天災の国に必要なお寺の躾
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:神保あゆ(ライティング・ゼミ平日コース)
「何でレシートを受け取った?」
「何でって? 店員さんに渡されたから」
お会計を済ませた後のレジ横での住職と私の会話である。
「受け取ったレシート、どうするつもり?」
「捨てるけど?」
「捨てるものをわざわざ受け取るのか。要りませんって言ったら済むやろ?」
細かい。
初めてお寺に案内された時、チリひとつなく、無駄がなく、空気がキリリと引き締まっていたのを思い出した。
その後、ご縁あり、そのお寺でお手伝いをさせていただくことになった。
そこでまさか、40歳を過ぎてから家事のダメだしをされるとは思ってもみなかった。
冒頭のレシートを受け取るか受け取らないか論争しかり。
郵便物を受け取り開封したら、その場で「要る要らない」を仕分け、要らないものは即ゴミ箱へ。
「どっちにしようか?」
は、ない。なんとなく「要るかもしれない」と取っておくという概念は一切ない。
要らないものは一切持ち込まないし、ゴミを捨てるとなったら、お寺中のゴミをティッシュ1枚残さず、徹底的に全部全部捨てきってしまう。
玄関とリビングの途中に事務所がある。
玄関の郵便受けに入っていた電気代の領収書を「なんとなく」リビングまで持ってきた時など、
「何でここまで持ってくる? 事務所の領収書入れに入れてからリビングに来るべきでは?」
細かい。
お寺中の全ての引き出し、戸棚、冷蔵庫の中から衣装ケース、クローゼット、物置まで全て全て。何から何まで。
きちんと指定席があり、理路整然と整っている。
誰が来て見ても恥ずかしくない。物のありかがわかる。
40歳も過ぎて。主婦生活も20年以上どうにか人並みにやってきたはずだけれど、そういえば家事は、誰からも教わったこともなければ、指摘をしてもらったこともない。
我流である。
主婦歴20年以上経ってから、家事について初めて「指導」を受けることになった。
私は18歳で大学に通うため自宅を離れ、一人暮らしを始めた。
以来、実家には盆正月に帰るくらいである。
しかも、学生結婚しているので18歳から家事を始めている。
父親は私が学生の頃に脱サラをし、会社経営を始めた。
母親も一緒に仕事をしていたので、家事に割く時間も限られており、盆正月に帰省する毎に家が荒れていくのがわかった。
母は片付けが苦手な上に時間がないのである。
母自身、幼少時、片付けが苦手な母(私の祖母)に育てられ、当時の家のことを「ゴミ箱のような家だった」とよく言っていた。
帰省する度に「ゴミ箱化」していく実家が悲しく、私の帰省は「片付けするための帰省」になっていた。
18歳から一人暮らし、帰省する度に実家の片付けをしている。
そして「あゆのおかげできれいになった」と感謝してもらう。
だから私は自分のことを「片付け上手」と思っていたのだった。
でも、違った。
お寺とは片付けのレベルも概念も違うのであった。
お寺でのお掃除、お手伝いを徹底的に指導していただき、「掃除、整えることの尊さ」を知ることになる。
快適な空間は、物が多くない。
視界が整うと、自分の心の中も整ってくる。
心の中にも「余白」ができる。考え事をする余裕もできるのである。
お寺でのお手伝いも慣れてきたころ
「掃除って何のためにすると思う?」
とふいに尋ねられた。
「美しい空間を保つため」
と答えると
「やっと少しわかってきたな。掃除ができないやつは『汚いから片付ける』と言う」
片付けが得意な住職には「とりあえず」という概念がない。
何でも「今すぐ」だ。
疑問に感じたことは、事の大小関係なく、その都度解決する。ためこまない。
決断が早い。
保留がない。
空間も、心の中も、いつもスッキリしている。
そうすることで、不測の事態(お通夜、お葬儀)に備えられるのだ。
ある時、実家の隣の家が火事になった。いよいよ、実家にも燃え移るかもしれないとなって、母は必要なものを持って逃げようとなった時、さて、必要なものとは? と考えたらしい。
会社の重要書類と、さて。他は?
「あんたらの子供時代のアルバムだけやったわ。持って逃げようと思ったものは。本当に大切なものは、そんなにない」
今、台風19号の被害で、被災地は大変なことになっている。
被災者の皆様、お見舞い申し上げます。
片付けても片付けても終わりの見えない被災地。
災害ゴミが山積みになったゴミ置き場。
火事に遭遇した母が言ったように、本当に大切なものは、そんなにないのかもしれない。
住職がおっしゃるように、日ごろから「片付け」を徹底しておけば、日々の暮らしも快適だし、いざという時、災害時にも逃げやすく、災害後の復興も少しは早いのではないだろうか。
便利さが追い求められる「IT」の時代。
家庭や学校でさえ「片付け」「掃除」「家事」の重要性を教えてはくれない。
そもそも、教えるだけの知性、品性を持ち合わせた人がいないのではないだろうか。
でも、生きる上で大切なことって、主婦が担っている「片付け」「掃除」などの「家事」なのである。
日々の暮らしを快適にするためにも、空間と頭と心をクリアにしておくためにも。
天災など、「いざ」という時に備えるためにも。
お寺での掃除など修行することを、義務教育に加えてみてはどうだろうか?
日々の暮らしのありがたさ、母親の家事の尊さ、自分の身の回りを整えることの大切さ。
ひいては、天災の多い日本での過ごし方、生き方、全てがそこで学べるはずである。
また、なんとなく敷居が高い「お寺」という場所に子供たちが、地域の人たちが出入りするようになれば、実践を伴った心の勉強もできるのである。
お寺とは、本来開かれた場所だと思う。
日本人が真に豊かになろうと思えば、物質だけでなく、心の豊かさが必須なのである。
今もきっと被災地ではお寺の方々も活動されていると思う。
皆で助け合って暮らしの再建、心の再建もしていきたい。
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