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会えない時間が育てたのは愛だけではありませんでした。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:櫻井 るみ(ライティング・ゼミ)

私の職場は常に忙しい。
『忙しい』という状態が通常の状態なので、本来の『忙しくない』通常の状態が思い出せない。
今年の3月に、派遣として初めてこの職場に来たときは、皆が当たり前のように残業している姿を見て、正直うんざりした。

自分もこの中で残業をしないといけないのかと……。

他にも、やたらと会議や研修、講習会が多い。
要するに業務以外のことが多いのだ。

会議が今の半分くらいになって、社員研修が年1回くらいになれば、こんなに残業しないですむんじゃないかな~と、会議も研修もない私は思っていた。

が、やはり人間は環境に慣れる生き物だ。
いつしか私も、職場のその環境が当たり前になってきた。
残業も2時間くらいなら平気でするし、全体会議なら出るようになった。
さすがに正社員ではないので研修はないけれども、業務に必要な講習会は何回か受けた。

以前、上司に「派遣社員だけれども、正社員と同じ立ち位置でやってほしい」と言われたので、なるべく参加するようにはしている。

とはいえ、私はあくまで派遣社員。
正社員と同じ仕事をするけれども、自分の立ち位置は『補佐』……というスタンスでやっていた。
今まで。

それが覆ったのは、先日のことだった。

隣の席の彼が出張で1週間いなかったのだ。

私たちの課は外に出ることはほとんどない、内勤のお仕事だ。
なのに、なぜ彼が出張に出ることになってしまったのかというと、別の営業所で急に入院することになってしまった人がいたのだ。
タイミングの悪いことにそれに月末が重なってしまった。

人手不足のうえに主力を欠いたその営業所に、彼がヘルプで入ることになったのだ。

本当は彼をその営業所に異動させようかという話も出ていたし、彼は早いうちから自分の異動の可能性を私に話してくれた。
その話を初めて聞いたときの私のリアクションは今思い出すと非常に恥ずかしい、子供のリアクションだった。

「そんなの嫌です! やだやだやだやだ!」

……あー、恥ずかしい……。
彼の前でこの時ほど『年上の女性』の仮面が剥がれたことはないと思う。

「俺だって嫌ですよ。ただ、まだはっきり決まったわけじゃないんで」
私があまりにも不安げな顔をしていたのか、彼は少し焦ったようにそう言っていた。

結局、入院は10日ほどのものなので、月末で本当に忙しくなる1週間だけ手伝ってくれれば……ということで落ち着いた。

異動の話はとりあえずなくなったものの、彼が1週間いないということで、新たな不安が私の中に渦まいていた。
私は彼が持っていた仕事を受け持っている。
けれども、先方とのやりとりはほぼ彼が窓口になっていたし、商品に関して問い合わせがあった時にまだ上手くは答えられない。

もちろん彼も全部を私一人に任せることはなく、他のベテランの方に自分がいない間のことを託していった。
分からないことがあったら、いつでも電話してきていい……とも言っていた。

それでも、急なトラブルやイレギュラーな仕事が入ったときに、自分がそれをこなせるか不安だった。

そして、不安と寂しさを抱えたまま、その週になった。

月曜・火曜は何事もなく無事に済んだ。
むしろ少しヒマだったくらいだ。
それはうちの課が全体的にそうだったらしく、その日は皆、定時で上がれていた。

水曜・木曜になって少し忙しくなった。
だけれどもそれは、通常の『忙しい』状態だったので、多少残業するくらいで乗り切れた。
「大丈夫?? 終わりそう??」と声をかけてくれる同僚にも「大丈夫です」と笑顔で答えることができた。
でも、気遣ってくれてるんだな~と思うと、同僚の優しさが沁みた。

金曜になって、このままなら1日乗り切れそう……と思った矢先にそれは来た。
その仕事は、会社の売上げを左右する大事な仕事だった。

実は、その仕事について事前に彼に聞いていた。
「もし、いないときに私に月末のあの仕事が振られたらどうしましょう?」と……。
彼の予想は「多分、櫻井さん一人だけのときに振ることはないと思う」だった。

