40代男性と女子大生のやりとりを見て、私はあの番組を思い出した
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:apisuto(ライティング・ゼミ平日コース)
夏の日のことだった。暗闇にいくつかのスポットライトが当たっている。
あるテーブルでは、40代後半の男性。大人の男性特有の包容力を持ち合わせた雰囲気だ。隣には女子大生2人が座っている。会って間もない3人はどことなくぎこちない。
そして、テーブルにはお酒とおつまみ。周りからは、ムーディーな生バンドの演奏が聞こえてくる。
「ここにきて、楽しい?」
日に焼けた男性がにこやかに尋ねる。なぜ彼女たちがここにいるのか、不思議でしょうがない、といった感じだ。
そこで女子大生2人が元気よく答える。
「はい、とても楽しいですよ!」
尋ねた男性は、それを聞いて嬉しそうにうなずく。
さて、ここはどこなのか? 高級クラブ? ラウンジ?
いやいや、違う。ここはある小さな小さな村の夏祭り会場だ。野外ステージや客席にはいくつかのスポットライトが当たり、地元のおじちゃん、おばちゃんたちがバンド演奏で場を盛り上げている。
その傍らで、生ビールやジュース、焼きそば、からあげ……お祭りの定番が売られている。私のお腹も思わずぐぅと鳴った。
他にもスーパーボールすくいや射的といったゲームがあり、子どもたちのはしゃぐ声がバンド演奏に重なる。
大学で働いている私は、大学生の合宿をサポートする仕事のためこの村を訪れた。講義の一環で行われている合宿だ。どんな講義なのか、ひとことで言うと「人口減少や高齢化が進む田舎に、若者である大学生が1年間にわたって足を運び、地域活性化のきっかけづくりをしよう」というものである。4年目になる人気講義の一つだ。冒頭に紹介した女子大生2人はその講義の受講者。40代後半の男性はその村の住民である。
私が訪れた村は、人口40世帯ほどの地域。同じ苗字の世帯も多いので、みんな下の名前で呼びあっている。まるで、一つの大きな家族のように感じだ。
講義がスタートして間もないころ、その村に足を運ぶ前に、大学生たちに村のイメージを尋ねてみた。すると、こんな声が返ってきた。
「不便」
「何もない」
「田舎」
当然と言えば、当然だ。私も仕事で行く機会がなければ、きっと一生知りえなかった地域だろう。「田舎あるある」だが、コンビニもカフェも本屋さんも歩いていけるところにはない。正直、車がないと生活できない地域だ。それに、トイレはいまだにボットン便所のところもある。
都会だったら当たり前の快適さに、すぐにはアクセスできない。学生のイメージ通り、「不便」で「何もない」「田舎」である。
なのに、女子大生2人はなぜ「楽しいです」とはっきり答えたのか。
彼女らはこう続けた。
「ここでは普段経験できないことができるから、とても楽しいんです。花火もものすごく間近で見れますよね。全然、人も混んでいないし。この前、琵琶湖の花火大会に行ったんですけれど、人・人・人で。会場から最寄り駅まで、普段だったら15分くらいなのに、3時間くらいかかりました。なかなか前に進めなくて大変でしたよ。
それに、ここのお祭りは何を買ってもお得だし。からあげは100円、生ビールは300円で買えちゃう。いつも行っているお祭りだと倍くらいの値段はしますよ」
それを聞いた村民の男性は、意外そうな顔をした。
「わしらにとっては当たり前のことばかりやけれど、そっか。そういう視点もあるんやな」
そのやりとりを、たまたま近くで聞いた20代の若者が会話の中に入ってきた。彼は元コンビニの店長。1日100万円以上の売り上げがあるコンビニを任されていたこともあったそうだ。縁あって、この村に移住してきている。
「僕も同感です。この村では、決まった日に住民同士が集まって、辺りの掃除などをする村役(むらやく)の日ってあるじゃないですか。僕、そんな経験をしたことがなくて。とても新鮮だったんですよ。生まれたときから村に住んでいる人にとっては当たり前で、面倒くさいことかもしれないんですけれど、都会から来た者にとっては初めての経験で、面白かったりするんですよね」
その言葉に女子大生たちもうなずく。
村民にとっては何の価値もない当たり前のことが、女子大生や元コンビニ店長の男性のように、ちょっと視点が変わるだけで、新しい価値が生まれる。
これは、あれに似ているような気がした。私の大好きなテレビ番組のコーナーの「0円食堂」だ。
「0円食堂」は、TOKIOが出演するテレビ番組「鉄腕DASH」に人気コーナーの一つ。
形が悪かったり、賞味期限が切れてしまったりして捨ててしまうものを農家や漁師の方から0円でもらい、TOKIOが調理をして、おいしい料理に変身させてしまう。
例えば、賞味期限の切れたうどんを細かく刻んでパン粉の代わりにしたり、傷んだレンコンとメレンゲでハンバーガーのバンズの代わりにしたり。
「いやいや、これはさすがに使い道がないだろう」という食材も、視点を変えると「えぇ」と思うような美味しそうな料理に早変わりする。
高級食材をつかって美味しそうな料理ができるのは当たり前。あのクズ食材がこんな美味しそうな料理に! そのギャップに感動し、料理がより一層美味しそうに見えてくる。
ごみ箱行きだったはずの0円食材が、少し視点を変えるだけで、1万円払ってもいいような豪華料理に生まれかわるのだ。
最近、テレビや新聞のニュースでは「田舎の若者は進学や就職と同時に、都会に出ていってしまい帰ってこない」「田舎は老人ばかり」と伝えられ、「田舎はヤバい」と危機感を煽ってくる。
何とか都会から田舎に若者を呼び戻そうと、コンビニを増やしたり、大きなショッピングモールを作ったりするまちもある。でもそれは、松坂牛やアワビといった高級食材を使って料理するようなものだ。美味しいのは美味しいかもしれないけれど、それは当たり前。そこに、大きな感動は生まれない。
それより、田舎にとっては0円と思えるような当たり前すぎて価値のないことに、ちょっと視点を変えて伝えることで、多くの若者を惹き付ける大きな感動を生むのではないだろうか。
そのためには、田舎も若者ももっとお互いのことを知る必要がある。
私の目の前では、いくつものテーブルで村民と大学生たちが楽しそうに話している様子が広がっている。その奥では、村のバンドメンバーと一緒に大学生たちが歌をうたっている。
「きっとここでは何か起こりそうな気がする」
バンドのリズムとともに私の胸も踊っていた。
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