メディアグランプリ

「まだ生きてる?」笑って聞けるうちにやっておくべきこと。


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記事:古川博之進(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
「あなたは、やくざではなかったのですね」
 
病室に駆け付けたときに、入口で看護師の皆さんから掛けられた言葉だ。
 
「腰が痛いねん」と嘆く父。腰痛なんて歳をとれば当たり前の症状だからと家族で笑い飛ばしていたのだが、それが末期のがんだと診断されてからは、生活は大きく変化した。
本人の意思で闘病を選び父は入院した。毎週、一日目は新大阪駅からそのまま病院まで直行し、顔を出してから実家へ立ち寄る。翌日は母や姉のケアをしてから東京へ戻るという生活は、経済的にも体力的にも厳しかった。
 
病室に訪れ、私が父に掛ける挨拶はいつも決まっていた。
「まだ生きてる?」これには大抵がYESの回答。そのあとに「まだいけそう?」とか「いつまでいけそう?」と続くのだが、これへの回答はまちまち。この後も質問を続ける。冷たいようだが、誰かが死んだ後に起こるトラブルの事例を仕事のなかでたくさん見てきた私には、最低限やるべきことがあった。
 
相続トラブルの要因、その多くが、情報の不足に起因するものだ。単純なところであれば、資産に関するIDやパスワード、どこに何がどれだけあるのか。ひとまずそれらが出そろっていれば、相続人たちが取り分について話し合える。相続で人が争うのは殺人ドラマの定番だが、その前段階が整理されていないと、もっとドラマチックでどろどろすることになる。
 
病室では余計な話も無しに、本題に入る。
「先週の宿題はできた?」
不動産の細かい地番が書かれたメモを渡される。本籍地である佐賀県のどこぞの表記だ。特にいい思い出はない、私にとってはただの田舎に過ぎない。
「ほな次はこれ、整理するか思い出すかしといてや」
こちらからメモを渡すと黙って受け取る父。
 
実は、後になってみつかる資産ほど迷惑なものはない。マイナスの遺産、つまり借金なんかは当たり前だが、たとえプラスの遺産といえども、後から出てくれば、迷惑なのは同じことだ。当事者たちが配分を決める打ち合わせをやり直しすることになる。資産が分けられるほどなければ揉めようがないというのも、よくある誤解だ。分けられないこと自体も揉める一因だし、私情がからめば損得抜きで簡単に弁護士のおでましとなる。面倒を避けるためにも、隠し財産の有無、冗談ではなく愛人・隠し子の有無などは把握しておく必要がある。これらが整理すべき情報なのだ。愛した家族に迷惑を掛けないために、最期にやっておくべきことだ。「縁起でもない」と言って回避する傾向にあるが、腹を割って、冗談を言うように整理しておくべきことなのだ。
 
「生きてたら、また来週会おうや」
この挨拶も慣れたもの。最初に意識不明となった時から考えれば、今ここにある時間は、既におまけのものであるという共通の認識ができていた。「ボーナスステージや」と笑って言い合えた。だから生きていればまた会う。力尽きればそこまで。この覚悟も双方にあった。
 
「おまえがきちんと整理してくれるから安心や」
闘病中の人間から依頼を受けたからには絶対に失敗できない。周りの人たちに何と言われてもだ。毎週東京と大阪を行き来し、間の時間では、遠くの法務局やろくに面識もない親族とのやりとりを淡々と進めた。
 
深夜に鳴る携帯がこれほど嫌な時期はない。目覚まし時計を兼ねて枕元に置いてある携帯が、深夜の2時か3時頃に震えたが、無視した。朝には電話で緊急入院したと伝えられ、午前中のみ仕事をして切り上げたものの、のぞみが名古屋を過ぎる前に姉からのメールを受信した。
お疲れ様。ありがとう。言いたいことは、言えたな。聞きたいことは、聞いたな。聞き出しは終えてまとまっているから、母と姉という残された人には負担はないな。大丈夫だな。俺も大丈夫やな。親が最後に教えてくれることの意味を考えつつ、これからは自分の世代が踏ん張りどきだと、冷静に、論理的に考えていたら、少し涙が出そうになった。
 
急ぐこともないのでゆっくりと病院へ向かい、ご遺体の置かれた病室に入ろうとしたとき、看護師さんたちから軽く制止された。ここでも情報を求められた。「あ、長男ですけど」と弁明して入る人がいるのだろうか。
 
「失礼ながらみんなで噂してたんです、借金取りが毎週来てる、と。財産をねこそぎ持っていかれそうだ、と。ご長男でしたか……あなたは、やくざではなかったのですね」
 
仕事の後に直行するのだからスーツで見舞うことも仕方ない。面会終了の間際が多いため時間も短い。他の患者さんの見舞い客が大方いなくなったタイミングにスーツで現れて、少ない言葉で資産の在り処を問い詰めていく。その姿は借金取りのやくざと言われてもおかしくなかったか。少し涙が出そうになった。
 
 
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2017-07-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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