彼の予想ははずれてしまい、その仕事を私だけでやることになってしまった。
しかも、普段なら1日くらい余裕があるのに、今月に限ってリミットは今日のお昼まで。
間違えたら、客先はもちろん、社内的にも迷惑をかけることになる。

他の仕事は置いておいて、その仕事だけに集中した。
彼に電話しているヒマもないので、わからないことは他のベテランさんに聞いて、一緒にPC画面を見ながら教えてもらった。

そうして終了したのは、お昼12時になる10分前だった。

終わったという安心感と達成感。
まだ、午前中が終わっただけなのに、
他の仕事はたくさん残っているのに、
私は今日1日の仕事を全部終わらせたような心地よい疲労感の中にいた。

午後になり、彼から電話が着た。

「あの仕事、来ちゃいました。あの月末の入力」
「え! 来たの? 櫻井さん一人だったらこないと思ったんだけどなー。悪かったね」
「とりあえず、最優先でやったんで終わりました。さすがに朝、いきなり『やって』って持ってこられたときはイラッときましたね~」
「だよなー。あの仕事、割に合わないよなー」

くだけた口調になる彼。
私に対して、こんな風になるのは珍しい。
ああ、なんか、ものすごい連帯感を感じる……。

翌週、彼は帰ってきた。
だけど、月末の緊急で重大でイレギュラーな仕事のせいで、彼が帰ってきても仕事はてんこ盛りのままだった。

それがやっと落ち着いた先週。

彼から告げられたことがあった。

「俺、また新しい担当持つことになったんで、今やってもらってる○○社と△△社は、本当に櫻井さん一人でやることになるかもしれない。だから、俺の補佐じゃなくて『自分の担当だ』くらいの気持ちでやってね」
「マジですか……?」
「1週間、俺がいなくてもこなせたんだから大丈夫でしょ? それに、今すぐ突き放すわけじゃないから」
「……はい!」

そう。
彼がいない1週間を乗り越えたことは、私の中で大きな自信になった。

落ち着いて対応すればトラブルも片付くこと。
焦って答えを出そうとしなくていいこと。
そして、もっと周りを頼っていいこと。

私は彼にばかり頼るあまり、周りの頼れる人のことを見ていなかった。
だから、彼がいないなら自分で何とかするしかないと思い込んでいた。

だけれども、入社して8ヶ月の人間がいきなり全部をこなせるわけがない。
それは私よりも周りの人の方が良く分かっている。

だからこそ、彼がいない間にあんなに気遣ってくれたのだ。

今まで、彼が休むことが不安だった。
『トラブルがあったらどうしよう……』
『分からないこと聞かれたらどうしよう……』
不安で怖くて、だから彼に休んでほしくなかった。
もしかしたら、会えない寂しさよりもその不安の方が強かったかもしれない。

でも、今はもう平気。
彼がいつお休みを取っても大丈夫。
働きすぎの彼が休むのを「どーぞ。どーぞ。休んできてください」と笑って言える。

「俺もう帰りますけど、後何が残ってます?」
「あと、この書類整理して、こっちをFAXしたら終了です」
「あ、じゃあ俺、FAX送りましょうか?」
「ありがとうございます!」

FAXを送り終えて戻ってきた彼。
「じゃあ、お先に。雨、気をつけてくださいね」
「はい。お疲れ様です」

最近、彼は変わった。

私を一人残して先に帰ることがあるのだ。
以前は、私が残っていたら絶対に帰らなかった。
私を先に帰らせて、彼が仕事の残りを引継ぐこともあった。

『一人で残しても大丈夫』っていう信頼ができたのかな?

もしそうだとしたなら、嬉しい。

少しでも、私が残している仕事を減らそうとしてくれる優しいところは変わらないけど。

***
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2016-11-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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