メディアグランプリ

星は人を勇者に変える


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記事:Miyuki Iwama(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
「昼間なのに、星って見えるものなんですか?」
と素人丸出しのわたしたちに天文スタッフのSさんは
「昼間は周りの明るさに負けて私たちには見えていないだけなので、曇ったり霞んだりしていなければ、明るい星であれば見えますよ」
と優しく教えてくれる。
 
「ここ覗いてみてください。白鳥座のベガが見えますので」
と促されて、わたしたちはそれぞれに昼間の空に向かって伸びている望遠鏡を覗き込んだ。
覗いた先には、うす水色が広がっていてその中心に針で突いたくらいの小さな白い光が見えていた。
 
土曜日、遅めの昼食を食べに出かけた帰り、夫の運動不足解消に散歩でもしようと思って寄り道した公園での出来事である。
 
望遠鏡を覗き込みながら、幼稚園・小学生のことを懐かしく思い出していた。
私の家から歩いて1分もかからないところにあった児童館にはプラネタリウムがあった。
幼稚園の頃は遊びに困ったときにおばあちゃんに連れられて、時間を持て余していた小学生のころは50円で観覧できていたので暇があれば、友達と観覧していたように思う。
ベガと言えば、夏の大三角をつくる星の一つ。
私は昔、何度も聞いた星の名前が懐かしく興味深く話を聞いていた。
 
一方の夫は、普段仕事で使っている顕微鏡とは逆の顕微鏡と言う装置や、星の明るさや見た目の距離について興味を持ったらしい。
Sさんから、星の色の違いは表面温度に差があるためで、若い星は青くて、おじいちゃんの星は赤っぽいことや、ベガは近くて明るく見えている星だが、同じ夏の大三角を作るデネブは遠くにあっても明るく見えている星なので、地球からの距離がもし同じであれば、デネブは尋常じゃなく明るいだろうという話を楽しそうに聞いていた。
 
20分は話しただろうか。
風が強く肌寒くもあったため、そろそろ帰ってもいいかな……と思い始めたところに、夫がさらに質問を重ねた。
「Sさんは昔から星が好きだったんですか?」
普段、他人の人生についてあまり興味を示さない夫から出た意外な質問に驚いていたのだが、返ってきた答えもまた意外なものだった。
「自分は、星に興味を持ったの遅かったと思いますよ。20代も後半の頃で、普通に社会人になってからのことなんです」
私も夫も、星を見る人は、昔から空を見上げるのが好きだったんだろうと勝手に思っていたが、その予想はあっさりと外れた。
 
何がきっかけだったのかを聞くと、仕事からの帰り道、夜空を見上げて見えた星が、何か知りたくなって本を一冊買ったことが始まりだったとのこと。
自分が知りたかった星についてどんな星だったかがわかると、知らなかったことを知れた喜びで、自分の頭の上に広がっている他の星についても次々と知りたい気持ちが止まらなくなったそう。
昔は、星について知っている人が役人に登用されたり、星に合わせて戦術を立てたりしていたことを知るとさらに面白くなってきて……と落ち着いた言葉の中にも熱のこもったSさんの話に私たちはどんどん惹き込まれていった。
 
「今は、星のことを仕事にできているので、こうやって話せますが、趣味が高じて、ぼんやり星についての仕事ができればいいなぁ……。と思うようになったんですよ。当時を振り返ると、自分でも可笑しな話だなって思うんですけど、あるはずないと思いながら、星に関われる仕事の求人をポツリポツリと探すようになって、求人を探し出したら探し出したで、段々その気になってきちゃって……」
 
「見つかっちゃったわけですね!!!」
夫と私は、ほぼ同時に声を発した。
 
「本当に。まさかと思いましたよ。こんなにぴったりの仕事があるなんて。求人自体が少ないので、求人さえあれば、どこにでも行くつもりでした。“どこにでも”は言い過ぎか……。西日本の範囲なら、迷わずどこにでも行く覚悟でした」
 
「でも、自分の地元の隣町で見つかったんですよね。自分でも、びっくりしました。当時、仕事で、隣県に赴任していたのより、地元に近くなったんですから」
 
そもそも、星に関わる仕事なんてそう多くはなさそうなのに、タイミングよく、また、地元で見つけることができるなんて……。
隣で夫が得意げに
「星の導きですね」
なんて言っている。
 
優しいSさんは
「そう……かもしれないですね」
と相槌をうって、
「仕事にまでしてしまったのは極端だったと思うんですが、空を見上げるのは何歳だと遅いとか早いとかはないと思うんです。もちろん、星を見ること以外のことも同じです。空はみんなの上に平等に広がっているんですから、いつでも見上げてみてくださいね」
という言葉で見送ってくれた。
 
それからというもの、住宅の明かりで、多くの星は見えないけれど、仕事帰りに私は星を探して空を見上げることが多くなった。
 
“何歳でも遅くないよ。みんな平等にチャンスは広がっているんだから”
見上げる度に、背中を押され何でもやれそうな気になってくる。
星空には、人を勇者にする力がありそうだ。
 
***

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2017-11-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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