メディアグランプリ

酒豪にはなれなかったから


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:バタバタ子(ライティング・ゼミ特講)

 
 
「すみません、赤ワイン、グラスで」
「キター! 赤ワイン! さすがマリさん!」
「こっちもビール追加で!」
「それと、ハイボール二つ」
「タケさん、それ何杯目ですか!」
大皿の料理はちっとも減らないのに、グラスだけが増殖していく。
空っぽのグラス、もうすぐ空きそうなグラス、そして順番待ちの、なみなみと注がれたグラス。
まるで新しいノートを買ったときのようなワクワク感。
そんな気分でテーブルを眺めていると、突然、肩を激しく揺すぶられた。
「全然減ってないじゃーん。今日、ペース遅いんじゃない?」
先輩は、ビールのジョッキを片手に、ニッコニコしていた。普段のクールな彼女からは想像できないくらい。
「えー、まあまあ飲んでますよー。これ美味しいんですよ、味見します?」
自分のグラスを、彼女に差し出す。
「ありがとー。これ何?」
「なんだっけ、ファジーネーブル? そんな感じのです」
ひとくち含むと、一段と顔をほころばせた。
「甘ーい! おいしーね」
「ねえねえ、これも美味しいんですって、飲んでみてくださいよ、ほら!」
テーブルの向こうから、ぐいっと茶色の小ぶりなグラスが差し出さた。
「うおお、何これ!」
「うわっ、強い! さすがだね」
隣に隣に回されて、気づけばグラスもテーブルの話題も、私の手の届かない距離まで遠ざかってしまっていた。
 
にぎやかな宴席で、自分の周りだけの、わずかな静寂を感じながら、汗をかいたオレンジ色のグラスをいじる。
本当なら、これをグイっと飲み干して、もっとカッコイイお酒を注文したい気持ちもある。
ウイスキーや焼酎や日本酒なんか。
それを平気な顔で飲みながら、お酒談義に加わりたい。
ハタチ過ぎたらそんな大人になるんだと、幼少の頃からずっと思っていた。
 
別段、お酒を身近に感じて育ってきたわけではない。
あえていうなら、母方の親戚にお酒を楽しむ人が多かった、その程度だ。
酒豪に憧れる、特別な出来事があった訳でもない。
だが漠然と、お酒が飲める大人になりたいと思っていた。
 
仕事終わりや風呂上がりには、缶ビールを開けて、プハァーっと言いたい。
ビアガーデンでは、何杯もおかわりして、浴びるほど飲みたい。
ウイスキーやコニャックや、その類のお酒に精通して、芳醇な香りがどうこう言いたい。
カクテルの名前をたくさん覚えて、おしゃれなバーで粋に注文したい。
ワインの入ったグラスを光にかざしたり、ラベルを読んだりしたい。
 
子どもなので、実際のお酒の味は何一つ知らない。知らないまま、お酒を愛する大人に憧れた。
それはたとえば、恋に恋する状態と似ていたと思う。
 
実際に恋をしたことがなくても、我々は「恋」がどんなものか、知っている。
むしろ、色恋沙汰に触れずにこの社会で生きていくなんて、不可能と言っても過言ではないだろう。
物心つく頃から、「恋」は身の周りに溢れている。
リカちゃんにもキティちゃんにも彼氏がいる。
少女漫画でも少年漫画でも、アニメでもドラマでも映画でも、大抵恋人がいるか、できる。
物語では、運命的で情熱的な恋が、幾度となく描かれる。
そんなストーリーに繰り返し触れて成長していくと、自分もいつか必ず「恋」をするようになるのだと刷り込まれてしまう。
放課後には手をつないで一緒に帰ったり。休みの日にはオシャレして待ち合わせてデートしたり。喧嘩をしたり。困難があれば、励ましあいながら乗り越えたり。
そんな「恋」をして、主人公のようになりたいと憧れるようになる。
誰かを好きになるのではなく、「恋」をしている自分になりたい。
そんな有様は、なにも「恋に恋する」ときだけではないだろう。
 
私はいわば、お酒に恋していた。
「お酒を愛する大人」に憧れ、飲んだこともないお酒に片思いしていた。
 
ハタチの誕生日を迎えた日。
ワクワクしながら開けた、初めての缶ビール。
グラスに注ぐ、黄金色の液体。一体どれだけ美味しいのだろう。
胸を躍らせて、一口含んでみた。
「あれ? 全然おいしくない」
 
そういえば、ビールがどんな風に美味しいのかは、全く知らなかった。
大人たちが旨い旨いというのだから、とにかく美味なものだと思いこんでいた。
ところが、実際に自分の舌で感じたビールは、苦くて辛くて、思わず眉間にシワが寄るほどだった。
 
「ワインなら、元はブドウやし、ブドウ好きやし、大丈夫やろ」
そう気持ちを切り替えて、舐めてみたワインは、渋かった。ビールよりは、苦みもなく、飲みやすいが、イメージしていた味とのギャップに戸惑った。
日本酒は、辛くて、喉が焼けるようだった。
焼酎は、麦は味がなく、芋はクセが強烈すぎた。
ウイスキーかブランデーかわからないが、茶色のお酒は、レベルが高すぎて、理解できなかった。「一見さんお断り」をされた気分だった。
 
お酒を愛し、お酒に精通した大人になりたかった。
でも、実際にお酒を体験してみると、ことごとく挫折した。
飲めない体質なら、まだ諦めがつく。だが、飲めるのに、憧れたように美味しく味わえないのが、悔しかった。
 
「追加の注文する人ー?」
「私、カシオレ」
「私も!」
「カシオレ2つねー。他は?」
あ、私も、と遅れて手を挙げる。
手元のファジーネーブルも、いつの間にか残り少なくなっていた。
「カシオレ3つとー、ハイボールと……」
幹事が、店員に注文を伝えてくれる。
 
ビールにもワインにも挫折した私だが、カクテルやサワーの存在を知った。
バーで飲むような、憧れたカクテルとは全く別物。
アルコールが入っているジュース。
甘くて飲みやすく、ポカポカして楽しくなれるドリンク。
憧れのお酒と比べると、子供っぽいかんじが否めない。
けれど、今の私の身の丈には、丁度いい。
 
思い描いたような、ビールや焼酎をグイグイあおる酒豪にはなれなかった。
でも、ファジーネーブルもカシオレも、私を幸せにしてくれる。
物語のように、理想的なイケメンと恋に落ちることはなかったけれど、目の前の本当に大切な相手に気づけた。
そんな気分で、今日も私は、カクテルを楽しむ。
 
 
***

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2017-09-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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