引っ越しが教えてくれたこと
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記事:佐々木 慶(ライティング・ゼミ日曜コース)
「えっ、そんなに引っ越ししているんですか?」
ある程度、私のことを知っている人からであれば、必ずと言っていいほど発せられるフレーズである。
思えば、引っ越しの多い人生を送ってきた。
今までに経験した引っ越しの数は9回を数える。
私がこの世に生を受けてから、今年で33周年を迎えるので、実に平均3~4年に1回、引っ越しをしている計算になる。
これだけ聞くと、「親御さんが転勤族だったんですね。転校をいっぱいして大変だったでしょう」と気にかけてくれる人もいるかもしれない。
たしかに、引っ越しは多かったが、親は決して転勤族ではないし、転校は一回もしていない。
親に連れられての引っ越しは、1歳の時と5歳の時の未就学前の2回に過ぎない。
残り7回の引っ越しはすべて大学進学以降、単身の引っ越しであった。
大学の進学に伴う片道300km超の引っ越し、大学在学中の引っ越し、Iターン就職に伴う未開の地への引っ越し、東京への出向、その終了に伴う引っ越し、同棲に伴う引っ越し……。
「引っ越しの回数をこれだけ重ねてきた私は引っ越しのプロです!」
そう胸を張って宣言できれば良かったのだが、残念ながら言えそうにもない。
話は大学時代に遡る。
受験という大きなハードルを乗り越え、大学進学、そして憧れの東京での一人暮らしの実現。
この状況にすっかり舞い上がってしまっていた大学生当時の私にとって、もっとも大事なのは「いかに大学生活を楽しむか」ということだった。
サークルの仲間との食事会や飲み会に参加するため、家に帰らないこともしばしば。
当初、まめに行っていた部屋の掃除が次第におっくうになり、ついには二ヶ月に一回に掃除すればいいと思えるくらいの状況になっていた。
この時のツケが後に私自身に降りかかることとなる。
引っ越しも無事終わり、就職先の入社式に臨んでいたときのこと。私は自分の身体の異変に気づいた。
「あれ、全然咳が止まらないぞ」
入社式の数日前から、乾いた咳が続いていた。
「ただの疲れだろう。そのうち治るに決まっている」
当初、そうタカをくくっていたが、いよいよ咳が止まらず、呼吸が苦しくなり始めたのだ。
「息苦しすぎて寝られない。このまま息が止まって死んでしまうのでは」
肉体的、そして精神的苦痛にいよいよ耐えられなくなった私は、3日後、ついに近くの病院の救急外来に駆け込む羽目に。
診察の結果は、「急性ぜんそく」。
「今まで、ぜんそくになったことはありますか? 何か考えられる原因はありますか?」
診察を担当した医師からそう聞かれたが、身に覚えがない。
……いや、一つだけあった。
頭に浮かんだのは、引っ越しの作業中に目に入ったほこりだらけの部屋の風景。
あまりにも日々の掃除を怠っていた結果、ほこりが家中にたまってしまっていたのだ。
引っ越しの作業の際にたまったほこりを一度に吸ってしまったのが、急性ぜんそくの原因と考えられた。
比較的早めに診察を受けたことが幸いし、入院の必要もなく1週間ほどで完治した。しかし、これでもかというくらい痛い目を見た私は心に誓った。
「こまめに部屋の掃除をしよう」と。
この後、就職時の引っ越しの教訓を踏まえ、掃除をこまめにするように努め、二度の引っ越しも経験した。
そうして迎えた最近の引っ越し。今度は、同棲に伴う引っ越しだ。
「同じ市内での引っ越しだから移動距離は前の引っ越しよりたいしたものではないし、何より引っ越しには慣れているので、何の問題もない」
5年で3回という短い期間で引っ越しを経験した私にとって、その時の引っ越しは以前よりも楽なものに感じられた。
無事に引っ越しが完了し、その日のうちに同棲相手と打ち上げをすることに。
まだ、ガスが通っていなかったこともあり、打ち上げ先はお互いが好きな韓国料理屋さん。
焼き肉やら、ビビンバやら、おなじみの韓国料理がテーブルの上を埋めつくした。
……ここまでは覚えている。気付いたら、目の前の料理がなくなっていた。
しかし、不思議と満腹感はある。なぜだ。
同棲相手に聞いてみて、答えが分かった。寝ぼけながら、食事していたというのだ。
実のところ、引っ越しの日の直前にスキー旅行や飲み会を立て続けに入れてしまったため、引っ越し作業がはかどらず、その日は一睡もしていなかった。
「楽しみにしていた韓国料理なのに、自分は何をやっているんだ」
この時ほど、自分自身の行動に悲しみを覚えたことはない。
数多くの引っ越しを重ねてきた私。
その中で分かったことがある。
それは「いかに、余裕を持って取り組むか」ということ。
これができていれば、ぜんそくになることもなかったし、大好きな韓国料理も堪能できた。
自嘲気味に同棲相手に話していたらこんなことを言われた。
「それって、結婚、子どもの進学、老後のことを考える上でも、同じことが言えるんじゃない?」
はっとした。
何も引っ越しに限ったことではない。
これからの人生イベント、そして日々の生活でも当てはまるのではないか。
それからというもの、余裕を持って、掃除や洗濯をはじめとした家事、そしてお金の管理に取り組むようになった。
「引っ越しで経験してきた失敗は無駄じゃなかった」
いつまでもそう思えるように。
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