メディアグランプリ

「できない」は「できる」のサナギ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:青木文子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
15年前の、ある暑い夏の日。
「余分なことしないでちょうだい!」
怒った声が飛んできた。声の主は園長。子どもを通わせている保育園の園長だ。
「プールに入りたいかどうかはその子が決めるのよ。できないことを大切にしてちょうだい」
声が向かってきた先は子どもでなく、親の私に向かってだ。
保育園は自然保育の保育園。0歳から6歳までの全員で20人ほどの小さな保育園だ。冬も半袖半ズボン。足元は1年中ゴム草履。その保育園のプールは少し変わっている。プールは手作りで大きさは4畳半ぐらいの大きさだろうか。毎年お父さんたち、お母さんたちが手作りでこのプールをつくる。園庭にある2mほどの小高い土山。その土山の横にベニヤ板を立てて、3方を囲う。ベニヤ板が倒れないように杭を打つ。そこに土山から覆えるような大きなブルーシートをかけるとプールの出来上がりだ。プールが出来上がると、早速水を入れる。子どもたちは土山の上にホースを持って行って水を流しながら滑ったり入ったりして夏中遊ぶ。それがこの保育園の恒例になっていた。
その保育園に子どもが入園したのはちょうど2歳になった夏のはじめだった。私は子どもの入園と一緒にその保育園で働きだした。
こじんまりとした保育園だった。自分の子どもの様子はいやでも目に入ってくる。子どもはプールに入りたがらなかった。水を怖がる。他の子どもたちがプールに入って歓声を上げているのを、テラスに座ってじっと見ている。そんな子どもの様子に「プール入ってみたら」と声をかけた私。そこに飛んできたのが「余分なことしないでちょうだい!」という園長の声だった。「できないことは大切な時期なのよ。それを親があれこれ言わないで」
その時の私には、できることは良いことだという目線があった。できることは〇、できないことは×。子どもに向けての目線はなおさらだ。子どもはできないことだらけだ。できないことよりもできることは良いことだ。「プールに入ってみたら」という言葉の中に、この子はプールに入ることができない、それをできるようになってほしいという気持ちが確かにあった。それを見抜かれた気がした。
9月もそろそろ終わりのある朝。来週はもうプールを片付ける、そんな秋の始まりの頃。保育園の朝当番をしていたので朝はやく子どもと一緒に保育園にいった。朝7時誰もいない保育園の鍵をあける。広い縁側に面したガラス扉を開けはなすと朝の空気が入ってくる。目の前はプール。子どもがプールの脇に立っていた。プールの水面を見ていた。水の少なくなったプールに、子どもが服のままそっと入って足を水につけた。私は声をかけなかった。園長に怒られたあの日からもうなにも言うまいと決めたのだった。その日昼間、他の子の声に交じって子どもの歓声が聞こえてきた。ふと目をやると子どもがプールに入っていた。子どもは全く違う表情でプールの中で夢中になって遊んでいた。
一つの風景が思いうかんだ。子どもの頃に飼っていたモンシロチョウのサナギだ。子どもの頃、キャベツ畑でモンシロチョウの卵をみつけてきてよく飼っていた。小さなプラスチックの飼育箱の中、モンシロチョウの卵は孵って幼虫になる。小さなモンシロチョウの幼虫はキャベツを食べてどんどん大きくなる。ある日、幼虫は動かなくなる。翌朝起きてみると飼育箱の隅にくっついてサナギになっている。何日かたったある日、サナギは羽化してモンシロチョウになる。ベランダに出て飼育箱の箱を開けると、ひらひらとモンシロチョウは空に飛んでいく。
私はこう思うようになった。「できない」の反対が「できる」ではないのだ。「できない」は「できる」のサナギだ。プールに入れない、入らなかった子どもの中に、何かが静かに進んでいたのだ。サナギには羽がない。サナギは空を飛べない。でもサナギの中でモンシロチョウになる準備がちゃくちゃくと進んでいる。
もし、私がなにかを「できない」と思うときは、焦らなくていいのだ。なぜなら「できない」と思うことは、もう私の中で「できる」が静かにはじまっている証拠だから。もし、あなたが「あれができないのに」と思っても凹むことはない。なぜなら、それはあなたの中ではもう「できる」が羽化を待っているということだから。
「できない」は「できる」が羽化をするための大切な時期。園長はきっとそれを私に伝えようとしたのだと思い返す。「できない」時は静かに待てばいい。「できない」を大切にすればいい。「できない」を大切にすることこそが「できる」が綺麗に羽を広げるために必要なことなのだから。
 
 
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2017-12-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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