メディアグランプリ

23人で満席のライブハウスから得た快感


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記事:佐藤洋孝(ライティング・ゼミ日曜日コース)

私の大学生活はかなり変わった生活だったと思う。
2005年~2008年の4年間、つまり大学の在籍期間中、私はずっと地元埼玉県の学習塾で時間教師というアルバイトをしていた。俗にいう塾講師のバイトだ。

きっかけは些細なことだった。私自身が中学時代に1年間その塾に在籍しており、
大学に合格した報告もかねて当時お世話になった先生に挨拶に行ったのだ。
丁度、その時、講師が不足していたらしく、アルバイトをしないかと声をかけられ、採点
の手伝いくらいならと返事をしたところ試験→面接→合格、更に職種は中学部の集団授業といった具合だ。

流されるままに始めた塾講師の仕事だったが、この仕事は思いの他、楽しかった。
素晴らしい先生方から多くの事を学べたし、教えているはずの生徒から教えてもらうことも多々あった。年の近い同僚もたくさんいて、休日を彼らと合わせて過ごした時間の方が、大学の仲間と過ごした時間よりも充実していた位であった。自分で言うのも変な話だが、「人に教える」という仕事は私には向いていたらしい。大学生の就活支援や、会社の新入社員の教育係、後輩の面倒を見たりするのは未だに好きだ。

勿論、楽しい事ばかりではなかった。会社の運営方針で揉めた事もあった。あまりの力不足に夜中に一人で泣いた日もあった。大学に行けなくなって卒業ギリギリまで追い込まれたこともあった。辛いことなんて星の数ほどあった。今では当たり前の事、理不尽を正当に受け入れるという事や、ただ「良い子」でいるだけでは欲しい物は手に入らないという事、そんな社会の常識を私に教えてくれたのも、この塾講師というアルバイトであったし、そんなエピソードもいつか投稿したいと思っている。

今回、紹介したいのは講師業務のメインの仕事である授業の話。

塾講師というと「頭のいい人がする仕事」というイメージがあるが、実は重要なのはそこではない。勿論高学歴の先生は多いし、学力があるに越したことはないが、私が担当した高校受験くらいであれば、難関大学を受験するような知識は必要ない。高校を卒業できるレベルであれば十分である。

問題なのは知識ではなくて教え方だ。いかに生徒が聞きたいことを把握し、準備し、そして「伝わる言葉」を使う事の方が知識などよりよほど重要なのだ。
そんなことが感覚的にわかってきたのが10年前の秋、私が大学3年生、つまり講師歴3年目の頃だった。

当時メインで持っていたクラスは中学3年生の高校受験クラスの担任。私は自分の本業である大学の授業にも出ず、大学の図書館にこもり徹底的に分かりやすい授業というものを追及していた。アルバイトで貰ったお金は、教材の研究費と雑談に使用する名言集のような書籍代に消えた。

当然両親からも怒られたし、今自分で振り返っても大馬鹿だと思うが、当時の私には授業の追及しか見えていなかったのである。最初、つまらなそうな顔をした子供たちの目が徐々に上を向き、期待を込めた目に変わっていくのが面白くて仕方がなかった。
ある日、いつもの通り水曜日の夜の授業をしていた時、今までに感じたことのない感覚を覚えた。

スポーツでいう「ゾーン」に入ったというべきか、それも少し違う気がする。
考えなくても言葉が出てくる、黒板の板書の絵が浮かぶ。そんなことは珍しくなかったがその日は担当している23人の生徒全員が集中していることを背中で感じることができたのである。教室にいる全員が私を見ている。私の持つチョークの先を見て、一言一句を聞き漏らすまいとしている。その感覚が伝わった時、言葉に出来ない快感が身体中を走ったのだった。

その「言葉に出来ない不思議な感覚」はその後、友人に連れられて行った場所で明らかになる。某有名アーティストのコンサート会場である。音楽というものにあまり興味がない私はライブというものに行ったことがなかったのだが、行ってみて何故みんなが、あれ程熱狂するのかが分かった。ライブや音楽好きな人にとっては当たり前の事かもしれないが、アーティストとそこにくる人々が音楽という言葉で世界を創る。それがこんなにも気持ちの良いことだと初めて知ったのだ。

そう、私にとっての授業とは大げさに言えばアーティストのライブだったのである。
あらかじめ客層(生徒)を想定し、セットリストをつくる(予習)。そして間に挟む冗談や雑談を言うタイミングを考えながら練習(模擬授業)を繰り返す。本番はその場で適切な対応をすることでお互いの距離を縮め、一緒に一つのイメージを共有するのだ。あの教室は私にとってのライブ会場だったのだ。

その後、私は大学の卒業と同時に塾講師のアルバイトを辞めて、製造業に就職した。
もっとやりたい、授業を追及したいという気持ちもあったが、もっと大きな世界を見たいという気持ちや、別の職種に挑戦したいという気持ちの方が強かった。

就職して8年。今でも時々、夢を見る。教室に立って授業をしている自分の夢を。
あの時は全力でやっていた授業も、今、当時の予習教材を見るとはっきり言って穴だらけだ。時間配分、使う言葉の選択、具体例。今ならもっといい授業ができるだろうか。
それとも経験を積んでしまっただけ、生徒との距離が開いてしまっただろうか。

就職してから紆余曲折はあったものの、現時点では会社を辞めるつもりはない。
でも、またチャンスがあれば立ってみたい。授業をする教壇に。
社会人経験を加えた人生のライブをもう一度やってみたい。

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2017-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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