メディアグランプリ

伊勢丹写真室の魔法


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記事:夏実恭子(ライティング・ゼミ日曜コース)

 

「伊勢丹写真室で履歴書の写真を撮ると、内定が取れるらしいよ」

という噂を聞いたのは、就職活動中の学食だった。当時は、まさに就職氷河期真っただ中。4年生にもなれば、ゼミの日しか大学に来ない友人もいたが、たまに顔を合わせれば会話の中心は就職活動のことだった。

 

「A君は一部上場企業から内定をもらったらしい」とか、「Bちゃんは親のコネで地方銀行に入るようだ」とか、聞こえてくるのはそんな話ばかり。周りはどんどん進路を決めていくのに、自分はといえばコネなし、ウリなし、資格なし。たいして真面目に勉強をしなかったので、成績はパッとしないし、まともな一般常識も知らず、論文も書けず、英語もできない。でも、子どもの頃からの夢だった「本をつくる人」になるため、自分は出版社に入りたかった。とりあえず、そう決めていた。

 

だが、現実は甘くはなかった。大手数社に一次の筆記試験で見事に落ち、二次試験まで進めた会社でも面接で気の利いたことが言えず、爆死した。グループ面接で一緒だった学生は、部活で活躍したり、ボランティアに力を入れたり、海外に留学したりと、立派な経歴の持ち主ばかりに思えた。

 

「自分みたいなつまらない人間に、面白い本がつくれるはずがない」

すっかり自信をなくしかけていたとき耳にしたのが、「伊勢丹写真室の魔法」の噂だ。改めて、写真を撮り直して、就職活動も仕切り直してみようと、行ってみることにした。撮影料金は当時、2000円くらいだった記憶がある(現在は3240円)。地元の写真店よりは高いが、内定を得るためなら安いものだ。撮影自体は、街角の証明写真ボックスと同じくらいあっけなく終わった。にもかかわらず、できあがった写真はすばらしかった。自分で言うのもなんだが、知的で上品な雰囲気に仕上がっていた。

 

「これが私 これが伊勢丹クオリティ!」

思わず感動した。とても気に入った。歴史と伝統は、期待を裏切らない。

だが、同時に不安な思いが頭をもたげてきた。この“奇跡の一枚”を見て、「ぜひこの子に会ってみたい」と思った人事担当者がいても、面接時に「あれ、実物はイマイチだなぁ」とガッカリされるのではなかろうかと。

 

写真選考をクリアしなければ次に進めないのなら、多少は加工してでも盛った写真を提出するべきかもしれない。しかし、自分が受けようとしているのは一企業で、アナウンサーやCAではないから、写真はそこまで重視されないはずだ。第一印象は大事だが、どちらかといえば、面接で「写真よりいいね!」と思ってもらいたいではないか。そのためには、履歴書の写真は“そこそこ”でなければならないのだ。

 

たとえば、ファストフードのメニュー写真は、おいしそうで食欲がそそられる。しかし、実際に出てきたハンバーガーがしょぼかったことは一度や二度ではない。写真よりもボリュームがなく色の悪いハンバーグ、クタクタになったレタス、シワシワのバンズ…。食べる前から、騙されたような気分になってしまうのだ。これは、写真でいかにもおいしそうな「シズル感」を表現できるカメラマンがまさにプロであり、腕がよすぎる弊害なのかもしれない。簡単な撮影だけで、就職活動にぴったりの写真を仕上げてくれる伊勢丹写真室のカメラマンも一流の技術を持ったプロだ。

 

だいぶ経ってから知ったのだが、「あえて最初にマイナスの印象を与えておいてから、そのあとでプラスの印象を与えたほうが、相手により大きな好印象を与えられる」という心理効果を「ゲインロス効果」というらしい。最初は苦手なタイプだなと感じた人が、話してみると気さくだったり、意外な魅力があったりして、そのギャップに惹かれて好きになる、といったケースはよくあることだろう。つまり写真を盛ってしまうのは、逆効果なのだ。

 

その後、私は無事に内定を得ることができた。就活がうまくいかず、落ち込んでいたとき、いつもなら無視して通り過ぎる「カットモデルをしませんか」という誘いにのって、ショートボブにした。裏原宿にある美容室のカリスマっぽい人にまかせたら、そうなった。似合っていたかどうかはわからないが、それまでの自分とは別人みたいになった。運が向いてきたのはそこからだ。面接のとき、履歴書の写真とサイケなボブスタイルのギャップを突っ込まれ、異様に会話が盛り上がった。「ゲインロス効果」ではなかったものの、写真と実物にギャップがあるというのは、悪いことではなかったようだ。そして、選考はトントン拍子に進み、私は「本をつくっている会社」に入ることができたのだ。

 

「履歴書の写真とは全然違う雰囲気で面接に行ったら、内定が取れたよ」

私は内定が取れていない友人たちにそう言った。

よい意味で、期待とは違う裏切りを受けると、それが強い印象となるというのは確かだ。だから今も、仕事でも恋愛でも、意外性を発揮できたらいいなと思って生きている。

 

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2017-09-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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