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人生に突如発生する「電源オフ」を乗り越える術


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記事:山添真喜子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
私達の生活は、思った通りにいかないことの連続だ。そんな日常をみな辛抱強く生きている。ただ、大半の場合、それは日常の前提の上での話である。しかし、今回のコロナウィルスの蔓延で、そのような生活の前提が吹っ飛んでしまった。外出自粛による仕事のキャンセル・遅延が発生、卒業式・入学式も通常通りには開催できない、準備していた講演会や目標としていた試合が中止となるなど……。
 
私は1年半前に、完全なる「人生における電源オフ」を経験した。その時の経験から、誰の人生にも何度か発生するであろう、「生活の強制終了」をどう乗り越えられるか、そのヒントをシェアしたい。
 
2018年の定期健康診断は、例年と同じ病院でいつも通りの検査を行った。いつもと違っていたことは、数日後に電話がかかってきたこと。電話先の看護師が明らかに動揺している。「詳しいことはお電話では話せません。すぐにクリニックに来てください」
当時の私は、単身赴任中の旦那の代わりに両親に助けてもらいながら、小学校1年生と5年生の娘を育てていたワーキングマザーだった。
「困ったな。今からクリニックだなんて」
日々パンパンに予定を詰め込んだ生活をしていて別のタスクなど入れようもなかったのだが、看護師の様子が尋常でなかったため、なんとか段取りをつけて夕方クリニックに向かった。
 
クリニックの医師は、慎重な精密検査を受診する必要があると説明しつつも、
「白血病である可能性が極めて高い」と言い放った。
何かの間違えではないのか? と私は全く納得しなかった。自覚症状はゼロで、かつ、2児を育てながらコンサルタントとして働く超多忙な生活をその日までこなしてきたからだ。
だが、私の希望的観測とは裏腹に、翌日大学病院で精密検査を受けた後、
「白血病と診断されます」と宣告を受けたのだった。
 
文字通り目の前が真っ暗になる経験を人生初めてした。うなだれる、というのがもっと正確かもしれない。
「あと何年? 何か月生きれるの?」
まさに死神がすり寄ってきた気分だった。
呆然として顔を上げることが出来なかった私に、医師が言った。
「白血病は不治の病のイメージが強いですが、今は治る病気なんですよ。ただ、治療に時間がかかります。最低6か月」
(え? 今は治すことができるの? 先生、それを早く言ってよ!!)
そして私が間髪開けずに発した言葉は、
「じゃあ先生、治してください。私はどうしたらいいですか?」だった。
病気になったら治すしかない。私のマインドはその瞬間から治療にフォーカスされた。
 
本来ならすぐにでも入院だが、今日は帰宅を許可するので必要なアレンジして明日から入院にしましょう、と医師は言う。
 
7月25日健康診断受診
7月29日クリニックからの呼び出し
7月30日精密検査後の白血病発症の宣告
7月31日大学病院入院・治療開始
 
まさに、すべてが強制終了だ。
仕事は当然休職となる。感染症予防のため、オフィスなど多数の人がいる場所には出入り禁止。電話やメールで会社とのコミュニケーションを行うこととの指示。
無菌室が完備されている白血病病棟には中学生以下は入れない。ただし、白血球の数値が高い時期は、私が共有スペースに出て、子供と面会することは可能。
信じられないレベルで自由のない入院生活が、突如としてスタートした。
 
では、このような想定外のビッグチェンジが起こった時に、私はどう対応して乗り切ったのか?
第一に断言できるのは、「人生における電源オフ」が起きたときには、発想の転換をしてしまうしかない。
「自分がリーダーをしているコンサルティングプロジェクトはどうしよう?」
「子供の世話は?」
「中学受験に向けて勉強している長女の勉強はどうする?」
明らかに、今までのような日常生活を続けることは不可能である。正直、1-2か月の入院だったら、計画通りに事を進めようとしていたかもしれない。ただ、私の場合、治療期間は最低7~8か月となることが分かった。さらに、病棟には1年超入院している方もちらほらいた。そんな極端な状況だったので、完全なる白紙撤回をすぐに受け入れることが出来た。今までの生活のTo Doを捨てると、気持ちは軽くなる。そして助けてくれる人が確実にいる。窮地に陥った時は、周りの皆の胸をかりて、はじめから大いに頼ってしまうのが一番だ。
 
次に、くさくさ・いじいじしないことだ。
「なんで私だけ病気になるの? 私がなにか悪いことしたの?」
など、考えただけ無駄である。
主治医に白血病発症の原因を聞いてみたが、
「白血病は原因不明なんです。交通事故にあったと思って下さい」と返された。
深く考えすぎて自分を責めてもなにも生まれない。
病気になったら治療に集中して、淡々とやれることをやるのみなのである。
 
3つ目は、シンプルな生活ルールの順守。
私が入院生活で心掛けたことは、
「ちゃんと食べ、筋力低下を防ぐための努力をして、ストレスをためないこと」。
私は複雑な医療の情報を求めるより、この単純な原則に耳を傾けた。抗がん剤治療中でも自分が食べられるものをどん欲にサーチし、なるべく三食食べるようにした。筋力維持のための運動は、もっぱら病棟のバイクを利用したが、元気になる音楽(私の場合は、辻井伸行さん演奏のショパンのエチュード)を聴きながら体調の良い日はできるだけ継続を心掛けた。ストレスや不安をためないように、(治療ブログは武勇伝的な部分があり、辛い内容が満載な場合があるので)同じ病気になった人のブログは読まなかったし、知っておくべき基礎的な知識以上に、細かな医療情報を求めないように心掛けた。
 
私が考える、「人生における電源オフ」を乗り越える術は、
① 発想の転換②自分を責めない③シンプルな生活ルールの順守と、実に単純なことだ。
この単純な心掛けが功を奏して、私は9か月の入院生活を無事に終え2019年春に無事退院し、その後順調に健康・生活を取り戻せている。この経験から、コロナウィルスのように生活を一変させるような出来事が起きた場合も、3つの術をベースに淡々と生活していこうと思う。
 
 
 
 
***

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2020-06-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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