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猫のいた日々 -気高き女王の帰還-


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:山本しのぶ(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
自由で気高くてしなやか。わが家にはそんな生きものがいた。
 
彼女の親は捨て猫だった。ある日、祖母が拾ってきた子猫。その猫が大きくなって産んだのが彼女だった。とにかく気の強い猫で、自分よりからだの大きな犬を見ても、「ううーっ」とうなってとびかかっていっていた。彼女の親は繊細でからだも弱く、まだ彼女に授乳しているあいだに体調を悪くして、あっというまに亡くなってしまった。
 
そんな境遇でもたくましく育った彼女。彼女のお気に入りは、わたしの膝の中。といっても、わたしが手を伸ばしておとなしく入ってくれたことはない。たいてい、「シャー」と怒られて手をひっかかれる。じっと座っていると、膝の中に入ってくる。彼女が座りやすいように足の位置を調整する。下手なところを触ると怒られるので、彼女のお気に入りポイントを探してなでる。わが家でいちばん自由でわがままな女王。
 
夜になると、外に出ていくことがある。そして、深夜に帰ってきては、2階の寝室の窓の前で「中に入れて」と鳴く。若いころは、けがをして帰ってくることもあった。猫の集会でいったいなにがあったのだろう。彼女の様子だと、言い寄ってくるオス猫を追い払ってはケンカしてたんじゃないかなと思う。
 
2、3日帰ってこないこともあった。それでも彼女なら大丈夫だろうと思わせるたくましさがあった。気ままに飼われながらも、彼女は野性の獣としての猫を生きていた。
 
自分たちとは違うリズムで生きている生きものがいる。わたしたち家族にとって、それはとても大事なことだった。彼女の行動にときには驚き、ときには笑わせてもらい、ときには怒ったりもしながら、わたしたちは過ごしていた。
 
「あれ、なんだかおかしい?」
そう気づいたときには、彼女は大きな病気を抱えていた。食べないし、食べても吐いてしまう。動物病院ですぐに診てもらったところ、血液の病気を患っているという。あっというまにやせ細り、からだからは異臭がするようになった。何度も動物病院に通い薬をもらってくるが、思うような回復が見られない。「あぁ、この子はもうだめかもしれない」と、全員が思っていた。
 
そんなとき、彼女は姿を消す。
家の周りを探しても見つからない。姿を見たひともいない。
 
あぁ、気高いままに逝ってしまった。
「猫は死ぬときはひとに姿を見られないようにするって言うからね」「森に死ににいったんだよ」と、お互いになぐさめあうように家族で話していた。
 
ところが、1週間ほどして、突然彼女は帰ってきた。しっかりとした足取りで。からだからの異臭もまったくないし、なによりちゃんと食べれられるようになっている。おとぎ話のようだけれど、彼女は自分でからだを治して帰ってきた。姿を消しているあいだ、いったいどうやって過ごしていたのか、なにが彼女を回復させたのか、わたしたちにはまったく知ることができないけれど、彼女はたしかに帰還した。
 
それが彼女が5歳ごろのできごと。実際、彼女はそのあとかなり長生きをする。
 
わたしたち姉妹が進学や就職で順に実家を離れていくにしたがい、実家は父と母、祖母と彼女の家になっていった。足腰がだいぶ弱って、外に出ていかなくなった彼女と祖母。家の中で過ごすことの増えた祖母と彼女は、お互いに寄り添って昼寝をしたり、彼女の世話のために祖母がいろいろと気を回したりと、晩年の彼女と祖母はいいパートナーだった。
 
だいぶからだも弱って、庭にでることもほとんどしなくなったころ。ある日、わが家にご近所さんから電話がかかってくる。
「そちらの猫みたいな子が、うちの近く歩いてるんだけど大丈夫かね……」
わが家の猫がふらふらと歩いているのを心配したご近所さんが母に電話をかけてきてくれた。急いで探しに行き、彼女を見つけて抱いて連れ帰った。
 
その翌朝、彼女は亡くなった。父と母に看取られて。わたしはその知らせと彼女の最後の外出についてを母からの電話で知ることになった。
 
「やっぱり死期を悟って、隠れて死のうとしてたんかな」
そう母と話す。
「でも、最期看取ってやれてよかった」
と、母は言った。
 
それが彼女が望んだことかどうかはわからないけれど、彼女は母に抱かれて帰還し、そしてわが家で息を引き取った。それはわたしたち家族に対しては、彼女の最期の時間をともに過ごすことができたという思いを残してくれた。19年、彼女はわが家で生き切った。
 
言葉の通じない、自由で気高くてしなやかな生きものがわが家にいてくれて、わたしたちは随分と救われていたように思う。家族といっても違う人間、ときにはぶつかり合い、言葉がすれ違う。そんなときに、圧倒的に違う生きものがいて、自由気ままに気高く過ごしていると、ちょっとほぐれる。けんかしてても、彼女の行動だけはお互いに目で追ってしまう、そんな存在。
 
会いたいなぁと思う。亡くなってずいぶん経つけれど、実家に帰ると思わずその存在を探してしまいそうになる。
その生きものをわたしたちはとても愛していた。

 
 
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2018-06-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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