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みちのくのセラピスト

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記事:(リーディング倶楽部)
 
 
こんな本を読むのは私くらいなものだろう。
数十年前に発刊されたはずの表紙は、図書館の中でかなり新品じみていた。
 
この「民俗資料選集」は国土地理協会が出版しており、日本各地の民俗の在り方をまとめたものだ。なので、あなたの街の図書館にもきっとある。
今回私が手に取ったのは、その内の「巫女の習俗Ⅴ」であり、私が住む宮城県大崎市近辺の土着の巫女について書かれている。つまり、イタコや口寄せと言った、東北に根深い巫女たちが生きた証である。なんてぞくぞくする本だろう。
巫女にはなんと男性もいるそうだが、多くは女性であり、盲目の者と晴眼(目が見える)者とに分かれている。大崎市内でも地区によって分布に差があるのが興味深いが、一般的に巫女は盲目の女性が就く職業であるようだ。
柳田国男、折口信夫の被差別の民俗学ではないが、やはり彼女たちは当時「まとも」ではない者たちであり、盲目の女性がひとりで身を立てるのは大変なことだった。
「目が見えなくなって、これ以外の職業がなかった」
このように語る体験談も寄せられている。
しかし注目すべきなのは、こうした土着の宗教者というのが、当たり前のように職業の選択肢として存在していたことだ。それくらい東北の中では、イタコや口寄せに頼ることが習慣として根付いていた、ということだろう。
さて、巫女になると決めた女性は、まずその道を教える師匠の元で世話になる。師匠の家のことをする傍ら、カミサマの拝み方や、口寄せをする際の呪文などを教わる。そして独り立ちの頃合いになると、カミツケの儀式が執り行われる。
カミツケとは、巫女を守護するカミサマをその身に降ろし迎える儀式だ。流派はそれぞれ異なるようだが、どうやらトランス状態になって神秘体験をするための儀式らしい。巫女の体験談によると、部屋の中央に座った状態で髪を七房に結われる。それから先達となる巫女が周囲を囲み、円を描くようにぐるぐると周り続けるようだ。その内だんだんと不思議な心地になり、
「お薬師さま」
などとカミサマの名前を叫び、その場に倒れる。それからは来て頂いたカミサマを丁重にもてなす宴会をして、カミサマに帰って頂き儀式は終了となる。
面白いことに、巫女によって叫ぶカミサマの名前は異なるらしい。師匠についていたカミサマを受け継ぐわけでなく、それぞれが名前を呼んだ相手に守護されて仕事を始めることになる。
また、巫女によっては独り立ち前に師匠から呪具を譲り受ける。念珠などの場合もあるが、東北に特徴的なのはオシラサマ信仰が現れる点だ。
オシラサマ信仰には諸説あるが、ここで出てくるオシラサマは厳重に木箱に収められたご神体である。その箱を開けた写真が本に載っている。なかなか刺激的なので、実際にお見せできないのが心苦しい。
オシラサマは、木の棒に布を括り付けられた姿をしている。それだけと言えばそうなのだが、古びた、おそらく色とりどりの(白黒写真なので)布が何重にも巻き付けられている様子は、なんだかひどく怨念じみており、異様な雰囲気だ。
巫女は、このオシラサマを新たに作るか師匠に譲られるかして、のれん分けして新たに店を出す。そうして、口寄せやオッパライ(悪霊払い)などの仕事で地元に受け入れられていくのだという。
この本の資料が集められた昭和五十年代の宮城県大崎市では、死人がでると日常的に巫女を呼んで口寄せしてもらい、死者の言葉を聞き出していたそうだ。
四十九日以内に口寄せすることを新口と言い、本には実際にその時に語られた言葉がおよそ十ページに渡って記されている。
巫女の口を借りた死者の言葉は、口述そのままの状態なのでなんとも読みにくい。だが、読んでいくうちにこちらまでトランスに誘われるような、不思議なリズムがある文章だ。その節に揺られるようにして読み進めると、どうにも哀しく、涙が出るような心地になってしまった。
実際のところ、この口寄せが本物であるのかどうかは、読んだだけでは分からない。死者は生前長く身体の不自由に苦しんでいたようで、家族に世話を掛けた申し訳なさが切々と述べられていた。こういった情報は事前に家族から巫女へ伝わっているものかも知れないし、口寄せと言ってそれを情緒的に語っただけなのかもしれない。
しかし、赤の他人の私が、記された言葉を紙で読んで心を動かされたのだ。実際にその場で聞いた遺族は、どんな心地だったかと思う。
用意があっても突然であっても、あちらへ行ってしまった身近な人は恋しくなるものだ。その人の言葉で、何を考えていたのか、今はどうしているのか語られることは、何にも代えがたいセラピーだったに違いない。その場を提供してくれる巫女を有難く思い、人々は巫女を生活に迎え入れていたのだ。
現在では、このように当たり前のように巫女がいる生活ではなくなってしまった。葬儀は葬儀屋が執り行い、関東と同じように死者を送り出す。
時代のなかで消えていってしまったセラピストたちの証を思い、私はこの本がもっと人に読まれるようにと、何度も本の表紙を撫でた。
 
 
 
 
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2020-08-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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