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デザイナーズチェアはデザインで選んではいけない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:渡邊壽美子(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「椅子の設計は、一軒家の設計と同じくらい大変なんです。有名な建築家には、椅子の設計をしている人もいます」
その先生は続けた。
「デザインももちろん素敵ですが、座り心地がいいですよ。お店に行って、是非、座ってくださいね」
そう教えてもらい、買う気もないのに、家具屋に行っては、デザイナーズチェアに座っていた時期があった。はっきりいって困った客である。すっかり椅子オタクになってしまった。
 
若い頃、転職しようとインテリアの学校に通っていたときがある。働き方改革が叫ばれる昨今とは違い、毎日深夜まで働いていた。充実した毎日だったが、夜一人になると、時々、ふと空しくなって涙が出ることもあった。こんな生活をずっと続けていくのが不安になり、キャリアカウンセラーの知り合いに相談をした。話をじっくり聞いてもらううちに、建築家になりたかったという夢を思い出した。
 
さすがに建築家は難しいので、インテリア・コーディネーターを目指して週2-3回インテリアの学校に通うことに決めた。集まってきている同級生は、システムエンジニア、事務スタッフなどが多く、本気で転職を考えていた。宿題もかなり多かったがみんな真面目に取り組んでいた。
 
私も、出張時に、新幹線で宿題の図面を描いたりした。車両が揺れて全然うまく描けなかったが、夢をもって頑張る自分に酔っていたのかもしれない。インテリアの学校に行くのも、とても楽しかった。色の知識、図面の描き方、家具の選び方などを学んだ。そして1年間後、無事に資格試験に合格することができ、夢が現実になろうとしていた。
 
しかし、いざ転職しようと、先輩の話を聞くと、足がすくんでしまったのだ。華やかにみえるインテリアの仕事は、実はとても厳しい仕事だということが、だんだんわかってきた。クレームも多いし、職人さんとのコミュニケーションが結構大変だと聞いた。全然言うことを聞いてくれない職人さんもいるようだ。自分の好きなデザインをするのと、お客様の思い描くイメージを形にするのは違う。決定的になったのは車の運転だ。車で現地に材料や小物を運んで、路上駐車をするのが日常だという。私はクルマの運転が大の苦手なので、夜は怖くて運転できないし、縦列駐車なんて何回やっても自信がない。もちろんどういう仕事も大変なのだろうが、現実を知るとインテリアの仕事をする自信がなくなってしまった。1年間通った学校はなんだったのか。今考えると、現実逃避したかっただけなのかもしれない。こうして、私の夢は終わりを告げ、私は今の会社、今の仕事で踏ん張っていこうと腹をくくった。
 
そして、15年の時が過ぎた。
 
ある日、夫が、テーブルと椅子が、安く手に入るから検討しようと言ってきた。椅子オタクの私は、ワクワクしながら家具屋に行った。夫は既に、ある椅子を候補にしていた。北欧の設計士がデザインした椅子だ。本当は私も選びたかったが、夫を意見に従った方が、家庭平和のためによいと思った。夫のお奨めの椅子に5分ほど座ってみたら、丸みを帯びた肘掛がついたデザインで、包まれるような安心感がある。なかなか快適だ。若干高いが、一生ものである。奮発してボ-ナスで買うことになった。
 
そしてついに、我が家に椅子がやってきた。気のせいかもしれないが、部屋がオシャレになったような気がする。夫も満足そうだ。早速、家族3人で座っておやつを食べた。
「はーちゃん、テーブルと椅子、傷つけないように大事に使うんだよ」
夫は、早速娘に注意している。
私も
「この椅子、お嫁に持っていってもいいよ~」
などと、調子にのって言ったら、
「いらない」
とあっさり断られた。ウキウキしている夫婦に比べ娘は冷静である。
 
しばらく、ご機嫌で生活していたが、問題が起こってしまった。私は月に数回在宅勤務の制度を使って仕事をすることがあり、そういうときは、ほぼ1日中椅子に座っている。この椅子に長時間座っていると、腰が痛くなってしまうのだ。
 
夫に
「この椅子にずっと座っていると腰が痛くなっちゃうんだけど、どう?」
と聞くと
「俺は、ずっと座っても大丈夫」
という答えが返ってきた。そうか、夫と私は身長が全然違う。深く腰かけると、私の足は浮いてブラブラしてしまうのだ。
 
以前インテリア学校に通っていたときに、先生が
「自分の体重を預ける寝具や椅子などの家具は、よく吟味してくださいね」
としつこく言っていた。なるほど、こういうことだったのだ。そういえば、椅子には最適な高さがあると教えてもらったような気がして、Googleで検索すると、最適な椅子の座面高=身長×0.25-1㎝とある。計算すると、この椅子の座面は、私には4㎝ほど高いのだ。デザインのカッコよさに舞い上がって、そんなことは忘れていた。全然学びが生かされていない。やれやれ。購入するとき、脚の長さを調整してもったらよかったなと思った。
 
北欧の美しいデザインの椅子。見た目は完璧だが、長く座るときは自分に合わないようだ。
 
ふと、こういう状況は前にもあったような気がしてきた。そうだ。一見華やかなインテリアの仕事をしようと学校に通ったが、いざ仕事をするとなると、自分に合わないと気づいたときだ。
 
デザイナーズチェアはデザインで選んではいけない。自分に本当に合うかをよく考えなければならないのだ。
 
きっと、仕事や結婚や家もそうだろう。生活の基盤になるような重要な選択では、表面に惑わされず、自分に合うかどうかをよく見極めなければと、改めて思った。
 
 
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2018-03-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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