メディアグランプリ

くせ毛戦争2020〜コンプレックスとの和平に向けて〜


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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すえはる(ライティング・ゼミ平日コース)
 
「私くせ毛なんですよ〜」
そんなセリフを聞くたびに「え〜そんなことないですよ! いい感じですよ〜」と答えながら「その程度で何を言ってんだか……」と言いたくなるのをグッと堪えている。
 
あるところに、かなりのくせ毛と戦う将軍がいた。
天然パーマと言うとイメージしやすいタイプだ。ちょっと毛先の方向がバラバラとか、まっすぐにならないとかそういう次元じゃない。
毛の波打ちは根元から毛先まで続き、かといって綺麗なウェーブでもバネのようにクルクルしてるわけでもない。パーマが取れて元気が無くなったアフロのよう。
髪一本一本の間に空気の層が入っているような驚きのボリューム。
大気の湿気に敏感で、髪の纏まらなさ加減で雨は降る前に察知出来る。
雨の日には、どんなにセットしても駅に着くまでの5分足らずで8割がた崩れる。
「なんか疲れてる?」と言われるくらいにはクルクルの落ち武者に変身しているのだ。
梅雨は生きていられない。ポニーテールでさえも結んだ先はクイックルハンディのようになってしまうので、お団子にするしかない。
そんなわけで髪を結ぶ以外の選択肢を奪われてしまった将軍、私。
 
この因縁の敵との戦いが始まったのは今から10年前。
小学時代、敵の存在など気にも留めたかった私に、ゆっくりとくせ毛が侵略してきた。
中学時代、身なりを気にするようになってから「くせ毛」はどんどんコンプレックス上位になっていった。
うねる髪を笑われたり、写真を撮れば変に写ってしまったり。
おしゃれに敏感な将軍はどうにか髪の毛をまっすぐに綺麗にしたいと奮闘する。
しかし、苦難ばかり。
 
ストレートパーマをかけたい! と背伸びしてサロンへ向かえば、
「ストレートパーマじゃ効きません」と縮毛矯正をかけられる。
まっすぐにはなったものの、毛先は刺々しくカツラかと思うほどの不自然さに。
その後もいくつかサロンを探索し一度は理想的なストレートになった。
だが髪の伸びる速度がめちゃくちゃ早く、一ヶ月も経てば頭頂部に不思議な立体感が現れるようになった。金欠の学生には定期的な縮毛矯正は継続が難しくもあった。
鏡を見るたび隠しきれない己を見るのが辛く、以前のように髪を結ぶようになる。
 
時代は高校生、ヘアアイロンで全ての髪の制圧しようとしたが成功ならず。
 
後ろ髪に完全敗北し、毎日ひっつめ髪。
おしