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プロフェッショナル・ゼミ

11年前の夏に知った、やりたいことをみつける方法《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:青木文子(プロフェッショナル・ゼミ)
 
 
「夏休みにやりたいことを全部書いてみようか」
夏休みの初日、壁に模造紙を貼った。机の上には何色かのマッキー。
 
「ねー、ねー、何書いてもいいの?」
「できないことも書いて良いの?」
すぐに書き出す子どももいれば、みんなの様子をみていて、最後におずおずと書き出す子もいる。しばらくすると子どもたちは思い思いに模造紙に書き始めた。
 
「こうやってやりたいこと、ぜーんぶ書くとすごいね!」
子どもたちの声で見てみると模造紙は何色もの文字でいっぱいだ。
 
今から11年前。3組の親子で学童を立ち上げた。
保育園が一緒の知り合いの親子3人で立ち上げた学童。ちょうど上の子が小学校入学と同時だった。最初の夏休みは場所がなかったので、公共のコミュニティセンターをつかうことにした。もちろん学童をつくるのは容易ではなかった。毎晩毎晩、子どもたちを寝かしつけた後に集まって話し合いを重ねた。
夏休みの学童。知り合いの親子に声をかけて集まったのは10人弱の子どもたち。習い事がある子もいるので毎日来たり来なかったりする子どももいる。一番年長の子どもは小学校3年生だった。ちょうど司法書士受験生をしていた私が夏休みの指導員になることになった。7月の第一週の試験から9月末の発表までは一息つきたいというか、勉強からしばらく遠ざかりたい気持ちだったので好都合だった。
 
学童保育は小学校の放課後に子どもたちが過ごす場所だ。今でこそ学童保育は話題になるが、当時はまだ話題にはあまり登らなかった。私の暮らしている市には、学校に行政の学童がつくられていた。でもその学童は週3回しか校庭で遊べない。もちろん、外には出かけない。確かに学校が終わった後の時間を「安全に」子どもたちを過ごさせるには良いのかもしれない。
 
学童を立ち上げようと決心したきっかけは北海道のある学童保育の記録映画を見たことだった。その記録映画は3本立て。そのうちの1本をみてからというもの、その映像が心から離れなくなった。夏休みに子どもたちが自転車旅行をするという記録映画。ルートは北海道一周。もちろん、ひと夏で一周はできない。去年の子どもたちがたどり着いたところから、翌年の子どもたちが出発して1週間の自転車旅行をする。参加者は小学校高学年の希望者。自転車はママチャリあり、子ども用の自転車あり。テントや自炊の鍋釜を自転車にくくりつけての自転車旅だ。大人は数名が付き添う。旅の途中で熱をだした仲間。その仲間を置いていくのかどうかテントの中で子どもたちが話し合う。雨が降ってくる中、かっぱを来て自転車を漕ぐ子どもたち。映画のカメラは淡々とその自転車旅を写していく。
 
その映画のラストシーン。北海道らしい真っ直ぐな道。夕日に向かって子どもたちの自転車が一列になって走っていく。その後ろからカメラがロングショットでその風景を写していく。そのシーンにかぶって流れる音声は、監督が自転車旅行後に子どもたちにインタビューしている音声だ。
「自転車旅行どうだった?」
「なんかすごく良かったですね」
「なにが良かった?」
「う~ん、なんだろうな仲間たち、と一緒にみたいな」
「やりたいことをやりきったって感じ」
「親がいなくて、学校でもなくてっていいなぁって思った」
 
子どもたちには、やっぱり学校でも家庭でもない場所が必要なんだ。そんな場所を作りたい、とその映画をみて身体が熱くなったことを今でも覚えている。そしてその翌日、学童をつくりたい、とお母さん仲間に声をかけたのだった。
 
最近「サード・プレイス」という言葉がいわれる。スターバックスコーヒーがサード・プレイスをビジネスコンセプトとしたことから知られるようになった言葉だ。
 
「ファースト・プレイス」とは自宅、「セカンド・プレイス」は職場。「サード・プレイス」とは自宅や職場とは違う、心地のよい第3の居場所のこと。なぜ、人にサード・プレイスが必要なのだろう。そこでは人は肩書をおろせる。そこでは人はリラックスできる。そこでは人は自分の思うように振る舞える。そんな居場所だという。
 
