私は、卒業することにした。《プロフェッショナル・ゼミ》
*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:松下広美(プロフェショナル・ゼミ)
「すごい! いいっ!」
眼の前にいる人は、私の撮った写真を見て、ほめてくれた。
でも私は、私に向けられた言葉に素直になれなかった。
なんだろう、このモヤモヤした感じは。
ほめられているんだから、よろこぶべきなんだと思う。確かに嬉しい気持ちもあるけれど、100%喜べない。
その理由は……。
写真を撮ることは好きだった。
高校生の頃は写ルンですの使い捨てカメラを持ち歩いていた。みんなが当たり前のように使い捨てカメラを持ち歩き、お互いを撮りあって、写真を交換していた。大学生になってしばらくすると、デジカメというものが出てきた。欲しい欲しいと言っていたら、父が何かの景品でデジカメをもらってきた。初めて目にして、手にすることができたとき、ものすごく嬉しかった。その時のカメラは20万画素というおもちゃのようなレベルで、今のカメラと比べると雲泥の差ではあるけれど、当時の私には革命的なものだった。それまでは写真屋さんに持っていって、プリントしないと写真にはならなかった。それが写真を撮って、すぐにパソコンで見ることができて、プリンターさえあればすぐに印刷して写真になる。なんて素敵なことなんだろうと。
社会人になって初めてのボーナスで、新しいデジカメを買った。
いつでもデジカメとともに過ごし、目に映るきれいなもの、珍しいもの、面白いものを撮り歩いた。携帯電話のカメラの性能が上がり、デジカメと同じくらいの写真が撮れるようになってくると、一緒に過ごすのはデジカメではなくて携帯電話になっていった。きれいな写真がいつでもどこでも、気軽に取れるようになった。
そんな日々に不満も持たずに過ごしていた。
「えっ、すごい……」
1年ほど前、天狼院書店のフォト部で一眼レフのデジカメに出会った。
出会ったといっても、初めて目にしたわけではない。一眼レフを欲しいと思ったことは何度かあるし、電器屋さんで見たりもしていた。でも、値段は高いし、よくわかんないしで、そんなガチのカメラをなんか持たなくても、iPhoneのカメラで、気軽に撮れる写真で充分だし……と思っていた。でも、フォト部で撮られた写真を見て、実際に撮っている人たちを見て、そんな考えはキレイさっぱり洗い流された。撮った作品もステキだし、撮っている人たちも輝いていた。私もあちら側の人間になりたい。一眼レフを手に入れて、あんな素敵な写真が撮りたい……と思った。
念願の、一眼レフカメラを手にしたのは昨年の9月のこと。
どこへ行くにもカメラを持ち、出かけた先でいろんな写真を撮った。
携帯電話では撮れないような写真をいろいろ撮った。パキッとピントの合った写真、背景をおもいっきりボカした写真、明るくしたり暗くしたり、上から撮ったり下から撮ったりとアングルをいろいろ変えた写真も撮った。
一眼レフを持っていなかった、今までの時間を取り返すようにガンガン写真を撮った。今までは景色とか食べたものとかしか撮っていなかったけれど、ポートレートのように、人を撮ることの楽しさも知った。
たくさん撮っていく中で、自分でも「おぉー」とうなるような写真だって撮れた。
「いい写真!」
一緒に撮った仲間たちで写真を見せ合うときに、直接ほめてもらうこともあったし、SNSに写真をアップして「いいね!」をもらうこともあった。
自分でいいと思う写真をほめてもらうことは、嬉しかった。
でも……。
ある日、なんだか、もやっとした気持ちがあることに気づいた。でもその気持ちは最初、素通りできるくらいの小さなものだった。ぐるぐるっとかき混ぜてしまえば、その存在などなかったことにできるくらいのものだった。
でも、日が経つにつれて、ほめられる回数が増えるにつれて、もやっとした気持ちは、そこにあるんだと気づくようになった。
もやっとしたものが小さなうちは、なぜそんな気持ちになるのかわからなかった。でも、その気持ちに気づき、大きくなるにつれて、なぜそう思うのか、なんとなくわかった。
「カメラにおまかせモードから卒業しよう!」
天狼院のフォト部のお知らせで流れてきた。
これだ!
私が求めていたものは。
カメラはシャッターを押せば写真が撮れる。
一眼レフカメラは性能が高いので、カメラにまかせたオートモードでもきれいな写真が撮れる。なんとなく覚えた、絞りを調整する、ということだけの『絞りオート』でプロっぽい写真を撮った気分になっていた。
もやっとしていたのは、私が撮った写真じゃなくて、カメラが撮った写真になっていたから。カメラが選んだ条件で撮っているのに、私が撮りました! って、胸を張っていうなんて、人の手柄を取っているような気がして、なんだか違うって思ったのだ。
それでも、結構いいカメラを持っているのに、今さら基本を教えてくださいって言えなかった。マニュアルモードを使わなくても、いい写真が撮れていたから、こういう場面ではどの条件で撮ったらいいの? って、聞けなかった。つまらないプライドだとはわかっていながらも、勇気がなかった。
でも、これなら気軽に参加しても、いいかな。
今さらだと言われるかもしれないけど、参加することにした。
「実は、マニュアルで撮ったことないんだよね……」
先生である、なっちゃんに正直に告白する。
「じゃあ、今日はマニュアルモードで撮ることを目標にしましょう」
目標は決まった。
大丈夫だろうか。急に不安になった。
途中で「やっぱりムリー」ってならないだろうか。こそっとオートで撮りたくならないだろうか。
「F値1.8で、ISOを100にして、シャッタースピードは……」
外に出て、ひとりでブツブツ言いながら、設定をする。
そして、シャッターを切る。
「あー」
撮れた写真は、明るすぎて、まっしろ……。
今までは、ここで諦めていた。すぐにオートモードに戻っていた。
でも、今日一日だけは、挑戦しようと思った。
だって「カメラが」じゃなくて、「私が」写真を撮りたい。
えっと、明るいってことは、シャッタースピードを早くするのか? 遅くするのか? え? ISO感度は?
「写真を撮ることは、光をどれだけ映すかってってことです」
なっちゃんの言葉が思い出される。
そうか、光か。
明るすぎるなら、光を入れるのを少なくすればいいのか。
じゃあ……。
またブツブツ言いながら、シャッターを切る。
「おぉっ!」
シャッターを切った瞬間、そこに写った写真には、光が溢れていた。
完成度としては、きっと低い。
それでも、自分で設定をして撮れた写真は、今までに撮れたことのない写真だった。
いろいろ設定を変えながら撮っていくと、「そうそう、こうやって明るくしたかったんだよ!」とか「うわっ! 色もこんなにきれいに出るの?」とか、少しずつだけど、頭に浮かんだ画が、写真として残せるようになってきた。
まだ、カメラを使いこなせているとはいえないし、未熟な写真も多いと思う。
でも、そこに見えた写真は、「私が」撮った写真。
そして、カメラとの未来の光を写した写真だった。
「いやー、なんとかマニュアルで撮れるようになってきたよ」
フォト散歩に出た後に、なっちゃんと話していた。
なつみ先生に、感謝だ。
「でも、一周回って、オートで撮るのもいいんですよねー」
え?
そうなの?
まだまだ、カメラは奥が深いようだ……。
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