは全く反応がない……。もうあと10分で家を出る時間だっていうのに……。
 
「じゃあ先に着替えちゃおうか? 今日はどの服がいいかな?」
 
「んーーーーーんーーーーーーんーーーーー」
 
娘は声にならない声を絞り出し、首を左右に振り続けている。こちらとしては少しでも状況を前進させたいのに。焦りを感じ、イライラし始めている自分に気づいたが、どうすることもできない。
 
「じゃあ、トイレからにする?」
 
「もーーーおーーーーー、自分でやるから、ほっといてよおお、しつこいぃぃぃ」
 
しつこい???
 
ヒステリック気味に放たれたその一言を聞いた瞬間、プツンと頭の中で何かが切れる音がしたような気がした。
 
「じゃあ早く準備してよ!! お父さんもお母さんも、あと10分で仕事に行かなきゃいけないの!!」
 
「わかってるぅーーーーーーーー」
 
「何が分かってるの!? 分かってるならさっさとやって!!」
 
ぼくは普段、ワークショップを通じて”柔らかくてま~るいコミュニケーション”を他人様に推奨している立場にも関わらず、感情的に発した声には、怒気がたっぷり含まれていた。
 
あ、マズイ。ふと我に返った時にはもう後の祭り、娘は地べたにひっくり返って、足をバタバタさせながら泣き叫んでいた。
 
GAME OVER……。
ぼくは目の前が真っ暗になったような気がした。
 
しばらく経って、なんとか娘を押し込んだ車の中で、ぼくはドン・キホーテの看板を横目に眺めながら、タカラトミー社のロングセラー商品「黒ひげ危機一髪」を思い出していた。黒ひげくんの人形をタルの中にセットし、タルの穴へ順番に剣を刺して行く、あのゲームだ。
 
(幼児の子育ては、黒ひげ危機一髪をプレイしているかのようだ。こちらが良かれと思った選択でも、大変な結果になるのだから)
 
幼児は、まだ自分だけでは保育園に行く準備を完結できないから、朝はどうしたって、親からの投げかけや介入が避けられない。それなのに朝と来たら、朝ごはんに何を食べるか、どの服を着るか、歯磨きとトイレはどっちが先か、どのテレビ番組を見るかなど、子どもの逆鱗に触れるイベントが連続する。
 
それらの正解ルートを毎朝瞬時に見極め、最善の手を打ち続けなければ、「平穏に出社する」というミッションを達成することは到底できない。すごい難易度だ。このゲームを日本中の幼児を持つ親が毎朝プレイしているかと思うと、本当に頭が下がる。
 
一方で、黒ひげ危機一髪というゲームはそんなに難しくはない。なぜなら黒ひげが飛び出してしまうかどうかは運次第でしかなく、コントロール不可能だからだ。よってこのゲームでは「オレの選択が愚かだったからだ……」と自分の至らなさを嘆き悲しむ人はいないし、タルの穴がイケてないとか、堪え切れずに飛び出してしまう黒ひげが悪いなどと、他責とする人もいない。いい意味で、諦めがつく。
 
しかしこれが、娘が機嫌よく保育園に登園できるか? という問題に変わった途端、どうしてかぼくら多くの人間は「そうできない未熟な自分が悪い」と自責の念を強めるか、「そうできない未熟な娘が悪い」と他責にしがちになる。
 
こうした思考が強くなりすぎると、必要以上に、「絶対こうしなければならない」と自分自身を縛り上げてしまったり、「させなければならない」と子どもを支配してしまったりする。
 
でももしかしたら、今日はたまたま剣を刺した穴が悪かっただけかもしれない。だったらほんの少しだけ肩の力を抜いて、妖怪のせいなのね~と呟いてみたり、自分のことも、子どものことも責めずにいたっていいんじゃないかなと思う。
 
黒ひげが飛び出す日もあれば、そうでない日もある。いずれにしたってぼくらは、その結果をコントロールすることなんてできないんだから。
 
そう自分に言い聞かせて、明日も大好きな娘と登園してみようと思う。きっとこうしたドタバタな日々も、いつかいい思い出になるはずだ。
 
 
 
 
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2020-02-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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