私は子どもたちにとっての「サード・プレイス」を作りたかったのだと思う。子どもたちにとって家庭でもない、学校でもない場所としての学童。親が安心するために、放課後を過ごすのではなく、そこで子どもたちが自由に仲間たちと自分たちのしたいことをする場所。そして居心地がいいだけではなくて、仲間たちと企んだり、喧嘩したり、失敗したり仲直りする場所。今の子どもたちに「サード・プレイス」はあるだろうか? 塾? それともスポーツクラブ? そうではない「サード・プレイス」を作りたかった。
 
学童ではじめて過ごす夏休み。初日に子どもたちと書いた模造紙は、ながめてみるとなかなかに壮観だ。紙いっぱいに、いくつもの「やりたいこと」が並んでいる。
「川のあるところでキャンプ」
「バスに乗って遠くに行きたい」
「屋台をひらいてお金をかせぐ」
「みんなでおばけやしきをやろう!」
「海にいってスイカ割りするよ」
 
模造紙の中のひとつに「バスに乗って遠くに行きたい」と書いてあった。
遠くってどこ? 子どもたちに聞いてみた。
「遠くって、遠くだよね」
「いつもは車でしか行けない場所みたいな」
なるほどなるほど。じゃあ、どこに行こうか。子どもたちと相談して、隣の市にある、科学館に行くことになった。もちろんバスと電車を乗り継いで。次の日に近くの図書館に行って、みんなで行き方を調べた。大人からみたら、もちろん行き方はすぐに分かるのだけれど、それは黙っていた。図書館の司書のひとに聞いたり、バスの路線図をみたりして、子どもたちは行き方を自分たちで調べた。
科学館に行く当日になった。まず、学童の近くのバス停が見つからない。このあたりの子どもたちはほとんどが親の車の移動なので、そもそもバスに乗る、ということがないのだ。
「ねーねー文ちゃん(私は子どもたちに文ちゃんと呼ばれていた)、バス停がないよ」
「あのね、今日はさ、私はついていくだけだよ。空気みたいな、みえないお化けだからさ。だれかに聞いてみたら?」
リュックを背負った数人の小学校低学年の子どもたち。そう言われて子どもたちは早速、犬の散歩をしているおじいさんをつかまえた。
「あの~〇〇のバス乗り場ってどこですか?」
「ぼくたちねぇ、科学館に行くんだよ!」
子どもたちは口々にきく。私は素知らぬ顔でちょっと離れたところからみていた。幸いなことにおじいさんは丁寧にバス停の場所を教えてくれたらしい。
「ありがとう!」
「おじいさん、ありがとうね!」
子どもたちは口々にそういいながら駆け出した。夏の青い空と入道雲。空気になっている私は慌てて後を追いかける。ふう、子どもたちって足が速いんだ。
 
バスと電車、そしてもう一度バスを乗り継いで科学館についた。子どもたちは満足したようだ。帰りのバスの中で3年生の女の子がこう話しかけてきた。
「文ちゃん、わたしさ、大きくなったら学童の指導員になるよ」
え? そうなの? 前は将来、バレリーナになりたいって言ってなかったけ?
 
「バスに乗って入り口にキップをとったり、キップをいれたりしたのはじめてなの」
「大きくなったら子どもたちにこういうことをさせてあげる仕事って良いなぁって思って」
 
模造紙にはいくつものことが書いてあった。やはり模造紙に書いてあった「川の近くでキャンプをしたい」 もちろん、子どもだけではキャンプ場の予約ができないので、そこは大人の出番だ。天竜川近くのキャンプ場。すぐ横には小さな滝壺が天然のプールになっている。夏休みの後半、学童のみんなでそこでキャンプをすることになった。
食事はぜんぶ子どもたちがつくるというので、メニューもつくるのも任せることになった。ある子どもがこう言い出した。
「文ちゃん、夕ご飯さ、ハンバーグにしたい」
ちょっとまった。キャンプの夕食だよ? カレーとかさ、焼きそばとかだよね、キャンプだと? 
「ぼくもハンバーグがいいな!」
「わたしお母さんの手伝いしたからつくれるよ!」
いや、待て。ハンバーグの材料ってひき肉だよ? キャンプにひき肉はもっていかないでしょう。だいたい、フライパンなんてないよ? 焼きそば用の鉄板でハンバーグは無理でしょう。だいたい、人数分のハンバーグをつくって焼くなんて大変だよ?
私は遠まわしにそんなことを言った。子どもたちは納得しない。
 
