プロフェッショナル・ゼミ

母になったら、夢を追ってはいけないのか?《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:相澤綾子(ライティング・ゼミ プロフェッショナルコース)

「早く車に乗りなさい!」
振り向くと、保育所の駐車場で、左腕に1歳くらいの子を抱きかかえた母親が車のそばに立っていた。上の子が小さなリュックを背負って走っている。母親とは反対側から乗ろうとして回り込む。
「違うでしょ、そっちじゃないでしょ」
かなり語気がきつい。外だからといって周囲の目を気にしたりしないタイプなのか、あるいは、もう人の目など気にならないくらい、気持ちが追い詰められているのだろうか。
相当疲れ切っているのだろう。
昼間仕事をして、これからその二人をつれて、家に帰らなければならない。子どもたちの父親はいつ頃帰ってくるのだろうか。多分、10時とか、子どもたちが寝静まった頃だろう。それまで一人で全てをこなさなければならない。子どもたちを車から降ろし、ごはんの支度をして、片付けて、保育所の汚れ物を洗い、明日の準備をして、お風呂に入れて、お風呂から上げて、子どもたちを寝かしつけて。
なぜ自分だけがこんなに頑張らなければいけないのだろう。

私にもたまにそんな時があるからよく分かる。きつく言うとびっくりするくらい、子どもたちがよく動く。けれど気持ちのよいものではない。しばらくすると後悔する。でも、時々またそんな風に無理やり動かそうとしてしまう。

子どもの成長や言葉、しぐさを見て、かわいいなあと思うこともある。ただ、想定していた通りに動いてくれない子どもたちと過ごしていると、とても疲れるのだ。自分が少しずつすり減っていくような気がする。別に自分の思う通りにいかないことなんて、子育てだけではない。仕事だって、家事だって、人付き合いだって、あらゆることが、自分の思う通りにことが運ばないことがある。でも子育てに関してだけは、他のこととは全く違うのだ。

子どもはものすごいエネルギーで自分のやりたいことに集中する。当然のことだ。例えばうちの次男はYouTubeを見たがったり、絵を描きたがったりする。夜は風呂に入れる時間になり、終わらせようとすると、「まだ少ししか遊んでない」と文句を言う。風呂上りにも下の子の世話をしている間に、テーブルの上に画用紙を広げて、また絵を描き始める。指がカラーペンの色で汚れるくらい夢中になる。何の絵を描いているかはっきりと分かるまで時間がかかったけれど、今では描きたいことが伝わってくる絵になった。YouTubeを見て思いついた絵を描いたりもしている。思う存分やらせられたら、どんどん上手になるかもしれない。でも一日の時間は限られている。生活のリズムを身につけさせたい、しっかりと睡眠時間をとるようにしたい、ということもある。寝る時間が遅くなると翌朝に響いて、出発時間に影響する。
何が正解なのか分からない。親である自分の望むようにすれば、それでいいというわけではない。まだ相手は小さいといえ、ちゃんと人格を持っている。そして、友達付き合いの場合のように、気が合わないから距離を置こうというわけにもいかない。
子育ての霧の中で、どこを目指せばよいのか分からず、毎日どっと疲れている。

それが天狼院ライティング・ゼミを受講し始めてから変わった。
子どもの頃から、書くことを仕事にしたいと考えていた。でも実際は普通に就職した。いつか書くことを仕事にしようと思いながら、ここまで過ごしてきた。でもある時天狼院ライティング・ゼミの広告が目に入った。そして気付かされたのだ。このままぼんやりと夢を描いていても、何も始まらないと。
私は一週間考えた。自分にできるだろうか。受講料を無駄にしてしまうことはないだろうか。そしてそれによってもっと自信を無くすことにならないだろうか。そして、心配よりもチャレンジしたい気持ちが勝った。
生活の中で、書くということが目的になった。書く時間を確保しなければいけない。やりたいことがあると、それを達成するために、必死になれる。子どもたちに対しても、イライラしたりすることなく、不思議と早く寝るように仕向けたりすることができるようになった。どんな風に声掛けするかも、ライティングのレッスンの一つになる。
そして、9時半から1時間半か2時間、自分のためだけの時間を過ごす。自分の時間を過ごすのは、当たり前のことだけれど、とても楽しい。うまく書けなくても、つらくて何のためにこんなことをしているのかなと思っても、また翌日には書きたくなる。そのために毎日頑張れた。以前より睡眠時間は少し減ってしまっていたけれど、身体のどこかからか不思議な力が湧いてくるような感じだった。

