メディアグランプリ

彼女たちが受け取るべきギフトを享受する


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:島袋裕子(ライティング・ゼミ日曜コース)

いわゆるオタクな私にとって、一番の娯楽は昔っからまんがを読むことである。アニメも好きである。
私は、一般的にテレビ放送されているアニメや、書店で販売されているまんがだけではなく、ファンたちが描いたパロディまんがや小説、つまり二次創作と呼ばれる同人誌もちょこちょこ買って読んでいる。

彼女の作品を知ったのは某SNSだった。自分のタイムラインにたまたま上がってきた絵が気に入ってフォローした。
彼女はまんが同人誌を作っており、主にイベント会場で頒布しているところ、期間限定で通販するとのことだったので、すぐに2冊取り寄せた。

話そのものの面白さはもちろん、場の匂いや温度、空気の流れや音まで伝わってくるようなまんがでとても満足した。
買ったうちの1冊は、二十年程前に放送していたアニメのパロディで、私は放送終了以来見たことがなかったが、彼女のまんがを読んでると、すっかり忘れていたキャラクターの声まで蘇ってきて、大笑いした。

同人誌というのは、商業誌より少ないページ数の割に値段が高い。なので、後悔することも少なからずあるが、買ってよかったと思った。

すっかり彼女の作品と人柄のファンになり、SNS上で、彼女の呟きに対して他愛のない一言二言送ったリプライに、また他愛のない返事が返ってきたときは小躍りするぐらい嬉しかった。
それから程なくして、彼女の定期的なつぶやきに、胃袋がひっくり返るほどの衝撃を受けた。

「私は耳が不自由です。生まれつきの高度難聴というやつです」

えええええ!!!!!
スマホを握りしめたまま、大声を出してしまった。
私は音を知らない人から、想像上とはいえ、音や声を受け取っていたのだ。

すぐに彼女のまんがを読み直した。いや、読むというより、1ページ1ページ、1コマ1コマ、まんがの構成を確認した。構図、コマ運び、台詞……

更に驚いた。

まんがによくある擬音語や擬態語が殆ど使われていない。
読んでる最中は全く気がつかなかった。

彼女の力量に低く唸った。
オノマトペを使った直接的な表現をせず、如何に世界感を伝えるか、彼女の感性と努力と執念。

イベント会場でご本人に会える機会があったので、上記の内容を手紙にしたためて、震えた手で渡した。直接的な返事は貰えなかったが、しばらくして、その事に触れたコメントがSNSに上がった。

『私はこの通り耳が不自由なので、擬音に自信がない。読んできた漫画で得た知識しかない。なので、大事な場面で場違いな擬音でぶち壊さないか心配なのです』

耳が聞こえないことによって、彼女独自の表現方法を開発していった。それがエンターテイメントとして確立し、通用しているのだ。

彼女の事を知る数年前に、別の聴覚障害の女性と出会っていた。

その頃、私は森林ボランティアをしていた。
主催団体が、春から夏にかけて月に1回程度、参加者を募集する形で、都合が合えばなるべく行っていた。
ある日、参加頻度が私とどっこいどっこいの男性が、その女性を連れてきた。
顔なじみの男性が「みなさんの言葉は僕が手話通訳します」と自分と女性の紹介をしたら、その時参加していた30名弱居た中の数名が「自分も手話できますのでコミュニケーション取るのは大丈夫ですし、通訳しますよ」と、手を挙げた。
集まったメンバーのうち、手話できる人が1割以上居るという、偶然にしては出来過ぎの確率であった。

産まれつき耳が不自由だというその女性はいつもニコニコしていて、とても好印象だった。手話が出来ない人にも臆することなくどんどん筆談で打ち解けて行き、参加者は、山仕事という不慣れな場所と動作で、お互い気をつけあって作業をしてはいたが、彼女についてその点で特に危険が無いように気を遣っただけで、作業自体で特別扱いする人は誰も居なかった。

山仕事が一通り終わって、帰る前に山の中で少し休憩しようという段になって、彼女がいきなり提案した。

「私の職業はクリスタルボウル奏者です。山まで全て担いで持ってくるのは重くてできなかったから完璧な演奏ではありませんが、この森の中で演奏したいので、皆さん聴いていただけますか?」

聴覚障害のミュージャン!
しかも、ベートーベンのような中途失聴者ではない。

音を聴いたことが無い人が、音を奏で、しかもそれを生業にしていることと、クリスタルボウルという楽器は、当時の私がとても気になっていて、物凄く聴きたいと思っていたので、二重の驚きだった。

クリスタルボウルとは、お仏壇に備えてある“お鈴”を直径数十センチに拡大したような形で、素材はお鈴と違い金属ではなく水晶で出来ている。それをマレットという棒で縁などをなぞって音を出す楽器。
本来なら、違う大きさのボウルを5〜7個使って演奏するらしい(けれど、この時は何個使われていたか、もう覚えていない)。

確か知人が習いたいとか言ってたのがきっかけで知り、音の想像が全くつかなかったので動画サイトでチラッと聴いてはみたことはあったが、生の演奏に敵うはずないのだけはわかった。

ボランティアメンバーは、思い思いに森の中で座ったり寝っ転がったりした。
私は本気で寝てしまいそうだったので、立って、木に寄りかかって聴いていた(実際熟睡してる人も少なからず居た)。

クリスタルボウルから出る音の波が木々の間を巡って予想外に振動し、華やかな音色が染み入るように、山中に響き渡った。
音の強弱、高低、大小に身を委ね、とても心地の良い時間だった。
それは人だけではなく、この空間に共に居る木々もそうなのではないかと思わせた。

こんな素晴らしい演奏会は、人生で何度も体験できることではない。

貴重な機会だった。

生まれ持った才能を、英語ではギフトと言うらしい。
神様からの贈り物、という発想なのだろうか。

まんがを描く彼女も、クリスタルボウル奏者の彼女も、神様が何の気まぐれを起こしたのか、五感の一つが備わらず生まれてきた。

彼女たちの技術は神様が与えたギフトなどではなく、間違いなく努力の賜物である。
健聴者が想像し得ない困難を乗り越えて身に付けた。

そんな彼女たちが、自分たちが知り得ない、受け取ることが出来ない、ギフトを受け取る。
神様が彼女たちに与えなかったギフトを、受け取っている。
彼女たちの背景は知らずとも、作品としてキチンと成り立ってはいる。が、知った上で享受するとより贅沢な気持ちになるのだ。

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2017-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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