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学級崩壊の被害者と加害者


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:K子 (ライティングゼミ・平日コース)

小学6年生の時、私のクラスは崩壊した。

学級崩壊を実際に経験したことがある人は少ないかもしれない。だが、テレビドラマなどで題材になることも多く、なんとなくイメージはできるかと思う。
しかし一括りに「学級崩壊」といっても、程度は様々である。よくあるのは、授業中に立ち歩いたり、おしゃべりをやめなかったり、途中で教室から出て行ってしまったり……。

私が経験した学級崩壊は、なかなかのものだった。

立ち歩きや私語で授業を妨害することはもちろん、担任の先生に対する攻撃がひどかった。
担任の先生は、当時30代の半ばごろの男性だった。
その先生に向かって、生徒たちは、暴言を吐き、暴力をふるい、給食の牛乳を浴びせかけ、ベランダに追いやり鍵をかけて閉じ込めた。
ある生徒が先生に向かって蹴りつけた机が、先生の足の小指に当たり、骨を折ってしまったこともあった。

私はというと、表立って授業を妨害したり、先生を攻撃するタイプではなかった。
しかし小さな声だったとしても、授業中の私語をやめないこともあったし、先生に心無い言葉を吐いたこともある。
あのクラスでは、そんな生徒がたくさんいた。目立つ生徒だけが悪者のように思われていたが、クラスの生徒全員に、問題があった。

この状況を解決するべく、様々な策が講じられた。
臨時の講師の先生がやってきて、担任の先生と2人がかりでクラスをまとめようとした。
保護者は、参観日でなくても、いつだって授業を見学しにきてよいことになった。
色んな人が私たちのクラスを叱り、心配し、どうにかしようとしてくれた。

ドラマだったら、どんなに荒れ狂っていたクラスも最後にはまとまり、ハッピーエンドで終わるだろう。
私もそうなるのではないかと期待していた。なんだかんだ最後には立て直すと思っていた。
でもそうじゃなかった。
私のクラスは、崩壊したまま卒業を迎えたのだった。

それから時は流れ、私がハタチになる年、父と歩いていたら、学級崩壊をしたクラスの担任だった先生に、たまたま出くわしたことがあった。
父は私に、「先生に挨拶しなさい」と言った。
わたしは正直、声をかけたくなかった。卒業以来、先生には一度も会っていない。どんな顔をして声をかければいいのだ。気まずい。
しかし父に促され、わたしは渋々声をかけた。
小学6年生の女の子が、ハタチの成人女性になっているので、先生は最初ピンときていないようだったが、名前を言うとすぐに思い出してくれた。

「○○さんか。お姉さんになったなあ。すぐに分からへんかったわ」

「今年でハタチになります。元気に大学生やっています」

「そうか。先生はいま、▲▲小学校で教えてるわ」

少しだけ他愛もない会話を交わしたあと、最後に先生がこう言った。

「あの時はつらい思いさせてしまったなあ。ごめんな」

私は不意をつかれた。そんなことを言われると思っていなかった。
先生にとって、触れたくもない嫌な過去で、私たちのことなんて悪魔だと思っているのではないかと。
それなのに先生は、私たちにつらい思いをさせたと、謝ってくれたのである。
自分が傷ついたことではなく、あれだけ先生を傷つけた私たちのことを、ずっと気にしてくれていた。
なぜ先生が謝るのか。つらい思いをさせてしまったのは、私たちのほうである。謝らないといけないのは私たちだ。クラスをめちゃくちゃにして、先生の教師人生に大きな傷をつけてしまった。恨まれてもいいくらいだ。
なのに、

つらい思いをさせてごめん

どうしようもないくらいひどかった、私たちに。

先生に謝られたとき、私は何と言って良いかわからなかった。
自分も謝ることができなかった。
ただ曖昧に挨拶して、その場を去った。

それからまた月日は流れ、わたしは就職し、社会人になった。
先生に再会したころより、さらに大人になった今でも考える。
なぜ私たちのクラスは、崩壊してしまったのだろう。
めちゃくちゃなことをしていたのは生徒だが、私たちは子どもだった。先生に責任が無いとは言えない。
悪かったのは生徒か、先生か。
探しても答えは見つからない。
生徒も先生も学級崩壊の被害者であり、加害者だった。
きっとみんなどこかに問題があり、傷つけ、傷ついた。

大切なのは、責任の所在を明らかにすることではないと思う。

私たちはあの頃に戻ることはできないし、起こったことは変えられない。
だからといって誰かを恨んだり、憎んだり、深く傷ついたままでいるのも違うだろう。
未熟だった自分たちを受け入れ、反省し、今を生きるしかない。

最悪の経験だったが、私は健やかに成長して、大人になった。
先生も教師をやめずに続けてくれていた。
もうそれでいい。

ただ心残りは、先生に何も伝えられずにいることだ。

とても優しい先生だった。
再会した時、現状報告だけで終わっても良かったのに、学級崩壊のことをわざわざ話題に出して謝ってくれるような、心の優しい先生だ。今も心のどこかで、責任を感じているのではないだろうか。
先生に謝りたい気持ちがあるのなら、それを伝えることで先生の心が少しでも軽くなるのだとしたら、私は伝えるべきだ。

この記事を書いたことをきっかけに、私は先生に手紙を書こうと思っている。

先生、容赦のない言葉をぶつけてごめんなさい。
先生、自分を責めないで下さい。
先生、どうしようもなかった私たちに、最後まで向き合おうとしてくれて、ありがとう。

***

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2018-10-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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