プロフェッショナル・ゼミ

ツヤツヤしたモノを見て、興奮してしまう女とは?《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:松下広美(プロフェッショナル・ゼミ)

「ちょっと遅くなっちゃいましたけど、金柑、持ってきましたよー」

「ズバリ!」と言いそうな感じで、ピンと人差し指を立てながら、近づいてくるのは、同じ会社の山田さん。ご自宅で生っている金柑を持ってきたことを教えてくれた。
何年か前から金柑をいただくようになった。初めてのときに「わーい」って喜んだら、毎年のように持ってきてくれるようになった。
「ありがとうございます!」
「今年は色づくのが遅いかなーって思ってたんですけどね、ひとつプチって採って食べたら、まあまあ甘かったんで大丈夫かなーって。昨日、お休みだったから、脚立の上によじ登ってね、採ったんですよ。ピューって風に吹かれて、ひゃーってなりながら、カンタロウになるかと思いました」
カンタロウ?
「北風がピューって吹くからね、脚立の上に立ってるでしょ。もう大変で」
あぁ! 北風小僧の寒太郎!
自分の中で疑問を解決して、山田さんに返事をする。
「昨日は、寒かったし、風も強かったでしょう」
「いやね、昼くらいだったから、そうでもなくてね」
ちがうんかい! と心の中で突っ込み、ちょっと長くなりがちな山田さんの話を、どうやって止めようか考える。
「いつもありがとうございますー。金柑、甘露煮にして食べますねー」

毎年もらう金柑は、甘く煮て食べる。

だいだい色よりもちょっと薄い色をした金柑。
煮ているあいだに皮がやぶれないように、3つ切れ目を入れる。
「いち、に、さん。いち、に、さん」とリズムを取りながら、包丁を動かす。小さめのどんぶり1杯くらいある金柑に、ひとつひとつ切れ目を入れていく。
少しゆでて、苦味をへらす。
あとは、砂糖を入れて、煮るだけ。焦がさないように、ゆっくりゆっくりと。甘い香りが部屋中にいっぱいになり、ほわっとした香りが幸せな気持ちを運んでくれる。

あ、そうだ。
金柑の甘露煮を、おせちに入れよう。
あとは、黒豆、田作り、出し巻き卵にローストビーフ……。
ふふっ、楽しくなってきた。

若い頃は、家で作るおせちなんて、と思っていた。
デパートだったり広告に入っているようなものを買えばいいじゃん。
家で作るものよりも、ずっといいものが食べられるし、なにより時間をかけなくてもいいし。年末はみんな忙しいんだから、時間をお金で買う感覚で、揃えちゃえばいいんだよ。そのおせちを作る時間、もっと友達とも遊びたいし、いろいろやりたいこともあるし……。

そう思っていたから、年末は友達との約束をたくさん入れて遊んでいた。
ちょっと後ろめたさも感じながら、遊びに行く。年末のことをやらなくたって、年は変わるんだし、大丈夫だよって、自分に言い聞かせながら。
それでも実家暮らしで、家のこともしないと後でどれだけ怒られるかは、大人になればなるほどわかってくる。わかっているのに怒られるのもなんだか面白くないから、遊びには行かずに年末のギリギリまで仕事を入れるようになった。仕事だから仕方ないじゃん、と言い訳をして、それでも、あーなんで私ばっかり、と、囚われた鳥のようだと思いながら年末は過ごしていた。
拘束の反動からか、20代も半ばを過ぎた頃から、お正月は海外旅行に行くようになった。お正月だったら、何をしていてもいいだろうと。
年末ギリギリまで仕事をして、海外へ逃亡し、帰ってきたら、すぐ仕事。
そんな年末年始を何回か繰り返していた。

お正月を過ごしている感じがしない。
ふと、思った。
年は越したと、新聞やテレビが言っている。人に会えば「あけましておめでとう」という挨拶が交わされる。仕事で書類に書いている年も、ひとつ足されたものになっている。
それなのに、なにかが違う。
いや、何も違わない。お正月だよ。年は越しているんだよ。自分に言い聞かせてみる。それなのに、違う、という感覚が心の中に広がる。その違うが、すき間を作る。そのすき間を冷たい風が通りぬける。
寒い。
季節は冬だから寒いのは当たり前だけど、自分の奥の方で寒いって言っている。
いったい、なんなんだろう?

そう思ってから、その次の年末年始を、年末っぽく、お正月っぽく過ごしてみた。

年末年始をどう過ごすと、それっぽくなるのか。
買えばいいのに、と思っていたおせちを作ることにした。
今までみたいに、片手間のお手伝いではなく、母と一緒に、それぞれ担当を決めながら。食べたいもの、作れそうなものを考えて作っていく。
しかし、いざ作ろうとすると、どれも時間がかかることがわかる。
「20分くらい、から煎りしてください」とか「一晩おいてください」とか。それでも、時間をかけて、合間に掃除をしたりしてバタバタ過ごしながらも、作っていく。
もう、紅白のオオトリも歌い出すような、年を越すギリギリになって、お重におせちを詰め終わる。

見た目も、品数も、なにもかもが買ったものより劣るけれど、それなりの、おせちだとわかるくらいに、形になった。あれもこれも足りないな、と思うけれど、なんだかニヤニヤしてしまうし、誰かに自慢したくなった。

それから、何年もおせちを作っている。

今では、クリスマスや年末のどんなイベントよりも、おせち作りが楽しみでしょうがない。
12月に入ると、料理番組をチェックして、定番のおせちの復習をして、新しいおせち料理を研究して、今年の料理番組のテキスト本を2冊も買ってしまった。毎日のようにパラパラめくりながら、何を作ろうか頭に思い浮かべて、ニヤニヤする気持ち悪いやつになっている。
年末の予定を聞かれると「おせち作らなくちゃ」と、食べてもらうわけではない人にも、おせち作りのことを話してしまう。
そんなことばかり言っていると、私も年をとったのかなぁ、と思ってしまう。
30歳を過ぎるまでは少しも考えなかったことだから、そういうことなのかもしれないと思うけど、ずっと当たり前のように家で過ごす年末年始を過ごしてきたのではわからなかったことでもある。
いろんな時間の使い方をしてきて、大切に使う時間がどんなものなのかがやっとわかった、という気がする。

もちろん、年末年始を海外のリゾートで過ごすという生活に憧れがないわけではない。うらやましいなと思うし、たまにはそんな優雅な過ごし方をしてみたいなと思う。
私はたぶん、優雅に過ごしても、次のその時期がきたら、やっぱりおせちが作りたいってなるんだろうなって思う。
そういう過ごし方をしている人たちにとっては、それが「お正月っぽい」ということであって、いろんな人たちの、いろんな「っぽい」がある。
もちろん、20代の頃に、今の私の姿が想像できなかったのだから、40代50代……それ以上になったら、その「っぽい」が違うものに変化するのかもしれない。
でも、今の私にとっては、どんな楽しい遊園地のアトラクションよりも、どれだけ盛り上がるライブよりも、おせち作りに対して興奮してしまうことは間違いない。

大切に使う時間が、おせちに入れるたくさんの料理をおいしくしてくれる。
時間も大切な調味料の一部になっているんだなって、ツヤツヤに煮詰まった金柑を見て思う。
そして、ツヤツヤにできあがった金柑の甘露煮を、おせちの中の主役にしようか脇役にしようか、考える。だいだい色にはどんな色が合うんだろう。甘い金柑の隣にはなにを詰めようか、いろいろ考えるだけで、楽しくて仕方がない。

今年のおせちも、おもいっきり楽しむことにする。

さて、次はなにを作ろうかな。

***

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