メディアグランプリ

祖母の一言


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記事:こっき(ライティング・ゼミ 平日コース)
 
 
祖母の一周忌が終わった。

享年99歳。祖父は30年ほど前に亡くなっているので、今ごろ天国でひさしぶりの再会を果たしているのかな、なんて想像する。

1年前に亡くなった時は、正直、悲しいという感覚はなかった。

なにより大往生だったこともあるし、家族みんなに見守られて幸せな旅立ちだったこともある。とはいえ、小さい頃にとても可愛がってくれた人なのに、我ながら薄情なものだと思った。

ともあれ葬儀で涙を流すこともなく、その後1年間もとくに祖母のことを思い返すことはなかった。

そんな状態で向かえた一周忌。

その日、関東地方の最高気温は33℃。
喪服を着るのがためらわれる暑さの中、僕は奥さんと子どもたちを連れて、車で地元の町に戻った。

この日はとにかく大騒ぎだった。

お寺につくと法要が始まる前に2歳の息子がワーワー大泣きしはじめる。息子は僕になついていないので奥さんだけが対応に追われる。法要のあとの会食の席では、息子が走って転んで口の中を切ってしまい血が出て、僕があやそうにも泣きやまず、また奥さんがその対応に追われる。

大騒ぎする息子、役に立たない僕、一人対応に追われながら僕への怒りをマグマのように溜め込んでいく奥さん……。そんな悪循環の中で会食が終わった。当然のごとく帰りの車は修羅場と化した。今日一日溜めに溜めた奥さんの怒りのすべてが恐ろしい罵詈雑言となって僕に降りかかってきた。

家に帰り、奥さんと子どもたちが眠ったあと、今日初めて一人の静かな時間が訪れた。
運転のため飲めなかったビールをグラスに注いで、ぐいっと飲みこみながら、何やら慌ただしく、そしてどこか情けない一日を振り返っていた。

その時だった。
祖母にずっと昔に言われた一言をふと思い出したのだった。

物心がついてすぐくらいだったので、おそらく5歳くらいのときのことだったと思う。前後の文脈は忘れたけれど、祖母は僕のことを評してこう言ったのだった。

「きっと、この子は大器晩成型だね」と。

僕はすかさず「“たいきばんせい”ってなあに?」と近くにいた大人(おそらく母だったと思う)に聞いたのを憶えている。

そのときは「時間はかかっても最後に成功する人のことだよ」と教えてもらった気がする。

そのときはあまり深く考えなかったけれど、僕はこの一言をその後の人生で何度もかみ締めることになったのだった。

勉強、就職、仕事、恋愛、趣味、子育て、結婚生活……。僕は何をやらせてもとにかく「遅咲き」の男だった。

高校時代は大学受験ギリギリまでどこにも受からないと先生に言われていた。
半分あきらめつつも、最後の冬休みに一念発起。得意科目に絞って勉強して、なんとか志望大学の1つに受かることができた。

大学時代、特筆すべき活動をしていなかった僕は就職活動でも苦労した。
合計30社くらいに連続で落とされて、いよいよ家業の喫茶店でも継ぐしかないかな……と思い始めた矢先に大手食品メーカーから内定をもらった。

メーカー入社後、20代の頃は大した仕事ができずに過ごしてしまった。
30代になってIT企業に転職してからは、徐々に仕事も軌道に乗り始め、40代になった今になってようやく本気で取り組める仕事に出会った。

恋愛も初めて彼女ができたのは20歳になってからだったが、その後は人並みに経験を重ねて、32歳のときにちゃんと好きな人に出会って結婚した。

趣味もずっと人に言えるほどのものはなかったけれど、37歳になって始めたブログにハマって今日までずっと飽きることなく続けられている。

子育ても娘が生まれたばかりの頃はどう接していいか分からず、なかなかなついてもらえなかったが、彼女が6歳になった今になって、ようやくパパとして好かれるようになってきた。

息子の方は……いまだになついてくれていないから、今回みたいな騒ぎになったけれど、昔よりはマシになった(……ような気がする)。

奥さんはといえば……こちらも夫としてまだまだ未熟なため、今回みたいに奥さんを怒らせてばかりいるけれど、少しずつ信頼関係が築けている(……ような気がする)。

まあ、そんなこんなでとにかく「遅咲き」なのだ。

すべては祖母からもらった一言が呪いのように僕の中に打ち込まれた結果ではないかと考えることもあった。「大器晩成って響きはいいけれど、ようするにすぐ成功できないってことでしょう」と。でも今はそんな「遅咲き」人生で本当によかったと思っている。

なぜなら「咲いていない」時期もあきらめずに取り組むことができたし、苦労をした経験がその後、武器になったりするし、何よりも苦しい時期も含めて楽しむことで人生をちゃんと味わいつくしている感覚があるからだ。

おそらく祖母は何の気なしに言った一言だったと思う。

でも人は誰かにふと言われた一言がずっと残ることがある。
それはある時は魔法のように助けてくれるものであり、またある時は呪いのように縛り付けるものだったりもする。

いずれにしても僕は祖母の血を引いて生まれただけでなく、祖母に言われた一言で今もなお生かされているのかも知れないと感じて、感謝の気持ちが溢れてきた。

おばあちゃん、ありがとう。
おかげさまで回りくどい人生だけど、とにかく幸せに生きているよ。

僕はあらためて献杯した。

 
 
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2017-10-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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