メディアグランプリ

いつの日か、祝杯は、出汁巻き卵で


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:須田京子(ライティング。ゼミ日曜コース)

 
 
あなたは、「これだけは」と、味に拘ってしまう食べ物は、あるだろうか?
 
グルメの方は、日ごろから吟味しているのかもしないが、私は普段、「バランス重視の普通に美味しいおうちごはん」で満足。たまの外食で「食を楽しむ冒険」は、お手頃価格から、ちょっと奮発のプチ贅沢くらいの間を行き来している。
 
が、通常のお財布感覚を、もう一息超えても試してみたくなる食べ物がある。それは「お蕎麦」だ。お目当てのお蕎麦屋さんに誘うのは、蕎麦好きの家族か、蕎麦好きの友人だ。初めてのお店が「最高に美味しい!」にしても、「ふつうに美味しかったけれど、評判ほどでは無かったね……」にしても、微に入り細に入りそのお蕎麦の味を、同じ感覚を持っている人と分かち合えることは、なんと平和で幸せなことか。たまには、こんな風に拘って楽しむ食べ物が「一つ」くらいあるのも、良いのではないかと思っている。
 
そして、お蕎麦と共にワクワクさせてくれるのが、実は、「出汁巻き卵」だ。
以前は、さほど意識していなかったが、ある時、「こんなに美味しいものがあるんだぁ!」と顔が上気するほど、美味しい出汁巻き卵に出会い、以来、外食で注文してみたい食べ物ベスト5に入るくらいの存在になった。しかし頻繁に外食をしているわけでもなく、いつもお蕎麦屋さんに行くわけではないので、「感動の出汁巻き卵」に巡り合えることは、ごく稀である。それだけに、注文から届くまでの、そのドキドキ感も楽しく、お店によって味も様々で、奥が深いなぁと思う。たかが出汁巻き卵(私はたかがとは思っていないが)、されど出汁巻き卵なのだ。シンプルなのに、いや、シンプルなだけに、その味の差には、きっと材料や調理法だけでなく、料理人が積み重ねた経験や、心意気のようなものが出てくるように思う。
 
もし、「文章の達人」が、その達人の腕を、料理に変えて、「出汁巻き卵」を作ったら、どうだろうか。きっと、素晴らしく、美味しいに違いない。
出汁巻き卵は、元をたどれば「卵」と「出汁」だ。何も具材を混ぜないごくシンプルな出汁巻き卵だからこそ、作った人の技の奥行を、一層感じるように思う。
 
出来立てが運ばれてくると、ほのかに表面に湯気が立っている。
隣には、大根おろしが少々。ただ、それだけだ。それだけなのに、なんと魅力的なことか。ふわりと香り立つ、暖かい出汁巻き卵。お皿から口に運ぶ時の、全身で味を受け止めようとする数秒間。口に運んだ後、卵の味を活かした出汁の加減、絶妙な焼き加減での、口当たりの良さ。ちょっとだけ、お醤油をかけた大根おろしを乗せ、わずかな辛さと触感が、また一層、ほんのり甘い卵を引き立てる。それで十分な至福の味、余計な物は要らない。一口を、ゆっくりと味わう。全身に広がる味の余韻を楽しみ、また箸を運ぶ。
 
達人の文章は、美味しい出汁巻き卵のように、最初の一行で、まだ、読んでいない、これから広がる作者の世界がふわりと頭の中に湯気を広げる。その湯気に包まれた時、数秒で心は日常から離れ、目の前の文字から広がる世界にワープしている。文体が奏でる独特なリズム。そのリズムに思考を預ける心地よさ。場面展開にも心は置いてきぼりにされることなく、流れと一体になり、文字の上を旅してゆける。
 
作者ならではの、あるべくしてそこに在る、「言葉」で綴られた一行。
時にその一行の深さに立ち止り、心揺さぶられ、また、読み進みたいと思う。
人生を変えてしまうほどの力を持った文章との出会いは、生涯の師のように、思い出すたび、読み返すたび、また、心に力を与えてくれるのだ。
 
どうしたら、そんなに人の心をつかむ文章を書けるようになるのだろう。
どうしたちら、そんなに美味しい出汁巻き卵を作れるようになるのだろう。
 
インスタントな出汁ではだめだ。素材からしっかり選んで、手づくりの出汁を作るのだ。
借り物の言葉ではだめだ。
 
なんとなく耳あたりの良い言葉を並べて書いてみても、読み返すと、それを書いた自分の薄っぺらさが見え隠れしているようで、がっかりすることがある。
そもそも私は、その「言葉」について本当に知っていただろうか。ひとつひとつの言葉について、随分と曖昧な知識のまま、軽々しく使っていた事か。今更ながら、「文章を書く」心構えの、ほんの入り口にも立てていなかったことに愕然とする。
 
知らぬが仏で、何の違和感もなく、生きて来た。深く掘り下げなくても「知っているつもり」で会話し、読み書きし、生きて来た何十年。問題は無かった。充分、楽しく、泣いたり、笑ったり、悲しみも、喜びも、ちゃんと味わっていた。それはそれで良かったと思う。
でも、私は今、書くことに改めて向き合う「ライティング・ゼミ」という学びの場に出逢うことができた。
人と人の間で、伝え合い、分かち合うことが出来る「言葉」。あらゆるもの表現し、創造の元となる「言葉」。人生を無限大に変容させ、パワフルに輝かせてくれる可能性を秘めている、「言葉」を使って文章を書くということは、私の想像をはるかに超えたものだと、気付き始めている。
 
「文章を書く」ということにおいては、ほんとうに、幼子のままだった。
充分すぎるほど大人になり、気付いた今だからこそ、これからは、その幼子に、良書、学びの場を与え、根気良く見守り、育てていきたいと思う。
 
今、怖いもの知らずの幼子は、好奇心いっぱいで、小さな部屋の中を「言葉」を使って、ハイハイし始めたばかりだ。
どうにか立ち上がれるようになったら、それまで見えなかった景色が見えてくるだろう。それは「小さな部屋の中のひとり遊びだった」ことに気付く日が来ても、怖がらずに扉を開き、また一歩、歩き始める自分でいたい。きっと、また、いくつもの壁に行き当たり、諦めたくなることがあるかもしれない。
それでも今は、「どこかの誰かを、ほんの少しでも、幸せな気分にしてくれる文章」を、書けるようになることを、夢見ている。
 
そして、いつの日か、その夢が叶った時には、人生を語り合える大切な人を誘って、出来立てのほやほやの湯気に包まれた、「美味しい出汁巻き卵」を肴に、祝杯をあげたいと、思っている。
 
 
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2017-09-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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