メディアグランプリ

私の職場は、雰囲気たっぷりの未鑑定品

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miyaさん 私の職場

記事:Miya(ライティング・ゼミ)

 

― ―古き良き職場って感じだね
― ―今時そんな会社で働けるなんて、うらやましいよ

時は平成27年12月初頭 午前9時、場所は福岡県福岡市。
私は、上司の「とことん飲め! そして、仕事をしなくても良いから這ってでも職場へ来い」というモットーを死守し、縋るようにマウスを握り締め、若干焦点の合わない眼で、
表計算ソフトの数値を追っている。

私たちの仕事は、様々な業種業態の企業から受発注のデータを預かり、加工し、出荷場に渡すという仕事をしている。ここでいう加工とは、宅配便の送り状の印刷や、倉庫業者に荷物の取り扱いが記された出荷指示書や納品書、熨斗等を帳合いして渡す、所謂、出荷作業を示している。
繁忙期は、ギフト時期の1か月前から始まる。12月末のおせちを皮切りに、バレンタイン、父の日、母の日、夏ギフト、敬老の日、冬ギフト、クリスマスが主なイベントだ。
つまり、荷物が動く時期、即ち”忙しい”時期なのである。

業界にこだわらないこの仕事は、人付き合いも多く、
仕事場の話を社外の方にすると、必ずと言っていいほどお褒めの言葉を頂ける。
世の中の流れに反して「飲みニケーション」がコミュニケーションの主体、
社員の付き合いというよりは、父役、母役、叔父役と言ったような家族的な繋がりが
懐古の情を起こし、人によっては新鮮さを与えるらしい。

確かにコミュニケーションの乏しさが問題視されるこのご時世、
人間関係が濃い職場は珍しいのかもしれない。

兎にも角にも、私たちは、長年変わらぬメンバー、変わらぬやり方で培ったこの強い繋がりの中で仕事を熟して行くことが出来るのである。

自賛にはなるが、品質も悪くはない。
九州には、数十年来の付き合いの顧客も多くいる。

ずっとこのまま何も変わらないのだろうと思っていた。

一週間ほど前のことである。

― ―再来月、部長が別部署から来るんやって?
― ―聞いた、聞いた。東京の本社から来るっちゃろう?
なんかウチとは全然関係のない仕事をしている部署の人らしいんよね。

気分転換に皆で出かけた「から揚げ専門店」で、
ランチセットの南蛮に箸を突き刺しながら、先輩社員たちがポツリポツリと話し出す。

九州― ―とりわけ「福岡」と言えば、ドラマの登場人物やアイドルの左遷先としてもメディアに登場する。
わが職場も例に漏れず、この度、本社の事業部統廃合と言う方針の元、社内天下りが発生したのだ。慢性的な人材不足から、手近なところから管理職を擁立できず、防衛策を講じることすらもできなかったのである。

― ―今度の部長、上に良いようにしか言わんのやろう?しかも、下は守らんて。
― ―部長が来たら仕事のやり方も社内標準に変えんといかんのやろう?
業務ごとにマニュアルもドキュメント作らなきゃならないし……
ウチで作っても誰が見るのよ。

皆が話し終えるころには、口に放り込んだ出来立ての南蛮の味が、
閉店間際のスーパーのそれと変わらなくなっていた。

ピー……カシャカシャ……ピー……カシャカシャ……

朝の定時FAXの音に
パソコン画面から視線を上げる。

東向きの窓、ブラインドの隙間から滑り込む日差しは
私たちの職場を容赦なく照らし出す。

雰囲気たっぷりの未鑑定品の
真価が問われるタイミングはすぐそこまで迫っている。

 

***
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2016-01-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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