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メディアグランプリ

愛する人との眠れない夜に、わたしは乳丸出しでこの記事を書いている


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:あさみ(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
真っ暗な寝室で、今日もその人はわたしの髪をなでる。
わたしは目を閉じたまま、じっとしている。
わたしがそれを喜んでいると思っているのだろうか。その人は、洗い立てでまだ乾いていないわたしの髪の毛の1束1束を丁寧に、なでたりひっぱたりしている。
20分くらいたっただろうか。ぱたりとその動きが止まった。
 
薄目を開けてみてみる。
その人は今度は自分の髪をなでていた。わたしにもそうしてほしいというアピールなのか。ただでさえ少ないその髪の毛をそんなに一生懸命なでていては全部抜け落ちてなくなってしまうんじゃないかと心配になる。
でも、わたしはその人を止めたりしない。あいかわらず、じっと目を閉じている。
 
そのうちにその人は、ゆっくりと起き上がり、わたしに覆いかぶさるようにくっついてすすり泣きを始めた。
……またか。
その人はとんでもなく泣き虫なのだ。無視をするとすぐに泣く。
今度はその人の髪の毛をわたしがゆっくりとなでる。そして「川の流れのように」を口ずさむ。その人はこの歌が好きだ。
 
その人の横で寝るようになって1年になる。
愛するその人と寝る時間は、幸せな時間でもあるが、不毛な時間でもある。
とにかく、その人はしつこいのだ。
なかなかわたしを解放してはくれない。何もできない。何もできずにじっとしている時間がときには3時間を超えることもある。
1歩寝室をでようものなら、死んじゃうんじゃないかってくらい泣き叫んでわたしを引き止める。こんなに人から求められたことが今までの人生であっただろうか。そう思うと、情緒不安定なその人をわたしは受け入れるしかない。
 
その人の手がわたしのパジャマの裾から手を入れ、乳房を探している。
これがはじまるとなかなか終わらない。その人はわたしの乳首を吸いながら寝るのが好きだ。吸うだけじゃなく、手加減なしで噛んだりもする。ひりひりするなあと思って翌朝見ると、かさぶたになっていたこともある。できれば胸は守りたいのだ。
しばらく乳房をめぐる攻防をその人と続ける。その人はしつこい。とてもしつこい。よけてもよけてもパジャマの裾をひっぱってくる。
わたしはあきらめたようにあお向けになり、パジャマをめくりあげると、その人は急いでわたしの乳首を口に含む。満足そうに。
 
乳首を吸われながら今日のTodoリストをひとつずつ思い出す。まだ、家事が山のように残っている。洗い物。洗濯。宅配食材の注文の締め切りも明日だからカタログも見ておかないと。できれば明日の食事の仕込みもしたいけれどそれは無理かな。味噌汁だけでも作って置ければ明日が楽なんだけどな。そうだ、また今日も旅行の予約ができなかった。友達に宿の候補を調べて送るねって言ったきりになっている。通っているライティング講座の課題にもまだ手をつけられていない。
できれば石田衣良の小説も読みたいし、とりためた「アメトーーク!」も見たい。だけどこの調子では、今夜もWant toリストにたどり着くのは無理かもしれない。
そうやってTodoリストを整理していると、愛するその人と寝る時間はどんどん苦痛になっていく。その人に尽くすと、わたしの時間をどんどん奪われてしまうのだ。
 
その人は満足したのか、乳房から顔をあげ、またわたしの髪をなではじめた。
まただ。また髪をなでている。1時間かけて、振り出しにもどったのだ。
この寝室は時空がゆがんでいるんじゃないくらい、時間が進むのが遅い。
 
もう“無”になろう。Todoリストは忘れよう。Todoリストだと思うから、じっとすることしかできないこの時間が、とんでもなく無駄に感じてしまうのだ。あれは、「やらねばいけないことリスト」ではなく「やれればラッキーリスト」だ。できなくてもわたしを責めないで。
 
気を紛らわせるように、わたしは髪をなでるその人の手の動きを数え始める。
1なで……2なで……3なで……。
24なでしたところで、今度はまたすすりなき。
わたしは「川の流れのように」を歌う。2番も含めてフルで歌う。
1回……2回……3回……。
5回と半分歌ったところで、その人は再びあらわになったわたしの乳房を探し始める。まぶたの動きがゆっくりになっている。その顔を見ると、やっぱりその人のことを愛しているなあと思う。たまらなく愛おしい。
 
ギシ、ギシ、ギシ。誰かが階段を上ってくる気配がする。夫が帰ってきたんだろう。手に持ったコンビニの袋がこすれる音が近づいてくる。
やばい……! お願い……! 扉を開けないで。今イイトコロなんだから。
思いが通じたのか、その気配は扉の前でそっととまり、寝室の中の様子を少しうかがってから、ギシ、ギシ、ギシとまた階段をおりていった。
 
事なきを得てほっとすると同時に、イラっとする。
ちっ。いいよな夫は、自由に行動ができて。Want toリストを自由に消化している。コンビニで好きな時間に買い物だってできるのだ。つい悪態もつきたくなる。
夫が、わたしの今日のtodoリストのうちひとつでも消化してくれることを祈る。まだ仕事があると言ってはいたけど、食器くらいは洗ってくれるだろうか。
 
そして、この記事は今、乳まるだしのまま、
その人……1歳になる娘を、
抱きかかえ乳にぶらさげたまま書いている。
 
寝たふりも2時間もたてば限界なのである。
寝室のPCを立ち上げカタカタやるわたしを、娘はキラキラした目で見上げている。
かわいい。かわいい、が、相手をすればいつまでも寝ない。寝たふりをすると先にわたしが寝てしまう。娘より先に寝落ちする前に、せめて今日のtodoリストを1つでも消化したい。
 
寝かしつけをしていない、父親よ。
「寝ないのは、日中しっかり疲れさせないからだよ」なんて言わないで。
Todoリストを少しでも日中に消化しなければ1日が永遠に終わらないんだよ。ずっと子どもと公園にいれるわけじゃない。
「自分も9時に寝てるじゃんww」なんて言わないで。一緒に寝落ちしてしまったあとに目覚めた時の絶望感を知らないでしょう。すべきことが何も終わっていない午前3時はホラーです。
「おっぱいあげればすぐ寝るでしょ」なんて言わないで。乳首を全力でかみちぎられたことありますか。寝ぼけた赤子に乳を差し出すのには勇気がいります。
 
愛するその人との不毛な時間は続く。
今日も長い夜になりそうだ。
 
 
***

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2017-09-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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