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殺し屋のマーケティングならぬ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:海野真琴(ライティングゼミ平日コース)

 

悲劇的な音楽とともに、緞帳が下りる。

 

「やーよかったねぇ。いい作品。……え? まこちゃん大丈夫?」

「ごめん、ちょっと、無理」

 

別にたいした話題作でも、超感動作なわけでもなかった。でも、涙がほろほろとこぼれ落ちるのを止められなかった。席を、立てない。

今回ばかりは、私にとって耐え難かった。

 

私は宝塚大劇場にいた。

宝塚って、どう思われますか?

女の人が男役をしている。

顔の半分を占めるほど大きな目、ブリーチした金髪リーゼント。

昔の貴族のような、大きなドレス。

30kg弱あるらしい大羽根を背負って出てくるトップスター。

電気代が大変なことになっていそうなキラキラした舞台。

すごい容姿をした人たちが、踊ったり、歌ったりしている。

非日常の極み。自分には関係ない世界。私も長らくそう思っていた。

 

たしかに、多くの人にとって、遠い世界であることは間違いない。

でも、宝塚歌劇団には103年の歴史があり、ここ数年は観客数を伸ばしている。

100年以上続いているものって、なかなかない。今からちょうど100年前は、第一次世界大戦の頃。

そんな昔から、ずっと続いてきて、しかも最近右肩上がり。

宝塚大劇場には約3000席もあるのに、最近目に見えてチケットが取りづらくなっている。どんどんファンの数を増やしている。

何か理由があるに違いない。

 

きっと、宝塚を観たことがない人や、中高生のファン、にわかファンには、わからない。

でも、ファン歴数年以上の大人なら、知っている。そのからくりを。

しかも、そのからくりを知った上で、足しげく通っている。

 

私は、不細工な女の子だった。

目は一重で、はれぼったい。

眉は濃いだけでなく、祖父からの遺伝で、前にせり出してくるように生える。

ほっぺたは肉付きが良すぎて、丸顔がさらに強調される。

歯並びは悪く、ガタガタだ。

鼻は低くて丸く、小さい頃から実の両親にさえ、からかわれてきた。

「お前、鼻低いなー」

「まこちゃん、なんでこんな鼻小さいんやろ」

あんたらが産んだんちゃうんかい。と心のなかでツッコミながら、苦笑いでごまかしていた。顔のことについて、とやかく言われるのは、小さい女の子でも、内心かなり傷つく。

 

大人になり、年相応の顔にはなった。特に童顔でも老け顔でもないと思う。

でも小さい時から容姿を誉められたことがなかったから、コンプレックスを抱え、自信がなかった。引っ込み思案で、友達の輪の中でも、おとなしくしていることが多かった。

 

まぁ、私くらいの顔の人はどこにだっている。

劇場にいるファンを見渡しても、別にきれいな人ばかりではない。

どこか容姿のバランスが悪かったり、安っぽい服を着ている人もいる。

おばさん世代には、ウエストにお肉が乗っていたり、化粧が浮いてきてる人もいる。

繁華街で人間観察するのとたいして変わらない光景だ。

 

宝塚を観に来る、ぱっとしない私たち。

「あー、きれいな人に憧れてんのかなー」

そう思われるかもしれないが、違う。今どき、美人をぽん、と置いておくだけで客が集まってくるわけがない。

 

横、なのだ。

舞台の横をオペラグラスで追っかけてるとき、乗せられてるな、と気づく。宝塚のマーケティングに。

 

真ん中には、常に光り輝くトップスターがいる。

トップは言わずもがな、美しい。

神様は不公平だと思うほど、美しい姿。よく通る歌声、気持ちのこもったお芝居。

トップの横には二番手、三番手がいる。

ここも、もちろん美しい。

ピラミッド構造の宝塚の中で、ここまで来れるのはごく一部。

将来トップになるか、なれなくても劇団にとってかなり重要な人たちだ。

そして、さらに横には中堅が控え、舞台の端に、若手がいる。

 

中堅、若手のなかには、なかなか声が出ない人や、芝居がそんなに上手じゃない人もいる。

メイクが上手じゃなかったり、踊りにキレが足りない人もいる。

中には、本当にタカラジェンヌ? と疑ってしまうような人がいたりする。

 

でも、下を向きがちな私たちとは、絶対的に違うのだ。

だって、彼女たちは、タカラジェンヌ。

清く、正しく、美しく、そして朗らかに。

常に背筋はピシッと伸ばし、口角は上がり、前を向いている。

 

そして、一生懸命、努力している。

もし努力を怠れば、すぐに客足は遠のくだろう。観に来てくれるお客さんを裏切ることになるのだから。

中堅は、二、三番手に入れるよう切磋琢磨し、高みを目指している。

若手は、活躍する先輩ジェンヌの背中を見て、いつかあの場面に出られるように、と稽古に励む。

公演を重ねるごとに、より良く変わっていることがわかる。

「あれ? あの人こないだまで歌下手やったのに、上手になってる」

「今まで見えてなかったけど、若手のこの人、すごくいい演技してる」

 

どんどん、顔つきも素敵になってくる。

目が輝き、自信に満ち、魅力が伝わってくる。

 

進化し続けるジェンヌさんを見ていると、私たちも頑張らないと! 下を向いている場合じゃない。自分の良くないところは改善して、元気を与えられるような存在にならないと。私たちがジェンヌさんから元気をもらうように。

自然と、そう思う。

私たちファンは、若手のさらに下層にいるのだ。

 

あの日、私が泣かされたのは、ずっと元気をもらってきた中堅男役さんが退団してしまうからだった。

彼女がいたから、私は毎日「今日も頑張ろう、彼女のように」と気合を入れて会社に行けた。

 

劇場に来てもらうことで、ファンに元気と希望を与え、また来たいと思わせる。

上手なマーケティングに、私はまんまとハマっている。

 

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2017-11-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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