メディアグランプリ

爺孝行だと思っていたライティングは、祖父から私への孫孝行だった


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:石田友希(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
コロナの影響で、年末年始は里帰りを諦めたという人も多いのではないだろうか。 
我が家は遠方で暮らす親族を迎える側だが、今年は都会の親戚が帰省を断念したため、静かな正月となった。けれど祖父が健在だった2年前までは、盆や正月には必ず誰かが帰省して、賑やかに過ごしたものだ。話題の中心は、やはり懐かしい思い出である。 
祖父が兵隊に行った頃の話に始まり、伯父達そして母が幼い頃のこと、私達孫とのエピソードなど、昔話に花が咲くと祖父の焼酎はいつも以上に進んでいた。 
中でも印象に残るのは、かつて飼っていた愛犬エルの話だ。祖父が職場でもらってきたという雑種で、臆病な性格だったのか、風や虫の音に過剰反応して、とにかく吠えまくっていたらしい。そんなエルのことを母は「あまり賢くない犬だったのかもしれない」とクールに語る一方で、伯父は「あの頃は犬の飼育に関する情報が少なく、エルには大変な環境を強いてしまったかもしれない」と申し訳なさそうに話していた。伯父と母から様々な思い出話を聞いていると、同じ時間を過ごしているのに、捉え方も記憶している出来事も少しずつ異なり、家族とはいえ見えている世界が違うというのが、とにかく興味深く感じられた。 
加えて私は祖父の近くに住んでいたこともあり、他の親族に比べると話す機会が圧倒的に多かった。 
長男として大事に育てられた幼少期を経て、海軍の飛行予科訓練生になると、血のにじむような訓練に耐えていたこと、そして出撃=死が迫るという恐怖と日々闘っていたということ……。祖父の歴史を知ることは、我が家のルーツに触れることでもあり、私の中にはいつしか祖父の自分史を作りたいという気持ちが芽生えていた。 
ちょうど祖父の卒寿が控えていたこともあり、記念品として贈ることが目標となった。 
しかし締め切りが明確になったとはいえ、私に本を作るノウハウなどもちろんない。どうしたものかと悩んでいるところに、天狼院の「取材ライティング開講」の案内が目に留まり、これも何かの導きかもしれないと、即申込みを済ませた。3か月にわたる講座は、1か月目に企画書作成、2か月目に取材対象への質問案作成、3か月目に記事の執筆という流れで構成されており、講師の池口さんが毎回の課題に丁寧にフィードバックしてくださった。何より役に立ったのは、取材相手への対応の仕方である。普段から話を聞いていても、自分史となれば本格的なヒアリングが必要で、祖父に趣旨を説明すると「そんな大それたことしなくていいから」と初めは消極的だったのだ。けれど講義で取材相手も千差万別だと聞いていたことで、私は簡単に諦めることはなかった。取材慣れしている相手ならこんな手法で、慣れていない相手なら、気負わせないアプローチもあるとレクチャーしてもらったことで、祖父が自然と心を開けるスタイルを模索していった。スケジュール上、2か月程度で記事を書き上げなければならなかったため、一時期は休みのたびに祖父のもとを訪れていたほど。普段は「次はいつ遊びにくるのか」と聞いてくる祖父が「こんなに頻繁に来て大丈夫か」と心配しはじめた頃には、なんとか一冊分の聞き取りが完了していた。 
「取材ライティング講座」という拠り所があったことで、制作のヒントが得られたのはもちろん、創作意欲のある仲間に囲まれていたことが、支えになっていたのだと思う。さらに地元で校正・製本を請け負ってくださる出版社を見つけることもでき、無事に本の制作が完了した。 

祖父が亡くなったのは、卒寿からわずか7か月ほど後のことである。本当に突然の別れだった。当然、離れゆく寂しさや切なさはあったけれど、私の心に不思議と後悔はなかった。それは、完成した自分史をちゃんと届けられたという達成感があったおかげ、というよりも祖父と向き合ってしっかり話をして、想いを形にできたからだと思う。 
取材をするうちに祖父は胸の内を明かしてくれるようになり、30年前に亡くなった祖母を今も大事に思っていると静かに語ってくれた。そして何かを予見していたのか、伯父でも母でもなく私に「いつか自分が亡くなったら、こういう形で見送って欲しい」と言い残したのだ。もしかすると祖父は、私に爺孝行するチャンスを与えてくれたのかもしれない。 
「ああやっておけばよかった」「こうしておけばよかった」と、後に私が後悔しないためにも本を作りたいという孫のわがままに付き合い、自分の想いを託してくれたのだろう。 

先日受講したライティングゼミ第8講で、講師の三浦さんが「ライティングが人生を変える」ということの意味を解き明かし、書くことが自分自身の力になるのだと教えてくださった。私の場合はまさに祖父と後悔のないお別れができたことが、前へ進む力になっている。 
4か月の講義が終わり、技術的にはまだまだ発展途上だが、ライティングで人生が動いていくのだと改めて実感しているところだ。目的意識をもって書いていけば、その先に新しい出合いや思ってもみなかった選択肢が広がっていくのだろう。試行錯誤は覚悟の上だ。この先も熱意をもって書き続けていきたい。 
 
 
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2021-02-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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