儀式の力
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記事:小林千里
「お葬式の主役は故人様です。納棺は故人様をの主役にするために行うんですよ」
丸八葬祭の納棺師、中田さんはそう話し始めた。
「まずお身体を温かいタオルやアルコールで拭き清め、目とお口の中を神水で清めます。お口の中に綿などを入れて、できるだけお元気だったころのようなお顔にします」
まるで今、ここでどなたかのお身体を拭いているかのような錯覚が起きる。
納棺師。
映画を見るまで、私はその仕事を知らなかった。
納棺は、お通夜ともお葬式とも違い、本当にゆっくりとご家族が故人様とお別れができる時間だという。
「私は納棺をご家族の方に見ていただいたり、手伝っていただいたりしています。
故人様の体を触ったり、話しかけたりすることでお別れをしていくことがとても大切です」
私が子どものころ、お葬式はとても大変だった。
自宅が通夜や葬儀会場になる。
たくさんの親せきが来る。
お茶やお菓子がたくさんいる。
お酒もつまみもたくさんいる。
子どもの私は、この非日常にワクワクしたものだ。
最近のお葬式事情は昔とずいぶん変わった。
まず、通夜も葬儀も葬儀会場で行われる。
これは家族にとってはとてもありがたいことだ。
そして家族葬。
いつからこの寂しげなお葬式が始まったのだろうと調べてみたら、
平成9年ごろらしい。
お金をかけない結婚式「ジミ婚」が流行ったころ、
「ジミ葬」という言葉が生まれた。
ところがこのころは、積極的に死について話をすることは「縁起でもないこと」とされていた。
そのうち「ジミ葬」が「家族葬」という名称に代わり、
ここからお葬式のスタイルががらりと変わった。
まず、小規模。
そして、高い。
一般葬でも家族葬でも、基本的にかかるお金は決まっている。
参列者が多ければ香典も多いが、返礼品なども多くなり葬儀の全体費用は高くなる。
参列者が少なければ返礼品は少なくてもすみ、一見費用が抑えられたように感じるが、
実は香典も少ないので、持ち出し金額が多くなる可能性がある。
私の出身の地域では、お通夜には「淋見舞い(さみしみまい)」というのしをつけたお菓子か線香を持っていくのが習わしで、
人がたくさん集まるからお菓子もいるでしょう、
お通夜の間、線香を絶やさないようたくさんの線香がいるでしょう、
と持ち寄ったものだと聞いたことがある。
そして香典は、お葬式の費用の足しにしてくださいと持ち寄ったもの。
だから香典をもらったら必ず香典を返すしきたりなのだと聞いた。
江戸時代、村八分の家でも、火事とお葬式だけは協力し、香典も出したと聞いたことがある。
誰にでもやってくる「死」を助け合ったのだ。
家族葬は、その相互扶助の気持ちを立っていることが、少し寂しいように思う。
最近はお葬式を挙げない「直葬」も増えている。
お葬式の約半分が家族葬、そして25%ほどが直葬だという。
直葬の場合、残された家族はさみしくないのだろうか。
しっかりお別れできているのだろうか……。
そして、ふと、ブライダルプランナーの大屋さんのお話を思い出しで
結婚式を挙げたカップルと挙げていないカップルの離婚率を思い出した。
離婚経験者の約8割が結婚式を挙げなかった「ナシ婚」。
もちろん結婚式を挙げても離婚する人はいるけれど、
明らかに離婚率に差があるのだそうだ。
「豪華な結婚式を挙げなくてもいいんです。
ご家族のお顔合わせの会でも、おふたりだけの結婚式でも。
新たな自分たちの生活のために、何かをすることが大切なんです」
納棺師の中田さんがこんなお話をしてくれた。
「ご家族は納棺をしながらたくさんの涙を流します。
でも納棺が終わって涙を流し切ると、多くの方がすっきりとした顔になります。
そして多くの人が
『やっと安心しました』
とおっしゃいます」
故人様に、「ありがとう」と何度も言う方もいるそうです。
生きている間には言えなかった言葉をたくさん話しかけるそうです。
「納棺は、ご家族の最初のグリーフケアです」
父が亡くなった時、
母は一度も泣かなかった。
母の性格では、人前では泣けないのだろう。
お葬式が終わり家に帰ると、
「四十九日までは袖を通しに来るから、着物を出しておかないと」
とタンスの中から父の着物を出した。
そして、七日ごとに行われる七日勤めの法事では、いつも目じりに涙がたまっていた。
法事が終わって私が帰ろうとすると、
母は必ず
「来週は来なくていい。毎週来られても困る」
と言うので、帰りぎわにはいつもけんかになった。
母にとっては、さみしさや悲しさをこういう形にしかできなかったのだろう。
その母も、四十九日の法事が終わると、
「これでやっと、天国に行けた」と言って、
それまでかけてあった父の着物をしまった。
冠婚葬祭は人間が生きている間の重要な節目と言われている。
成人式の「冠」。
結婚式の「婚」。
お葬式の「葬」。
法事の「祭」。
人の生き方がずいぶん変わってきた。
でも、生きているうちの節目は
やはり区切りをつけることが必要なのかもしれない。
冠婚葬祭の風習がいつごろから始まったかはわからないが、
世界中のどこの民族でも
冠婚葬祭の儀式が行われている。
人が何百年何千年の経験に基づいているものだ。
昔から行われているし儀式が持つ力を、信じてみようと思う。
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