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メディアグランプリ

はたらく親指の主張を聞こうじゃないか


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:つたちこ(ライティング・ゼミ)

「あっ!! 痛っ!!」

一瞬の衝撃の後に、痛みが右手の先からビリッと伝わってきた。
思わず手に持っていたニンジンを取り落とし、左手で右手の親指の付け根をぎゅっと握りこむ。
みるみるうちに、真っ赤な血がぽたぽたっと零れ落ちた。
慌てて水を出して親指にそっとかけると、事故現場があらわになる。親指の側面に2か所、細長くざっくりと刃物でえぐられた跡が見えた。不幸中の幸い、切り取られてはいない。

うわー。久々にやってしまった……。

しばらく洗い流してから水を止めると、すぐにまた血がむくむくとあふれてきた。
「ティッシュ! ティッシュ!」
「ばんそーこ取って、ばんそーこー!」
声を聞きつけて台所に来た夫に、ばたばたと世話を頼む。
なんとか傷口に絆創膏を貼るところまでたどり着いたが、付属のガーゼはどんどん赤くにじんでいく。

「その『ざくり』をやりそうで、アレ使うのが怖いんだよな」
夫は、自分がケガしたかのように痛そうに顔をゆがめながらいう。
アレ、とは、料理用の便利グッズ、スライサーだ。
しかもただのスライサーではない。でこぼこの四角い刃がいっぱいついていて、ひとスライスで千切りが20本くらいできるスライサーだ。硬いニンジンでもよく切れるので、お気に入り。
つまり私の親指は、2本の千切りになり損ねたわけだ。

切りたての傷はズキズキとアピールが激しい。
うぅぅ。痛い。
普通に包丁で切るのも痛いけど、四角い刃物でえぐられるのはまた格別に痛い。

「それにしても君は、よくヤケドとかケガとかするよね」
利き手の右手が使えなくなった私の代わりに料理を始めた夫がいう。
そう、たしかに私はよく料理中にいろいろやらかす。基本的に自分自身の取り扱いが雑なのだ。
これくらい大丈夫っしょ! という気持ちで取り組んだ結果、熱いものにそのまま触ってヤケドしたり、ギリギリのところを包丁で切っていて一緒に指を切ったりする。
今回も、危ないかなと頭のどこかで思いつつも、「まだいける!」とごりごりスライスし続けた結果、自分の指までうっかり千切りにするところだった。

「はあ、そうだね。たしかに」
右手親指の根元を左手でぎゅっと握って痛みをやり過ごしながら、夫の料理の行方を見守る。作りかけのニンジンの千切りは無事にサラダになった。
あまり反省していないのは自覚している。
料理は刃物や熱源を使って作るものだから、多少のキズは当たり前で仕方ないのではないか、と思っているからだ。とはいえ、今日のキズは結構大物ではあったけど。
その日は途中交代して夫に作ってもらった料理を食べて、洗い物もやってもらった。ありがたや。

さて、その後ケガした親指を抱えて、まず困ったのはお風呂だった。
なかなか血が止まらなかったこともあり、水につけたくなかったので、食品用のラップで親指をぐるぐる巻きにしてから輪ゴムで止めてお風呂に入った。
キズに水は入らなかったけど、いつも通りお湯を汲もうとしたら、親指に力が入って痛みで洗面器を取り落とした。
頭を洗うのにも困った。「いつも親指なんか使ってないし」と思っていたが、洗おうとしたらとてもやりにくい。実は親指を使ってうなじの上部分を洗っていたらしい。今まで全く意識してなかった。
服を脱いだり着たりするのにも、いちいち痛みが走って親指の存在を主張する。

翌朝、靴下やタイツを履くのにも困った。
靴下やタイツを履くときには、履き口の内側に両手の親指を突っ込んで左右に広げて足を入れる。
その「突っ込んで広げる」ときに親指に力が入ってキズが痛むのだ。
こんな作業で親指に頼っていたとは想定外だ。
しかもうっかり力を入れすぎると、また血がにじんでくる。

親指一本怪我をしたくらい大したことない、とちょっと軽く見ていた。
なんて不自由で厄介なんだ。たった一本の指の小さなケガが、私の行動をものすごく縛る。
逆に言えば、普段意識をしていないだけで、親指はいろんな場面でめちゃくちゃ働いているということだ。

想像してみてほしい。
あなたのスマホのバッテリーが切れてしまった時のことを。
何かちょっとした調べ物をしたいとき。だれかとメッセージのやり取りをしたいとき。あるいは、なんとなく暇つぶしをしたいとき。
いつもなら何気なくスマホを立ち上げて指先でいじれば解決することばかりだ。
そんなスマホが突然使えなくなった。充電もすぐにできない。

不安に思いつつも、しばらくの間は仕方がない、と、あきらめるだろうか。
きっと、一度あきらめても、何かの拍子にうっかりいつもの癖でまたスマホを取り出してしまうだろう。癖は、無意識にやってしまう行動だ。頭で「あきらめる」と思っても通じない。
そして何度取り出してボタンを押しても画面は真っ暗なまま。「そうだった、使えないんだった」と絶望する。スマホを充電して使えるようになるまで、何度も何度もつい取り出しては、がっかりを繰り返すのだ。
やりたいことができないことに苛立ちながら、いかに普段スマホに頼っているかを自覚させられるに違いない。

普段の生活になじんで当たり前になってしまっているものほど、その重要さは見落としがちだ。当たり前すぎることだから、使えなくなってから初めてそのありがたさに目が覚める。

親指のキズは、3日も経つと力を入れても血がにじまなくなり、5日経つとほとんど痛みもなくなった。
人間の体の回復力って、すごい。
キズ痕は、まるで映画で見た吸血鬼にかまれた痕のように、2か所平行に並んで赤黒くなっている。
そろそろ絆創膏もいらないかもしれない。
徐々に以前のような「当たり前の生活」が戻りつつある。

そのうちこのキズは、今までのほかのキズと同じように、あったかなかったかわからないくらいの存在になってしまうだろう。
たぶん私はしばらくしたら親指が使えるありがたさを忘れて、当たり前のように何も考えずに使い続けるだろう。

つまり、私の親指のキズは、普段黙々と働いている「当たり前」の重要さを主張するためにできたのに違いない。
このキズが治っても、きっとそのうち私は何かしらの新しいキズを作るだろう。
それはきっと、キズによってわかる存在のありがたさに気付けるチャンスなのだ。
……なんて、うっかり&雑な私の、都合のいいケガの言い訳なのだけど。

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-11-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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