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メディアグランプリ

喜怒哀楽


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:いいだれいこ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「結構かわいいじゃないか」
 
彼と出会ったきっかけは、市場だった。
 
緊急事態宣言が解除された週末の冷蔵庫は、空っぽで何もなかった。朝から暑いくらいの良い天気だったので、市場まで野菜を買いに自転車を走らせた。新鮮でカラフルな地場野菜がたくさん並べられている。今の旬はレタスなのか、様々なレタスがたくさん並べられていた。
スーパーで見かけるものよりはるかに大きい、2倍はあるだろう。立派で、ふわふわで、おいしそうなサニーレタスを購入した。
 
家に帰り、朝ご飯を作ろうとサニーレタスの葉をちぎったところに彼はいたのだ。
 
青虫だ。
まだ1.5センチくらいだろうか。しゃくとり虫のように動く姿がなんともかわいらしい。
葉っぱにいる青虫だから、きっとモンシロチョウだ。
 
いつもの私なら何の気なく捨てていたと思う。けれど、今は状況が違う。
3歳の娘が「虫」に興味を持っているからだ。青虫を発見しては、手に乗せて「かわいいねー!」と言ったりする。虫を育てて観察するよいきっかけになればと思い、娘と相談して青虫を飼う事にした。
早速、切ったペットボトルに穴あきラップを乗せるだけの簡易的な虫かごを作り、青虫とサニーレタスを入れた。
さぁ、飼育開始だ。
 
青虫は寝る間も惜しむように、ひたすらサニーレタスを食べていた。そして食べているそばから糞をする。食べた分だけ出しているのだろうか。あっという間に虫かごが汚れてしまった。気持ちいいくらいよく食べて、あっという間にサニーレタスがなくなっていく。
食べる姿を見ているのがとても楽しかった。
 
翌朝、青虫の様子を確認したところ、一回り大きくなっているではないか! 2センチくらいだろうか。明らかに大きくなっており、予想以上のスピードで成長することに興奮したのを覚えている。
それから毎日、目が離せないでいる。
そして、それと同時に沸き起こった気持ちが冒頭の言葉である。
 
すっかり青虫の虜になった私は、まるで好きな人が出来た時のような気持ちでいた。毎日のエサやりと虫かごの掃除なんて苦でも何でもない。毎日の様子を見るのがワクワク楽しみなのだ。
それは好きな人にご飯を作り、おいしいと言って食べてもらえる姿をじーっと見ているようなものだ。この上ない幸せである。
コロナ禍で思うように外に向けてエネルギーを発散できず、何となく悶々としながら自粛生活を送っていた日々に出来た小さな幸せである。
 
数日たった頃、順調に成長を続けていた青虫がサニーレタスの裏側で止まって動かなくなっていた。
どうしたのだろう、寝ているのか、それとも調子が悪いのか……心配で不安になった。
 
調べてみたところ、動かない理由は主に2つ。脱皮したり蛹になったりする時か、死んだ時か、らしい。幼虫でも死んでしまうことがあるようだ。見た目としては変わらないので、どちらの状態なのか区別がつかない。
結局見守るしかなく、私の心は一気に沈んだ。
好きな人が風邪を引いて横になった姿を見ている時のようだ。これ以上悪化しませんように……と祈る。
青虫が動かないことを発見してから半日が経過した頃、再び動き始めた。脱皮するための準備に入っていただけだった。
死んでいなかった。よかった!
無事に脱皮も終えたようで、また一段と大きくなった姿でサニーレタスを食べ始めた。3センチを超える大きさになり、横幅もやたら太くなっている。
 
ふと、ある疑問が頭に浮かぶ。この青虫は本当にモンシロチョウなのか?
エリック・カールの代表作『はらぺこあおむし』に登場する青虫もみどり色で、最後はきれいな蝶になるという話しだ。だから、青虫=蝶(モンシロチョウ)だと思っていたが、思い込みなのかもしれない。
気になり調べてみたら、たくさんの幼虫の画像や名前が表示された。茶色、みどり色、模様や毛の有無……、様々な幼虫がいるようだ。当たり前だ、幼虫といっても蝶、蛾、毛虫、たくさんいるのだ。これまでモンシロチョウだと思い込んでいたことの方がおかしいくらいだ。
 
まるで恋愛指南書を片手に好きな相手のタイプを調べているようだ。
私の想いを寄せる人はどんなタイプなのだ?
 
みどり色で、しゃくとり虫のように動き、サニーレタスを食べる……
調べること数十分。
うん? あった!? これかなぁ? これっぽいな……
タマナギンウワバ、ヤガ科。青虫は蝶ではなく蛾だったのだ。
指南書によれば、蝶はレタス(キク科)を食べない。つまり、レタスを食べている時点で蝶ではなく蛾だというのだ。
何ということか、私は自分の無知さを哀れみ、そして混乱した。
せっせとサニーレタスをあげていた日々は何だったのか。恨めしいような、裏切られたような複雑な気分だ。青虫からしたら、とんだとばっちりであろう。
 
青虫の飼育は、まるで恋愛のようだ。悶々としながらも感情の起伏が平坦になりがちだった自粛生活に変化をもたらし、喜怒哀楽の感情を呼び起こして私を興奮させてくれた。
ありがとう、青虫。
 
今、彼は虫かごの中で繭をつくり、少し丸まった状態で動かないでいる。蛹になろうとしているのかすでに死んでしまっているのかはよく分からない。無事に成虫になることを祈るばかりだ。
 
 
 
 
***

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2020-06-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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