結局キャンプの夕食はハンバーグになった。キャンプの買い出しは大人が手伝うことにした。どの子達も買うものを書きとめたメモを手に嬉しそうにスーパーで買い物をする。私は心の中で正直「いやぁ、それはうまくいかないんじゃないかな」と思っていた。
ところが子どもたちは見事にハンバーグをつくったのだった。大人子どもも合わせて20人はいただろうか。ひとりずつ丁寧にハンバークをつくって、最後はおかわりのハンバーグまで焼いて。
 
なぜ、こどもたちがやる前に無理だ、と決めつけたのだろうか。やってみなきゃわからない、とか、失敗が大切と口ではいいながら止めようとした私。面倒じゃないか、とか、もしキャンプの夕食が失敗したら子どもたちががっかりするだろうなと先回りしようとしたのだと思う。それは今思えば大人の都合というやつだったのだとわかる。
 
その年、夏休みの最後。もう一度模造紙を壁に貼った。子どもたちは指を指しながら歓声をあげた。
「これもやったよね!」
「コレも出来たよね!」
「キャンプいったよね」
「スイカ割りもしたよね」
 
驚いたことに子どもたちが模造紙に書いたことは一つ残らずやりおえていたのだった。最初の模造紙をみた時に心のどこかで「流石に全部は無理じゃないかな」と思った私はびっくりした。
 
その学童保育は5年たって閉じることになった。途中司法書士試験に受かった私は指導員や運営も他のお母さんたちに手渡していた。私の子どもたちも5年生と2年生になっていた。2年目からはキッチンと2間ある小さな平屋の借家を借りた。塀とのあいだにスペースがあって、子どもたちは「庭だね!」と喜んだ。夏にはプランターでミニトマトを育てたりもした。
助成金をもらったり、いろいろと工夫はしたけれど、運営が簡単ではなくなっていた。お母さんたちで話し合いを重ねて、学童を閉じることになった。お金を集めてみんな買った中古の冷蔵庫や、もらっていたテーブルや棚もそれぞれに貰い手が決まった。
 
学童を最後に閉じる日。もう、部屋の中はがらんとしていた。最後に子どもたちといっしょに玄関の上にかけてある看板をおろした。もらってきた木の板に子どもたちと一緒に書いた看板だ。これで、ひとつ何かが終わったんだと思った。
 
帰り道、子ども二人を後部座席にのせて自宅へと車を走らせた。つぶやくようにこう言った。
「あ~あ、学童、なくなっちゃったね」
言葉にすると涙が出てきそうだった。
 
すると、後ろから子どもたちがこう言った。
「お母さん、大丈夫だよ」
意外な言葉だった。
「もしさ、また学童がいるときがあったら、ぼくたちが自分たちでつくるから」
ハッとした。
子どもたちは親たちが学童をつくることを見ていたんだ。自分たちに必要な場所は自分たちでつくる。その背中を見ていたのだ、と思った。
 
「お母さん、泣いてる~」
子どもたちが私の気持ちを知ってから知らずか後部座席から、からかった。でも私は知っているのだ。学童がなくなって一番さみしいと思っているのは子どもたちだということを。
 
「ぼくたちが自分たちでつくるから」その言葉を心の中でもういちど繰り返すと、涙が止まらなくなった。
 
やりたいことを仕事にするのがいい、と言われる。でもやりたいことってなんだろう。やりたいこともその時その時で変わっていく。そもそも自分のやりたいことがなんなのかわからずに「自分探し」をする人は多い。
 
人は時に自分のやりたいことを、いくつかの理由をつけて諦めようとする。私がキャンプでハンバーグをつくるのが無理だと子どもたちを説得しようとしたように。
 
でも自分のやりたいことがわかるには、ちいさな「自分のやりたいこと」をやってみるしかないのだと思う。やり続けてみるしかないのだ。なぜなら自分の中にある「やりたいこと」をみつけるアンテナは磨かないと感度が上がらない。感度が上がらないままでは、それが自分のやりたいことがどうかもわからない。もちろんそれを行動にも移せないだろう。アンテナを磨く作業は小さい「自分のやりたいこと」をやってみるしかないのだ。
 
子どもたちが自分たちのやりたいことをやる場所。失敗もふくめてそれをやりきれる場所。子どもだけでなく大人にとってもそんなことができる場所。これからそんなサード・プレイスが日本に増えていってほしいと思う。ここまで書いてみて、実は天狼院って大人のためのやりたいことをやる、そんなサード・プレイスなのかもしれない、とふと思った。
 
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