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私は、その3ヶ月間、はだかの彼を見つめ続けてた。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:出原真子(ライティング・ゼミ日曜コース)

私は、その3ヶ月間、はだかの彼を見つめ続けてた。
引き締まった二の腕、分厚い胸板、
背中からお尻までの美しいライン、
そして、精悍な顔つき。
会える時は、彼の一瞬一瞬を心に焼きつけ
会えない時も、彼に恋い焦がれた。
あれほど、はだかの彼に夢中になった時間は、二度と来ない。
今でも、そう確信している。

私は去年まで、地元・岡山の広告代理店で働いていた。
担当は、とある役所の観光課。
桜のシーズンにはお花見情報を、夏には花火大会の情報を、
雑誌やネット記事の特集にまとめるという仕事を受けていた。
一般的にはあまり知られていないが、季節ごとに観光特集を組んだり、
プロモーションを行ったりする事業を
広告代理店などに一括で依頼する行政は多いのだ。

ある初秋の昼下がり。
次の冬から春に向けた特集について
役所の担当者と打ち合わせをしていた。
クリスマスのイルミネーション、お正月の初詣……
話を進める中で、なんとなく方向性は見えてきた。

来週までに、デザインや内容を企画書にまとめることにして
打ち合わせを終えようとしたその時、
役所の担当者は口を開き、私にこう問いかけた。
「何か、インパクトのある特集はないか?」と。

岡山といえば、何が浮かぶだろうか。
おそらくは、桃太郎か後楽園だろう。
地元民の目線だからかもしれないが、
ぶっちゃけ、この2つ以外に魅力的なコンテンツはなく
特集としても、すでにやり尽くされていた。
だから、季節に合わせた特集を組んで、無難にしのいでいたのだ。

どうしよう。ネタがない。
担当者との打ち合わせの後、呆然とした表情で会社に戻る。
どうしよう。ハロウィンのイベント特集?
いや、岡山には特集を組むほどイベントがない。
役所の観光特集だし、変なネタも出せない。
しかも予算もない。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。

ノートにアイデアを書きなぐり、色んな資料やサイトを読み漁り、
日に日に病んでいった。
そんな私を見かねた先輩が、紹介してくれたのが彼だった。
はじめて彼をググった時の衝撃は、今でも忘れられない。

バレーコートくらいの広さの境内に
何千人もの彼らがぎゅうぎゅう詰めとなり
『宝木(しんぼく)』を求めて、空に手を伸ばす。
その密度は凄まじく、例えるなら250%の満員電車。
体熱で湯気が立ち上る様子は、まさに地獄絵図。

その彼らの名は、日本が誇る三大奇祭『西大寺はだか祭り』。
「YOUは何しに日本へ?」をはじめ、全国区のテレビでも度々取り上げられる祭りだ。
岡山県東部の西大寺という地域で、およそ500年以上前から行われている。
西大寺観音院の天井から投下される、たった二本の『宝木』を勝ち取った人が
『福男』となり、その一年は幸福に恵まれるという。

開催は、身も震えるような2月末の夜。
勇壮なまわし姿になった男たちが、舞台となる西大寺観音院に集う。
その数は、8000人とも9000人ともいわれ、
地元出身者はもちろん、地元企業や銀行の新入社員(おそらく強制参加)、
大学生、海外からの旅行者の姿が目立つ。

まちのあちこちには、彼ら専用の更衣室が登場。
地元企業となると、建物を解放して更衣室と豚汁を提供している。なんと、当日の飛び入り参加ok!まわしも受付で購入可能で、更衣室の使用料と合わせて、3000円もあれば誰でも参加できる。天下の奇祭と言われながらも、参加に対するハードルは意外に低く、毎年、多くの男性がこの祭りに挑む。

はだか祭り。インパクトは、確かにある。
むしろ、ありすぎるくらいで、
観光特集としては避けられてきたのかもしれない。
他にも案を取りまとめて提案しようとしたが、
折しも、日本重要無形民俗文化財に、はだか祭りが登録をされることが決まり、
役所としてもPRをしないわけにいかない事態に。

そんなこんなで、めでたく私は、はだか祭りの特集を担当することになった。
当時、24歳。自分で言うのもおこがましいが、
女子としての奥ゆかしさや気恥ずかしさを持っていたはずだし、
男性のはだかをテーマに企画を作る度胸はなかった。

役所のサイトで、はだか祭りのPR……
ただ祭りの歴史や魅力を紹介するだけでは物足りない。
はだかをネタにすれば、面白いアイデアにつながるかもしれないが、
役所のサイトだから、健全なアイデアしか採用できない……。

どうしよう、どうしよう、どうしよう。
再び、悩みのループに入りかけた時、
当時、ネットやテレビで流行した「美人時計」の存在を思い出した。
美人時計まで膨大な人の写真は撮影できないけど
まわし姿の男性が日めくりカレンダー形式で
はだか祭りのカウントダウンを行ったらどうだろう。
過去に福男になった人が登場したら、なんかご利益ありそうだし
ネットとSNSを連動させて情報発信もできそうだし。

