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メディアグランプリ

黒たてがみの、ちいさなヒーロー


記事:諸星 久美 (ライティング・ゼミ)

かつて、私が勤めていた幼稚園では、毎年12月上旬にお遊戯会があった。
秋の運動会が終わるとすぐに、担任はクラスの出し物を思案し始める。
自分の中で演目が決まれば、次は、大まかな台本を作る。それと並行して、給食の時間などに、作中で使用する曲を流したり、絵本を読み聞かせたりして、作品に親しみを持たせていきながら、何気なく日常の中で導入をするのだ。
そして、いよいよ子どもたちに、
「今年のお遊戯会では、これをみんなとやってみたいんだけど、どうかな?」
という運びになる。
肝心なのは、その質問をした時に、ぱっと目を輝かせる子がちらほら見えること。
パチパチと手を叩いたり、「知ってる~!」と歓声を上げる子がいればしめたものだ。
ノリの良い子が数人いれば、そのムードにのまれて気持ちを高めていく子もでてくるからだ。

幼稚園で働きはじめて4年目の、担任歴3年目だった私は、その年に6歳になる年長クラス、たけぐみの担任だった。
そしてその年、子どもをのせていく為にも私自身が好きな物語が良いな、と選んだのが、『ライオン・キング』だった。
レンタルショップを回ってみれば、いくつもサントラがあり、音響の心配はない。
また、ディズニー映画ということで、映画を見ている子もいて、導入としてクラスに絵本を飾っただけで、なかなか良い反響があった。
「いける」と確信しながら絵本を読み聞かせ、サントラ流しを経て、子どもたちに演目発表をしてみれば、
「やった~」
だの、
「映画見たことある~」
だのと声があがり、私は胸中でガッツポーズをとった。

次は、配役決め。
実はここが難関なのだ。
なぜなら、クラス30人全ての子が、自分の納得のいく役について欲しいと思うし、運動会などの他行事で花形の役をやった子は、主役級の役でないものを選んでもらうよう上手く運んでいくのが、どの子にも一度はスポットライトを、という園の方針にも叶うし、保護者も納得するからだ。

シンバというライオンの子の、誕生から、王になっていくまでの成長を描く『ライオン・キング』の主役は、もちろんシンバ。
その周囲を固める役、シンバの友だち、雌ライオンのナラや、シンバの父、ムファサなどは希望が集中するが、悪役の雄ライオン、スカーや、シンバの友だち、イボイノシシのプンバァなどに進んで手を上げる子はいない。

ならばと、プンバァ登場シーンの『ハクナ・マタタ』という、ノリの良い曲を流して思案中の踊りを見せ、「衣装はこんなふうにするつもりなんだ~」などと絵コンテを見せてみると、
「ぼく、プンバァにする~」
と、T君がシンバ役から、プンバァ役へと移行してくれた。
そんな彼に感謝の気持ちを持って誉めたたえると、
「私も、ナラじゃなくて、ラフィキ(ヒヒ)にしようかな」
とYちゃんが続いてくれる。
その柔軟な心を好ましく思いながら、オープニングは、ラフィキ役の彼女が、誕生したばかりの赤ちゃんシンバを掲げる場面に、スポットライトを当てるシーンから始めようと思いつき、
「ありがとう。偉いね」
と、私は小さな手をぶんぶんと握った。

けれど、悪役のスカーと、その仲間のハイエナ役が決まらない。
そこで、スカーは悪役だけれども、物語の重要な役であることや、戦いのシーンがあることなどを話してみると、やんちゃな男の子がうずうずしはじめ、
「じゃあ、ハイエナやる~」
「僕も、ハイエナ!」
「ぼくも~」
と、なぜか役のかぶっていた子が皆ハイエナを希望。
「ありがとう。でもみんながハイエナだと、悪役のボス、スカーがいなくなっちゃうな……」
少しばかり大げさな演技をして、困った感を出す私を見て、
「じゃあ、僕スカーやるよ」
とK君の鶴の一声があがり、その瞬間、30人全ての配役が決まった。
「ありがとう、K君。物語では悪役だけど、みんなのために動いてくれたK君は、とってもかっこいいよ」
そう告げると、K君はふにゃりと目じりを下げて笑った。

しかし、その日の午後。K君が私のところへきて、
「先生? スカーって何?」
と、驚愕の質問をしてきた。
私のびっくり顔の前で、首を傾げるK君。
「どんな役かも分からないのに、スカーを選んでくれたの?」
頷くK君。
「K君がお話を分かってから、もう一回役決めしようか?」
どう答えていいものかと、もじもじするK君。

まあ、5~6歳児の子が30人もいれば、こういう子もいるでしょうよ、と苦笑しつつ、どんな役かも分からないのに、スカーを受けてくれた彼の心の背景には、私(担任)やクラスの皆が困っているから僕が動いてみようかな、という気持ちが、微塵でもあったのだろうと想像して、嬉しい思いを抱いたものだった。
そんなK君だからこそ、ちゃんと納得した上で役について欲しいと思った私は、K君に絵本を読み聞かせ、今一度、
「もう一度役決めしようか?」
と問いかけた。
首を振り、
「僕、スカーやるよ」
と答えたK君に私は安堵し、
「物語の中ではスカーは悪役だけど、K君が悪者ってわけではないからね。それに先生、さっきK君が『スカーやる』って言ってくれて、本当に嬉しかったんだよ。かっこいい衣装作るし、戦いのシーンの照明もかっこよくするから、がんばろうね」
と声をかけると、彼はまた、目じりをさげてふにゃりと笑ったのだ。

私はその笑顔を見ながら、強いこだわりを持たずに、柔軟に目の前のことを受け入れていける、K君のような子(人)が、見えないところで世の中のバランスをとっているのかもしれないな……などと、ぼんやりと思ったものだった。
反対に、泣き落としでナラ役を勝ち取った女の子もいたりして、そういう個性や、ガッツも私は嫌いではないのだけれど、30人集まって、皆がそのようなソウルの持ち主では、物事が進んで行かないと考える時、やはり、K君のような子の存在は貴重な存在に思えてくるのだった。

そんなたけ組の子たちは、今年23歳になる。
成人を過ぎた彼らの記憶の中に、練習でも、お遊戯会後も、配役を変えて劇遊びを繰り返して親しみを持った『ライオン・キング』の曲は、どのように残っているのだろう。
残っていなくても、全くもって構わないのだが、私は17年経った今でも、オープニングとフィナーレに使用した『Circle of Life』や、エルトン・ジョンの『Can you feel the love tonight』を聴くたびに、彼らと過ごした日々を懐かしく思い出し、黒いファーのたてがみをつけてスカー役を演じてくれた、K君の笑顔を愛しく思い出すのだ。

 

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2016-07-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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