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メディアグランプリ

シンデレラは廊下にいる


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:みかげ(ライティング・ゼミ 平日コース)
※この物語にはフィクションが含まれています。

 
 
「廊下に立ってなさい」
学生生活でよくあるフレーズのように聞くけれど、本当に立たされることなんてあるのだろうか。
私は一度もその言葉を聞くことなく卒業したが、それもそのはずで私の学生生活は目立たず周りに合わせることに終始していた。優等生でもなければ、先生に大目玉をくらうようなことをしでかす度胸も持っていなかったのだ。クラスで出し物を決めるとなれば周りに意見を合わせ、ギリギリまで後回しにした提出物もとりあえず埋めて〆切には提出した。とにかくひとり取り残されないように必死だった。

大人になった今、私は廊下に立っている。
誰を待つわけでもなく、自分が働いているところでもない会社の食堂にひとりでいる。

高校に行き、大学に行き、就活を終え、内定式を終え、行き着いた仕事は保険の営業だった。片手には新しいプランを紹介するチラシを束にして抱え、細かい質問にもこたえられるように保険の内容を読み込んで準備万端。新規契約を狙っている。

お昼の12時。食堂の入り口にある時計が音を立てた。
さあ、人がやってくる。チャンスだ。
「よろしくおねがいしまーす」
「おつかれさまでーす」
チラシを差し出しながら声をかける。
しかしお昼時、通る人たちはまっすぐランチメニューの並んだショーケースへ。目が合わないのはもちろん、声も届いていないようだ。
それでも粘りに粘って何枚かチラシを手渡したが、人見知りな性格が邪魔をする。話をする間もなく、チラシを受け取ってくれた人たちは皆食堂へと吸い込まれていった。
悔しくてショーケースを睨みつけてみるが虚しくなってすぐやめた。

通りすがる人たちには私が見えていないんじゃないか。
ひとりが苦手な小心者には周りから認識されないこの環境がとても辛い。聞こえないふり、見えないふりをされる度、ガラスのハートに着実に傷がついていく。もう、いつ粉々になってもおかしくない。
徐々に声をかける声は小さく、受け取ってもらえないチラシは手渡そうとしなくなった。

そんなことをしているうちに、あっと言う間に食堂にいた人たちは仕事へと戻っていった。

「怒られているわけでもないのに、なんで私はここに立たされているんだろう」
いや、立たされている方がよっぽどマシかもしれない。その先のお小言や怒られるのは憂鬱だ。けれども相手は怒りながらも気にかけてくれて、ある程度時間が経てばタイミングを見計らって迎えに来てくれるのだから。

「誰か迎えにきてくれないかな」

暇を持て余しながら小さく「いつか王子様が」のメロディーを口ずさんでいた。

落ち込んだときには決まって、シンデレラの話を思い出す。
小さい頃からプリンセスに憧れもあったのだが、「シンデレラは自分で行動したから、プリンセスになれたんだ」とどこかで聞いた言葉が気に入っていて、いまだに信じている。
平凡な人生を結局えらんでしまう私でも、頑張らないといけないときはこの言葉を思い出して重い腰をあげるのだった。

人見知りを押し殺してこのままチラシを配ろう。話に興味を持ってくれる人を探そう。
時間が経ってチラシに気づいて、私を見つけて連絡してくれるはず。
やる気を回復させる為、想像をどんどん加速させていた。

「落ちてたよ」
ハッとして声をかけられた方を見ると王子さま、ではなく掃除のおばちゃんがいた。
そして手渡してくれたのは私が配っていたチラシで、よく見ると靴の跡がついていた。
きっと拾ってもらうまでに2、3度踏まれていたのだろう。

ああ、わたしの渾身のチラシ。
落ち込むその一方で、この食堂に自分がちゃんと存在していたんだと再確認ができて心からホッとした。汚くなったチラシをわざわざ持ってきてくれたおばちゃんの優しさが沁みた。

そしておばちゃんはカボチャの馬車の代わりに、ひと粒のチョコレートと有力な情報をくれた。
「休憩時間はね、もうひとつの休憩所の方がたくさん人がくるよ」
「そうなんですね、ありがとうございます」
少し話してから、おばちゃんは違う場所に掃除に向かっていった。

どうやら当分プリンセスにはなれそうもないが、ガラスの心は粉々にならずに済んだ。ひとまずはそれでいい。誰も見ていないと思っていた食堂の廊下で私を気にかけて見てくれる人はいたのだから、廊下に立つのも悪くない。

保険に入ってくれる王子様を探しに、次はおばちゃんが教えてくれた休憩所に行ってみよう。

ボーン、ボーン。

食堂の時計が15時を知らせる。やる気の魔法が解けるまではまだまだ時間がありそうだ。
ふうーと大きく深呼吸して、黒いパンプスで駆け出した。

 
 
***

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2017-10-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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