メディアグランプリ

頑張ってもムリならば潔く倒れるのもアリ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:眞水純子(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「ぐふふふふ、何だか笑っちゃうんだよ」
今朝から何の脈絡もないのに急に笑いだす一郎さん。仏頂面の私までつられて笑ってしまう。一郎さんとは夫のことである。思い起こせば今から22年前、私は一郎さんと結婚をした。その当時、結婚するなら「3高」がいいと言われていた。「3高」とは、今となっては死語になってしまったが高収入、高学歴、高身長。これら3つの条件が揃った相手と結婚することが幸せなんだと言われていたのだ。なのに私と言えば、1つの条件も満たしていない(ごめんね)人を結婚相手に選んでしまった。私がこの人と結婚しようと思った決め手は、「笑顔」と「生命力」その2つだった。
 
その当時、終身雇用制度でいい会社に就職さえすれば一生涯安泰だと言われていた。そんな中、衝撃的なニュースが世の中を駆け巡った。誰もが知る大手の証券会社が倒産したというのだ。あまりにも突然だったので本当に驚いた。どんなに大きな会社でも倒産してしまう。もう会社が守ってくれる時代は終わったのだ。これからは、その当時、終身雇用制度でいい会社に就職さえすれば一生涯安泰だと言われていた。そんな中、衝撃的なニュースが世の中を駆け巡った。誰もが知る大手の証券会社が倒産したというのだ。あまりにも突然だったので本当に驚いた。どんなに大きな会社でも倒産してしまう。もう会社が守ってくれる時代は終わったのだ。これからは、学歴よりもどんな世の中になろうとも生き抜いていく力が必要になって来る。この出来事があってからそんな風に思う様になった。
 
そんな時、出会ったのがお見合い相手の一郎さんだった。
コロコロっとした人懐っこい人だった。よく動き、よくしゃべる。まるで柴犬のよう。初対面にも関わらず、話しが途切れることがなかった。お祭り好きで、お神輿を担ぐふんどし姿が普通の洋服よりも似合うようなエネルギッシュな人だった。この人なら万が一、無人島に漂着してしまったとしても何とかして生き抜いていけるだろう。そんな生命力を感じた。そして何よりも笑顔がいい。思わずこちらまで頬がゆるんでしまうような優しい笑顔だった。笑顔は私にとってどうしても譲れない条件の1つだったのだ。
 
1年の交際を経て私たちは結婚をした。月日は流れ10年が経った頃、一郎さんの体調に変化が現れた。めまい、ふらつき、そして呂律が回らなくなって来たのだ。脳を調べたところある病名を告げられた。それは「多系統萎縮症」という聞きなれない病名だった。難病の1つで小脳や生命の中枢を司る脳幹部分の細胞がだんだんと小さくなり機能しなくなる原因不明の病気なのだ。原因がわからないので決め手になる治療法もないというのが現状なのである。44歳の時に発病してもうすぐ10年になる。病状は進行しており、体が思う様に動かない。出来ない事がたくさん増えてきた。辛さ、悲しみ、無念さ、不甲斐なさもきっと今までも感じているはずだろう。だけど不思議なことに病気になってからの方がわが家は明るくなった。とにかくよく笑うのだ。
 
「俺は病気ではあるけれど、病人にはなっていない」
そう言っている一郎さんの精神のお陰だと思う。気持ちが負けてないことが本当に助かる。そして一郎さんだけでなく、子どもたちや私も笑うことが増えたのだ。病気によってパワーバランスが崩れ、一郎さんは可愛らしくなり、そして私や子どもたちは強くなった。
 
どんな事が起こっても、その状況の中で生きていく。昨年訪れたオーストラリアシドニーの植物園で見た樹木とその姿が重なった。それは、多数の幹がくねくねと扇状に広がり先端に尖った葉をつけた今まで見たことのない木だった。その大きな木が、横にばたっと倒れていたのだ。大きく育った幹を支えられず倒れたのかも知れないが、その姿を見て私は感動してしまったのだ。それはあまりにも潔く倒れていたから。無理に抵抗せず、ダメなものはダメだと受け入れ、それでも枯れずにしっかり生きているように見えたから。倒れないように頑張ることも大事だけど、ダメな時は潔く倒れてもいい。そして、それからまた新たに始めればいい。そんなメッセージをその木が伝えているように感じたのだ。この木と一郎さんの姿が重なった。
 
生命力とは、病気にならずに元気にすごすことだけじゃなく、たとえ病気になったとしてもそこからどう生きていくのか、これも生命力なのではないだろうか?
腐らず、嘆かず、諦めず、今の状態を受け入れてそして全部手放していく。
 
その姿を毎日私は見ている。そしてSNSで「今日の一郎さん」として写真をアップしている。食欲旺盛で、無邪気に娘とじゃれあい楽しそうに笑っている。日常の1コマがそこに写っている。その写真をみて「ほっこりしました」「元気になりました」「癒されました」「勇気をもらいました」「応援しています」そんな嬉しい感想をいただくこともある。
 
美味しそうに食べ、無邪気に笑っている。ただそれだけのことだけど、懸命に今を生きる姿が、嘘がない姿が誰かの生きる力になっている。病気でいても、誰かのお役に立っているのだ。
 
食べて、笑って、眠れたらそれで最高。
 
いろいろ難しく考えないで、大事なことはこれだけなのかもしれない。無邪気に笑う一郎さんを見ていたらふっとそう思った。忙しくて忘れてしまっている根本的に大事なことを、一郎さんを通して思い出させてくれているのかも知れない。これからも笑顔と生命力の「今日の一郎さん」をSNSにアップしていこうと思う。

 
 
***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】
天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。



2018-05-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事