楽しい今に、いつするの?
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記事:北川悦子(ライティングゼミ平日コース)
「年末、31日の夜9時過ぎ着の新幹線で帰る」
孫に会いたい私は、息子から連絡が来る前に、早くから、今年の暮れは、いつ帰ってくる? と聞いていた。返事があった。しかし大晦日だという! 東京に住んでいる息子夫婦と孫が実家に帰ってくるのは年一度か二度。今年夏のお盆の頃はいろいろあって帰って来ていない。せめて年末はもう少し早めに帰ってきてくれるかなと期待していたのに31日だという。
毎年、31日は紅白歌合戦を見るのが定番。なのにその時間帯に、駅に着くという。仕方がない、と言いながらも孫の顔が目に浮かぶ。迎えに行ってやろうと、腰を上げた。
さすがに、その時間に新幹線から降りてくる人は少なめ。改札前で待っていると、息子に抱かれた孫の顔が見えた。ついつい手を振ってしまう、ばあばだよ、と。
三歳になった孫はかわいい盛り。祖母馬鹿と言われようと、かわいいものはかわいい。今は話す言葉が増えて、「ばあば、これなあに?」「ばあば、これどうするの」普段自宅にない目新しいものに何でも興味を持って聴いてくる。飾ってある、両手を上にあげたヨガポーズの猫の置物。その真似をしてわたしたちを笑わせてもくれる。
普段よく遊ぶミニカーも三台持参。じじばばを相手にリビング端から端を使ってミニカーを走らせる。どれが速く進むのか、二台をくっつけて走らせたらどうなるのか、一台にぶつけてみるとどうなるのかなど、いろいろ試して喜んでいる。ミニカーを追っかける時も全力で走る。普段もこのミニカーで遊んでいるであろうに、何がこんなに楽しいのか。
今回リビングにおいてあった、非常用小型ライトがお気に入りに。ライトを回してつけたり消したり、明かりを手に当ててみたり。周りの壁や鏡、テレビなど、そこら中にライトを当ててみながら、どうなるかを試している。究極はお母さんの顔に向けて、口を開けさせて中を照らしのぞき込む、鼻の穴ものぞき込む。ライトを突っ込みそうな勢いで。明かりを当てるのを散々楽しんだ後は、小型ライトを床にミニカーのように滑らせてみる。一つの物を、なんと楽しく使うのか。
リビングから外をみて「雨、降ってるね」と言うから、ベランダへの窓を開けると手を出す。軒があるせいで雨があたらないのが不思議そうだったので、外へ出てみる? と聞くと出たいという。大人用サンダルをはかせてベランダへ出ると、慎重に歩きながら顔を上げ、手もかざし「雨、降ってるね」と笑顔でいう。雨も楽しい事なのね。
子供は天才だ。一つの物を、いかようにも自分の思うように使い、好きなように遊ぶ。雨であっても、それ自体を面白がってる。
いつまで、こんな風に、一つの物や自然現象を楽しめるのか? と言いうか、自分はいつから楽しめなくなっていったのだろう?
以前に電車の中で、乗って来た幼稚園児が後ろ向きで窓の外を楽しそうに見はじめた。その時の親の対応が、「ちゃんと座りなさい、静かにしなさい。ほかの人に迷惑でしょ」と子供をたしなめていた。また別の機会では、同じように幼稚園児が窓の外を見ている時に、子供の興味ある外の景色を一緒にみて、興味あることを説明したりしていた親がいた。
大人になるにつけ、だんだんと常識にとらわれていく。人に迷惑をかけてはいけない、というのが一番にあるかもしれない。そんな親からの教えがだんだんと増えていくことで、楽しい面白いより、「○○してはいけない、○○しないといけない」など、世の中の常識に縛られていく。これはよい事、これは悪い事と善悪の区別や、正しい事や悪い事。晴れの日はいい事、雨の日は悪い事。人に迷惑はかけちゃいけないの? 晴れはいい? 雨の日はダメなの? 雨も面白いよね?
世の中の常識を知っておくことは必要だと思う。だが、それに縛られすぎず、楽しんだり、おもしろがったりすることも同じように必要だと思うのだ。
子供の頃はただ今を楽しく過ごすことに全力をかけている。楽しくなることを際限なく見つけてそれを行っている。窓の外のありふれた景色の中にも、おもしろい事を見つけるように。大人になるにつけ、今のことより、明日のことや未来を考えていくようになる。それを楽しそう面白そうと思える時はいいのだが、大変だ、不安だから○○しないと、と考えてしまう。そして年齢を重ねるにつけ、過去のことを振り返り考える時間が増えて、より未来には不安を感じていく。今を置き去りにしていないか。
そうか、孫のように、いつでも楽しめばいいのだ。今を楽しむ。常識ある大人も楽しんでもよいのだ。楽しんではいけないとはだれも言ってはいない。毎日のしなければいけないと思う事は、楽しい事にすればいいのだ。それも全力で楽しい事に。
正月明け、孫と息子夫婦を駅まで送っていた時、孫が聴いた。「なんで、ばあばは、いつも車で送ってくれるの?」と。
その時、「あなたと一緒にいると楽しいから。少しでも一緒にいたいからよ」と、正直にいえなかった自分がいた。
今度来るときにはもっと素直に言えるばあばになっておくからね。
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