メディアグランプリ

クラスで友達を作れなかった私が、初対面の人と楽しく話せるようになった理由

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鈴木さん 

 

記事:鈴木 彩子(ライティング・ゼミ)

 

学生時代、クラス替えが苦手でした。私が通っていた学校は1学年8クラスで、1クラス30人くらい。これが1年に1度シャッフルするわけですから、クラス替えの度にクラス内は知らない人であふれかえります。分かっているのは、同じ学校に通っている同い年の人ということくらい。誰にどう話しかけていいかわからずに、みるみる構築されていく仲良しグループを、壁際でぼんやりとながめていました。

初日をしくじると、その後に待っているのは、なんとなくあぶれたまま過ごす1年間です。厄介なことに、私自身にも「何が何でもどこかしらのグループに入らなければ!」みたいな欲求や熱意がなかったものですから、ザ・青春という感じで楽しげに過ごすクラスメイトを、テレビの向こう側の生き物みたいな感じで、半ばうらやましく、でも自分には関係のないものとして見ていました。
いま考えると、あの大人数の中に放り込まれて「誰とでも何でもいいから話してごらん!」みたいな状況に適応できなかったんだと思います。誰とでも何でもいいから話すって、簡単そうに聞こえますけど、なかなかの高等技術ですよねぇ?

でも、大人になってから出会った友達に「私、根は人見知りだから」と言うと、99%の人が「いやいやいや、何言っちゃってんの~?」と笑います。そりゃそうです。ひとりでふらっと飲み屋さんに行って、たまたま一緒になった初対面の人と談笑しながらお酒を飲んだり、顔や名前を覚えてもらえるほどお店の人と仲良くなったり。面白そうだと思ったイベントにはひとりでホイホイ出かけていくし、そこで出会った人と連絡先を交換して、後日改めて一緒に遊んだり。確かに「人見知りとか、何言っちゃってんの~?」です。あの学生時代の私はどこにいってしまったんでしょう?

きっかけは、小さなたこ焼き屋さんでした。奥に細長いお店で、通りから見えている部分の幅は成人男性3人分くらい。そのうちの1.5人分が厨房に繋がったテイクアウト用の窓。残りの1.5人分は、重たそうなガラスの扉。お店の名前がでかでかと貼ってあって、ガラスの扉といえども中の様子はぜんぜん見えません。
でも、重たそうな扉に対して、店長さんはむちゃくちゃノリの軽い人でした。ほら、たまに居酒屋とかで出会いませんか? やたら軽快なトークで懐に飛び込んでくるタイプのスタッフさん。あんな感じです。お願いしたたこ焼きができ上がるまでの間、テイクアウト用の窓からあまりにもきちんと声を張って親しげに楽しく相手してくれるものだから、これをお客さん全員に対して一日中やっているとしたら大変だよなぁ……なんて思って、つい聞いちゃいましたもん。「ずっとそのテンションなんですか?」って。初対面なのに。しかも今と違って、知らない人とのおしゃべりにまだ苦手意識がある頃だったのに。

その後、何度かテイクアウトでたこ焼きを買いに行くうちに店長さんと親しくなった私は、ある休日の午後、例の重たげなガラスの扉を開けて、初めて中に入ってみました。扉の向こうはカウンター式の客席になっていて、その日はスーツ姿の男性客が2人、ゴキゲンな感じでおしゃべりしていました。扉の開閉だけで注目を浴びてしまうような小さなお店です。入った時にその男性客2人と目が合いました。私はぎこちなく会釈をしたそのままの流れで早々に目線をそらし、カウンターの端っこに座りました。

慣れない飲み屋さんの雰囲気を大人しく楽しんでいると、先ほどのスーツ姿の男性客の1人が話しかけてくれて、おしゃべりの輪に加えてくれました。どうやら開店当初からの常連さんのようで、店長さんをファーストネームで呼んでおしゃべりに巻き込みながら、お店のこと、オススメのメニュー、たわいない世間話など、実にいろいろな話をしてくれました。内輪ネタで盛り上がったときは店長さんが説明をはさんで、私が置いてけぼりにならないようにさりげなくフォローしてくれました。私は初めてひとりで入った飲み屋さんで、時間を忘れて、自分が人見知りだということも忘れて、よく知らない誰かとのおしゃべりを心から楽しんでいました。
さらに、その後に出会った他の常連さんたちも、このスーツの常連さんと同じように、何気なくスッと話しかけてくれて、つかの間の楽しいひとときを共に過ごし、そして「またここで会えるのを楽しみにしてますね」という感じでさらりと席を立つような、気持ちのいい人ばかりでした。そんな常連さんたちと出会い、なんならその常連さんが贔屓にしている別のお店にも連れて行ってもらったりしながら、私は少しずつ、初対面の人と話すことに抵抗がなくなっていきました。どう話しかけて何を話せばいいのか、ほんの少しだけど分かってきたからかもしれません。

ここで「今ならクラス替えももう怖くありません」くらいのことを言えたらいいのですが、残念ながら、今でも私はクラス替えのあの状況で、同じことを繰り返す自信があります。やっぱり、大勢の中に放り込まれて、誰とでも何でもいいから話すのは難しいです。
でも「少人数なら何とかなる」ということは学びました。初めは店長さんと1対1。次は常連さんとそのお連れさんとだから、1対2。そもそもカウンターでたまたま一緒になった人と話そうとすると、その会話の射程距離は2~3人が限界ですから、自ずと少人数でじっくり話すようになっていくわけです。これは私にとって、とても心地いい環境でした。

「学校はコミュニケーションを学ぶ場でもある」というようなことを聞いたことがあります。確かにそうかもしれませんが、今の私には少し語弊があるように思えてなりません。学校で身につけられるコミュニケーション能力とは「1対多数という高難度のステージに突然放り込まれた際に発揮できるサバイバル能力」と言い換えることのできる、コミュニケーションの中のごく一部分にすぎないのではないかと思うのです。それなのに、この高難度のステージに丸腰で突入してうまく人間関係を築けなかったというだけで、自分のことを友達を作る能力の低い人間なんだと判断するなんて、ずいぶん長い間つまらない考え方にとらわれていたものだなぁと思うのです。

相変わらず、学生時代の私はどこにも行っていません。大勢の中は苦手だし、初対面に限らず、人に話しかけるときは緊張します。でも、そんな苦手意識や緊張を上回るくらいの楽しさと、学校では出会えなかった人間関係の作り方を、あの小さなたこ焼き屋さんが教えてくれました。履歴書には書けないけど、今まで通ってきたどの学校よりも愛着のある、母校です。

 

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2016-01-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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