ところが、一週間ほど前、財布を落とした。
しかも、その日に限って、ちょっとまとまった額を入れていた。免許証やカード類も入っていたので、その処理をするのに時間を取られた。何より自分がそんな失敗をしてしまったことがショックだった。

すぐに頭に浮かんだのが、今の自分はかなり無理をしているのかなということだった。仕事もたてこんでいて、ここ数日ミスを連発していた。疲れていると分かっていても休みがとれない状況だった。夫もいつもに加えて忙しく、平日の夜子どもたちが起きている時間に帰ってくることは全くなかった。家の中のことの大半を私ひとりでやらなければいけなかった。
仕事も家事もやめるわけにはいかない。切り捨てられるとしたらライティングなのか。何より、子育てをしている身で、こんなに楽しいことをしていてはいけないのか。許されないことなのか。無理やり自分のやりたいことをやっているから、罰が当たったのか。この時間を家事に充てて子どもが起きている間はもっと関わりを持った方がいいのではないか。もうライティングなんてやめた方がいいのか。

そんな気持ちを持ちながら書こうとしても、書けるはずがない。書けなくなった。パソコンに向かって書こうとしても、イメージしていたことだけを書くとそれで終わりになってしまう。それ以上先に進めない。
それだけではない。書くことに罪悪感を覚えた途端、書く時間を確保する気力が失せた。代わりに子育てに専念するようになるかといえば、そんなことはなかった。ただ毎日が疲れるだけで夜は子どもと一緒に寝入り、朝も目覚まし時計が鳴っても、止めるだけでなかなか起きられない日が続いていた。
クレジットカードを変更したことで、また別の面倒な手続きが必要になることに気付いて、精神的に疲れたりもした。またちょっとイライラしたりするようになった。
周りの見えない霧の中にすっかり戻ってしまった。

以前私の母が言っていた。子どもを産んで育ててこんなに老けてしまったと愚痴を言ったら、祖母が「鮭の母親だったら死んでいるんだよ。生きられているだけいいじゃないか」と答えたという。祖母は母を慰めるために、生きられていることに感謝しようという意味で言った。うまいことを言う。でも本当にそれだけでいいのだろうか。

確かに、鮭だったら子どもを産んだところで死んでしまっている。でも人間にはその先が用意されている。日本女性の平均寿命は80歳を超えていて、子どもが成人して、その子どもを産むような年齢になっても、まだ人生が残されている。
その時になってから、自分の楽しみを生きればいいのか。でもそれでは遅い。遅すぎる。今じゃないとダメなんだ。私は今、書きたいという気持ちに気付いてしまって、それを寝かせておくわけにはいかないのだ

だから、財布を落としたことを、罰だなんて思わずにいよう。自分が楽しいことをする権利は誰にでもあるのだ。母親だからといって、子育てだけを頑張らなくてもいいはずだ。自分の楽しい姿を見せることで、人生を楽しめる大人になりたいと思うかもしれない。財布を落とした私を元気づけるために、息子は絵本を作ってくれた。大好きな恐竜の絵がたくさん描いてある 。タイトルは、「きょうりゅうがいまいきていたら」
「ママが本を作るお仕事をしているから、僕も絵本を作ったよ」
「ありがとう。ママは、まだ本を作ることはお仕事にはできていないんだよ。書くお勉強をしているんだよ」
本を書けるくらい、文章が上手になるように、ママは頑張るよ。

母になったら、夢を追ったらいけないのか。そんなはずはない。母が夢を追っているのではなく、夢を追っている私が、母親もしているのだ。

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