メディアグランプリ

眠りと雨


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:西藤太郎(ライティング・ゼミ 平日コース)
 
 
友人が飼っているペットのネコを見ていると、何かにつけて寝ている。

夏なら涼しいところを見つけだして寝ている。
冬なら暖かいところを見つけだして寝ている。
食べて、腹がくちくなったといっては寝ている。
遊び疲れたといっては寝ている。
主人が寝るといえば一緒になって寝ている。

きれいな場所を探し出してはそこで寝る、呆れたものだ、と友人が言う。
例えば、洗いたての洗濯物のうえ。
例えば、交換したばかりのシーツのうえ。

身体が人間よりも小さいからそれだけ消耗も激しいのだろうし、体内時計のサイクルも人間よりはるかに目まぐるしく回転しているのだろう。
睡眠は、彼らにとって必要不可欠なものであり、惰眠ではない。

それにしたって、太平楽を決め込んだその寝姿。
仰向けで寝ていると、夢でも見ているのか、手足を宙に泳がせる。

なんとなく小憎らしいから、熟睡している鼻先をいじり、ちょっかいを出す。
目を覚まし、機嫌が悪いと唸られ、さらに悪いと噛みつかれる。

書店に行くと、短時間睡眠を推す本が目につく。
長く寝るよりも、いかに短時間で質の良い睡眠を確保するかについて書いた本だ。

現代人は忙しすぎる。
どれだけムダを省いてみても、どれだけ作業効率をアップさせてみても、その程度ではとても時間不足の埋め合わせがつかない。
そこで、睡眠時間に目をつけた。
だが、忙しいからこその睡眠ではないのか。
それを逆に削ってしまうのは、なにか重大な勘違いではないのか。

わたしは小学生から三十代の半ばを過ぎるまでずっと胃腸系の病気を患っていた。
薬の服用は言うまでもなく、食事制限もかなりきつい。

炭酸がダメ。
固いものダメ。
辛いものがダメ。
カフェインがダメ。
熱過ぎるものがダメ。
もちろん、冷た過ぎるのもダメ。

仙人のまかないでも書いているようだ。
食べたいのなら、飲みたいのなら、そうしたっていいが、あとで苦しむのは自分。
コーヒーやコーラを飲めるようになったのは、完治した実に三十代半ばを過ぎてのこと。

調子が悪いと、毎晩、二時から三時くらいに痛みで目を覚ます。
胃酸が傷口を灼く。
チクチクでもなく、ズキズキでもなく、刃物を差し込まれるような痛み。
目を覚ますどころではなく、もはや飛び起きるといった感じ。
しかも身動きができないくらい痛むので、ベッドのうえでひたすらうずくまる。

ほぼ毎晩こんな状態であるから、年がら年中、睡眠不足。
夜中に目覚めては、「今時分、みんな寝ているのだな」とさめざめとひとり泣いていたものである。
まあ、泣いてはいないが。

十代から三十代前半までこんな歳月を過ごしたわたしに言わせれば、現代の睡眠の断捨離的風潮には首をかしげる。
短時間睡眠でもその質を上げれば問題ない、すなわち「睡眠に集中する」らしい。
「息を吐きながら吸う」くらい器用なことをしているように感じられる。

痛くて眠れない夜半、雨が降っていると昼間以上にその篠突く音が耳につく。
ざーざー。
世界で起きているのはわたしと雨だけ。
しとしと。

朝、起き抜けに見る雨空ほどウンザリするものもないが、たったひとり眠りの世界から引き剥がされてしまったときには、却って雨の音が暗い気持ちを紛らわす。

折々に降る雨は、日々街に蓄積されていく澱を流し去ってくれる。
腹中によどむ病と睡眠不足による頭の靄も洗い流してはくれまいか。
痛みが軽くなる合間々々にそんなことを思ってみたりもする。

カラ梅雨や冬の乾季に長らく雨が遠ざかったとき、街はいささかほこりっぽくなる。
繁華街の路上には吐瀉物が干からび、ところによっては排泄物の不潔な匂いが立ち込める。

雨は、人間の生活が垂れ流し、溜め込んだ汚泥を粛々と片付ける。
だから、雨が降ったあとの街はどこかこざっぱりして見える。
身体にまとわりついていた重みが薄らぐ。
街が軽くなる。

睡眠だってそうだろう。
頭の片隅にへばりついた気掛かりを溶かし、ともすればネガティブに傾きがちな心の揺れを鎮めてくれる。
ひと晩寝たことで、それまで気付けなかった問題解決の糸口がひらめくこともある。
あたかも雨が街のよどみを洗い流すように。

それを、やれ効率化だ、やれ短時間睡眠だといって削ってしまうのは、ダイエットをするために水断ちをするようなものだ。
雨の降らない大地はやがてひび割れる。
睡眠不足の心身もいたるところにきしみを生じる。
仕事は、量が増えれば質が向上するとも言われるのに、睡眠は、量が減れば質が向上するらしい。

睡眠は万病を癒す治療薬。
悩んだらとりあえず寝ておけ、がわたしの座右の銘である。
睡眠は時間の浪費ではない。
長いあいだ睡眠不足とつきあい、不透明な時間を過ごしてきたわたしには眠りが生産的であることを知っている。
休符を挟めばこそ、その先のリズムが躍動する。

わたしのちょっかいで起こされたネコがさきほどから顔を洗っている。
雨が近づきつつあるようだ。
 
 
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2017-10-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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