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桃太郎はやばい奴

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:市川みどり(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
少し前の話だが、夫と地下鉄に乗った。
すると目の前に東京都交通局のマナーポスターが。
「席は必要な方にお譲りください」というもので、優先席に座っていた桃太郎が、乗ってきた鬼に、笑顔で「どうぞ」と席を譲っているシーンが描かれていた。
鬼は骨折をしているのだろうか、右足をギプスで固定、松葉杖をつき、右手は三角巾で吊している。
それを見て夫がこう言い放った。
 
「こいつ、善人面して席を譲っているけどさ、ボコったの自分じゃん」
 
確かに。
さすが何でも物事を斜に構えて見る我が夫である。
私は既にこのポスターを何度か目にしていたが、そんな風に考えたことは一度もなかった。
単純に「桃太郎さんは席を譲って偉いわね」としか思っていなかった。
しかし、夫が言うような視点から見てみると、席を譲っている桃太郎の笑顔もひどくあくどいものに見えてくる。
 
後日、通勤途中の車内で、この桃太郎ポスターの別バージョンを目にした。
それは「整列乗車にご協力ください」というもので、ホームに到着した電車から金銀財宝を抱えて降りてくる桃太郎軍団を、これから乗る人たちが整列して待っているという絵だった。
軍団先頭のキジは「マナー日本一」という旗を誇らしげに持っている。
しかし、マナーを守っているのはこれから乗る側の人間であり、彼らではない。
ちなみに前述の席を譲るポスターでは、キジは網棚の上で気持ちよさそうに寝ており、これはいくら鳥とは言えマナー違反である。
そんなお前が「マナー日本一」を謳うな! と思ってしまう。
さらに、軍団が凱旋よろしく意気揚々と降車している一つ向こうのドアからは、松葉杖と三角巾姿の鬼が一人寂しく降りてきていて、その対比がなんとも痛々しくもの悲しい。
桃太郎に敗者への配慮はないのだろうか。
 
ダメだ。
夫の鋭いツッコミのせいで、私は完全に桃太郎に悪い印象を持ってしまった。
 
そもそも桃太郎はなぜ鬼退治に行ったのだろう。
私の中でもその理由があいまいだったので、ネットで調べてみたものの、どうもはっきりとしない。
鬼が都で悪さをしていたと聞いているが、その悪さが具体的に何だったのかについては、女子供をさらっていっただの、金品を強奪していっただの、暴力をふるっていただの、諸説あるようである。
昔から歌い継がれている童謡「桃太郎」の中に、そのヒントが隠されているのではと思い、歌詞を検索してみて愕然とした。
なんと、この歌は六番まであるのだが、その四番と五番がひどいのだ。
さすがにこの曲、著作権は大丈夫だと思われるので、以下にその四番、五番の歌詞を引用する。
 
そりゃ進め そりゃ進め
一度に攻めて攻めやぶり
つぶしてしまえ 鬼が島
 
おもしろい おもしろい
のこらず鬼を攻めふせて
ぶんどりものをえんやらや
 
どうだろう。
 
「つぶしてしまえ 鬼が島」
そこまでやる必要があるのだろうか。
鬼がどんな悪さをしたのかはわからないが、鬼にだって生きる権利はあろう。
島ごとつぶすというのはいかがなものか。
 
そして、さらに恐ろしいのが次の歌詞である。
 
「おもしろい おもしろい」
 
ぞっとした。
彼らは完全におもしろがっている。
 
これを見て、何かに似ていると思った。
そう、昨今問題になっている「アンチ」と呼ばれる人たちである。
 
彼らは自分たちの行動基準から外れた行いをした人間を叩く。
それも集団で徹底的に叩く。
最初は「正義」という大義名分があるのかもしれない。
しかし次第にエスカレートしていって、弱っている相手をとことんまで追い詰める。
まさに「つぶしてしまえ 鬼が島」「おもしろい おもしろい」である。
 
彼らはそんな自分たちの姿を客観的に見ることがあるのだろうか。
そしてそれは自らの行動基準に沿っていると言えるのであろうか。
 
マナーポスターで鬼に席を譲っている桃太郎は笑顔である。
大けがをしている鬼に対し、悪いことをしたという気持ちは微塵も感じられない。
相手をボコボコにしたことを少しでも反省するのであれば、もっと申し訳なさそうにするものである。
それをあんなふうにへらへら笑いながら席を譲るということは、相手に慈悲をかけつつ、自分がしたことは全く振り返れていない証拠である。
 
人は自分の行動を客観的に振り返るのが苦手だ。
しかし、他人の行動であれば、ある程度客観的に見ることができる。
「アンチ」と呼ばれる人たちは、この桃太郎のマナーポスターを見てどのような感想を持つだろう。
桃太郎の所業と自分たちを是非とも重ね合わせて見て欲しい。
 
桃太郎という昔話は、やりすぎの物語である。
私たちの子供時代、桃太郎は悪い鬼を退治してくれたヒーロー的存在であったが、これからは、ついつい興が乗ってやりすぎてしまったやばい奴として、語り継がれていくべきではないだろうか。
 
考えてみれば、一人二人殺されたぐらいで、「許せん!」と言って何十人も斬りまくる桃太郎侍も相当やばい。
やはり桃太郎はやりすぎの象徴なのである。
 
 
 
 
***
 
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2020-06-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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