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メディアグランプリ

愛を教えてくれた人


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:吉田 陽子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
私には、心から尊敬している女性がいます。
その人は、普段は北海道に住んでいて、離れている事が最近の気がかりです。
 
「この人が今日からお前達のお母さんだぞ」
父に連れられて、小学校4年生の私と6年生の兄が住む家に何の前触れもなくやってきたその人。当時、その人は39歳でした。
 
「今日からこの人をお母さんと呼びなさい」
可哀そうに、父の放ったその言葉で、私はその人に心を閉ざす事を決めたのでした。
「お母さん」どころか、一言も口をきかない日々が随分長い間続きました。少なくとも中学を卒業するまでの5年間はずっとそんな状態だったと思います。
こんなところで、父親譲りの頑固っぷりを発揮していたのでした。
 
友達や兄の前ではよく笑いよく話すのに、その人に話しかけられると口を閉ざす。かといって反抗するでもない、乱暴な言葉を吐くでもない、暴れるでもない。目を合わさずに静かに無視をする。なんて嫌なヤツなんだ。自分がした事ながら胸が締め付けられる。どれだけ辛かったことだろう。
 
さらに悪い事に、間もなくして父は東京に単身赴任となり、月に1、2度週末しか家にいないという状態になりました。頼みの父抜きの3人暮らしです。
 
そして不幸は重なるもので、同じ北海道で暮らしていた祖母が祖父と離婚し、札幌の我が家にやってくる事になりました。父は不在、気の強い姑と本当に可愛げのない子供と暮らす日々。味方は一人もいない。その人にとっては地獄のような日々だったと思います。
 
「なんて家に嫁いでしまったんだ!」
 
私が38歳になった今、友達のように一緒にお酒を飲み、酔っ払うとその人は決まってそう言います。
 
「ほんとだよね、こんなに最悪な状況はそうそうないよ」
「よく耐えられたよね、私なら無理だわ」
 
後から聞けば、自分の子供が欲しかったその人は断固父に反対され、その夢は叶わなかったのだと言います。それでも決まって、こう言います。
 
「でもね、剛志の事が好きなのよ」と。
 
なんて強くて潔い。
 
「そんな剛志の子供だから、陽子ちゃんの事も好きだよ」
「こんな良い子、他にいないわよ」と。
 
父のいない4人で暮らしていた時も、この人は一度も不満を漏らした事がありませんでした。常に笑顔で優しく、無視する私にも毎日楽しそうに話しかけてくれていました。
そして、父の事を好きでいてくれる事を肌で感じさせてくれました。それだけの想いでここまで尽くせるものなのか。疑う程にまっすぐ愛情を感じていました。
 
「お父さん、本当に良い人を見つけたと思うよ」
この言葉をかけると、いつも少し嬉しそうです。
 
父は戸籍上、バツが二つついています。産みの母親は、くも膜下出血で私が3歳の頃にお風呂で倒れ、お別れする事となりました。次に母親としてやってきた人には連れ子がいて、ちょっとグレていたので、私達兄妹に被害が及ぶ前に、と離婚しました。
 
「こんな大変な状況で、2人ともよくグレなかったね」
 
これは、私達兄妹にかけられる言葉あるある№1です。
 
可愛くない私は、
「お父さんがしっかり愛情を注いでくれたからね」
とか
「おばあちゃんがよく面倒見てくれたからね~」
とか言ったりしていたのですが、核心をついていない事はわかっていました。
 
本当の理由は、この人が無償の愛を注ぎ続けてくれたからだと。
この人に育ててもらっていなければ、愛情を感じられない人間になっていたかもしれないと思います。
私は父親とともに、この人の愛に支えられてここにいるのだなぁ、とその頃のその人の歳に近づいて強く思うようになりました。その人は今年で66歳。
 
本当は、私もその人のように、心の底から好きになれる人を見つけて、幸せになる事で恩返しをしたいのだけど、どうやらまだできそうにありません。
 
なのでせめて、『父の事を好きになってくれて、本当にありがとう』と伝えたいと思っています。手遅れになる前に。

 
 
 
 
***
 
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2019-08-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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