なんとなく、方向性が見えたところで、ふと立ち止まってみる。
そもそも「福男」ってなんだろう?
改めて調べてみると、はだか祭りの驚くべき実態が明らかになった。

8000名、9000名もの男性がまわし姿となって
たった2本の宝木を奪い合うのが、はだか祭りの基本ルール。

ただ1本の宝木につき、福男となるのは1名ではなく、なぜか3名。
一回の祭りで、6名が福男になるのだ。
その理由は、はだか祭りが「チーム制」になっているから。
地元出身者が中心に、10名〜20名単位のチームに所属。
祭りの開催される一年前から、定期的に集まって
宝木を勝ち取る戦略をねり上げ、
フォーメイションを徹底的に研究して
肉体も鍛え上げていく。

祭りでは、宝木を手にできたら終了ではなく、
宝木を投げ込まれた場所から、数百メートル離れた指定場所まで、
宝木を運び抜けなければならない。
それまでの道のりには何千名もの、男性が立ちはだかる。
巧妙なパスやフェイクを駆使して、
仲間たちとともに宝木を運んでいく。
そして、指定場所までトライできたら勝ち。
代表の3名が、晴れて福男になるのだ。
この形式たるや、五郎丸で人気急上昇中の、ラグビーに他ならない。

一年に福男が6名。1ヶ月前からカウントダウンを行うなら、1日1名で計30名。
過去5年分の福男を撮影できたら、カレンダーの素材は揃う。

そこからは、あれよあれよという間に話は固まっていった。
役所の担当者を通じて、祭りの主催先や西大寺観音院にかけ合って協力を要請。
さらに、各チームの代表に打診して協力を要請。
撮影場所の確保、日程の調整……。
西大寺観音院や主催先の方、チームの代表が、多大なる協力をいただいた。
福男の方も、普段は会社員。撮影日程の調整が1番、手間とるかと思いきや、
スムーズに決まっていった。

1番の課題は、どうやってまわし姿になるか。
撮影では、全員にまわし姿になってもらうことを伝えたところ、
中には、まわしの巻き方が分からないという人が発生。

私も、もちろん分からない、
手伝いたいのは山々だが、そうはいかない。
解決策を求めて、youtubeで「まわしの巻き方」についての動画を見漁った。
そんな私の姿を見て、ついに気が触れたのではないかと、上司や同僚が心配までしてくれたが、解決方法は見つからず、2名だけ上半身裸姿で撮影して、後日加工することに。
撮影は週末を中心に実施。
私自身も休日出勤が重なり、当時付き合っていた彼氏に振られた。
これは、今でも労災で訴えたいと密かに思っている。

いざ、迎えた撮影初日。
西大寺観音院の和室をお借りして、
カメラマンにセッティングしてもらい撮影開始。
撮影は1人15分程度。
日によって多少ばらつきはあったものの
チームでまとまった日程を調整してくれたため、
撮影には、同じチームのメンバー同士で、中には家族連れで来た人もいた。
彼らを撮影する中で、見えて来たものがある。

引き締まった二の腕、分厚い胸板、
背中からお尻までのの美しいライン、
そして、精悍な顔つき。
男の魅力を感じる要素はもちろんのこと。
それ以上に、彼らの眼光には確かな情熱が宿っていた。

500年以上続く伝統的な祭り。
地元出身の男性が、まるで学校の当番のように
半強制的にチームへ所属して
仕方なく出るものだと、勝手に思っていた。
わざわざ、やらなくても毎日、きちんと働けば給与は入るし、ご飯も食べられる。
なければ、生きていけないものではない。
昔の人が作った伝統を引き継ぐために、わざわざ自分の時間を割いて
祭りに膨大な時間をかけるのはなぜか。
それは、情熱だった。

彼らにとって、はだか祭りは昔の人が作った伝統行事ではなく、
今まさに自分自身が作っているもの。自分自身の根底を形作るもの。
ちょっと大げさかもしれないが、
アイデンティティに近いものだと思う。

そのことに気づいてからは、
撮影の時は、彼らの一瞬一瞬を心に焼きつけ
撮影でない時も、いろんな記事を読み、
彼らへの理解を深めた。
彼らの情熱に押されて、
軽い気持ちで作っちゃいけないぞと
突き動かされたからかもしれない。

撮影が終えてからは、上がって来た写真一枚一枚を
つぶさに見て、1番、見る人の心を動かすであろうものを選出していった。
デスクトップには、はだか祭り専用のフォルダができて、
開けば何百枚もの男性のほぼ裸姿の写真が入っていた。

3ヶ月の時間を経て出来上がった特集は、見事好評を得て、多くの人の目に触れることになった。
毎日、眼光鋭い福男がネットに登場して、はだか祭りまでのカウントダウンを刻んでいった。
来場促進にも繋がったというから、担当者冥利につきるものだ。

担当してから一年以上経った今でも、
あれほど、はだかの彼らに夢中になった時間は、二度と来ないと確信している。
私自身が情熱を注いで仕事に打ち込んだ、かけがえのない時間だったからだ。

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2017-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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