ライティング・ラボ

道頓堀の回転寿司で、途方にくれた……


 

記事:西部直樹(ライティング・ラボ)

 

 

あなたは次のような光景を目にした。

日差しの中、街路を一人の女性が傘を差して歩いていた。

さて、傘を差している女性を見て、なんと思いますか。

 

セミナーなどで、私は受講者に問いかける。

 

受講者は唐突な問いに戸惑いながら、

「天気雨なのでは」

「日傘なのでしょう」

「ヤクルトファンだとか(笑)」

と答えてくれる。

 

答えは、どれでも正解です。

というと、受講している人たちは、少しがっかりしたり、怪訝な顔をしたり。

 

さらに、私は問いを投げかける。

では、蓋然性の高いのは、どれでしょう。

 

というのが、私がやっているロジカルシンキング研修の導入部分である。

ロジカルシンキングというと、なんだか面倒な、小難しいことのように思われる。が、難しいことはない、多様な可能性を検討し、その中から蓋然性の高い結論を導出することなのである。

つまり、いろいろと考えて、その中から確からしいものを見つけて、わかりやすく説明できること、つまり、頭を柔らかくできるかどうかです。

というように説明をしている。

 

 

このようなセミナーをいろいろなところでしているのだ。

 

セミナーの関係で大阪には2ヶ月に一回は訪れる。

昼間セミナーを終え、夜は心斎橋筋をふらふらと歩くのが好きである。

無国籍の活気にあふれ、猥雑な空間がたまらない。なんだかワクワクするのだ。

 

道頓堀の戎橋、グリコの看板を背に記念写真を撮る人たちであふれている。そこでは日本語がほとんど聞こえてこない。様々な言葉にあふれている。

歩き疲れたら、近くの店に入る。

 

ある日、回転寿司に入った時のことだ。

この店も客席から日本語は聞こえてこない。日本語は板前さんの声だけだ。

 

回転寿司のレーンの前には、お茶の淹れ方が図解されている。粉茶を知らない人も多いからなのだろう。

さて、なにを食べようかなと回る寿司を見ていると、隣の席の人が、醤油小皿にお茶を入れようとしている! わさびと間違えたのか?

何とかそれは違うと伝え、緑茶醤油を回避する。ふう。

反対隣をそれとなく見ると、醤油小皿に山のようなわさびを溶いているではないか、そんなにわさびを入れたら……。

さらにその隣の人は、ネタに直接醤油差しからネタに直接醤油をかけている。まあ、悪くはないが、そうではないだろう。

 

こうなってくると、他の人が握り寿司をどのように食べているのか気になってくる。

アフリカ系の女性グループは、寿司ネタをはがして、醤油皿で付け、しゃりにのせて食べている。おおそうか。

アジア系とおぼしき男性の箸使いは的確だ。寿司を挟んで、そのまましゃりを醤油皿にしっかりと付け、食べていた。しゃりを醤油まみれにするのか、軍艦ものではないのに……。

白人系の女性は、ガリに醤油を付け、それをネタにのせて食べている。そういう方法もあるけど……。

別のアジア系の男性は、何も付けず頬張っていた。

ある人は、ネタだけを食べていた。それならは刺身を頼んだ方がよかったのでは……。

 

普通に寿司を反転させ、ネタにちょっと醤油を付けて食する、という人はほとんどいなかった。

お茶の淹れ方も大切だが、寿司の食べ方も図解した方がよいのではないか。

 

そんなことを思いながら、東京で廻るお寿司屋さん入った時、つい他の人の食べ方を観察してしまった。

山手線、乗降客がそれほど多くない駅、その駅前にある店である。

観光客はほぼ皆無、客は近所の人かビジネスパーソンがほとんど。日本語以外に聞こえてくる言葉はない。

 

で、隣の40代とおぼしきサラリーマン氏は、しゃりに醤油だ。

2~30代と見えるOLさんらしき二人組は、ガリを使って醤油だ。

子連れの夫婦者と見える人たちは、ネタをはがして醤油につけるタイプだな。

それから……

なんと、私のように寿司を返し、ネタに醤油をちょんと付けて口に運ぶ、人はごく少数なのだ。

 

それでいいのか!

 

それとも、私の食べ方の方が少数派なのだろうか?

 

少数派の食べ方、ということでは、少々苦い思い出がある。

子どもの頃から納豆が好きであった。

私は北海道の道東地方で生まれ育った。家では、納豆を砂糖醤油で食べていた。

納豆に砂糖をかけ、さらに醤油をかけて混ぜ、ご飯にかけて食べるのである。

これが世界標準だと思っていた。納豆の正しい、伝統的、まっとうな食べ方だと固く信じてきた。

しかし、東京に出てきて、納豆を見た時めまいがした。芥子がついてきているではないか。

砂糖と芥子、対極の味覚だ。

辛い納豆など食べられたものではない、砂糖はないのかというと、一緒に食事をしようとしていた人たちから、異様なもの、物珍しいもの、おぞましいものを見るような目を向けられたものだ。

納豆に砂糖醤油派こそ、少数派であり異端であり、珍奇な食べ方なのであった。

なんということだ。

 

自分の信念に不安を抱かざるを得ない。

納豆砂糖醤油事件から数十年、今はすぐに調べることができる。

「にぎり寿司の正しい食べ方」とキーワードを設定してグーグル先生に聞けば解決だ!

 

それで分かったことは、

正しい食べ方、決まり事などない、ということだ。

しゃりに醤油でも、ガリで醤油でも、ネタはがし醤油でも、お好みに応じて食べればいいのである。

江戸時代庶民のファストフードであった寿司に、格式張った食べ方などないのであろう。

 

一つのことにとらわれることなく、柔軟に、多様な可能性を見いだしていきましょう、と人前で説いていたのに、自分は一つの物事に固執し、 頑なになり、自分以外を排除しようとしていたとは。

医者の不養生、紺屋の白袴である。

 

反省しきりである。

 

と、ネットを眺めていたら、「天ぷらには何を付けて食べますか?」というアンケートを見つけた。

もちろん、天ぷらには天つゆか塩だろう。それ以外はない、何を訊いてくるのかといささか憤慨気味に記事を読んでいくと、

「醤油を付ける」まあ、天つゆを作れない時の緊急避難としてはありだろう、

「マヨネーズを付ける」とは、何事だ!

「ソースです」という人もいて、世も末である。

 

やはり握り寿司はネタにちょっと醤油を付けるのが正当だと思うのだがなあ。

いやいや、ここで頑なになってはいけない。
天ぷらをマヨネーズソースで食べてみるかな。

いや、でもねえ……。

 

 

***

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2015-05-25 | Posted in ライティング・ラボ, 記事

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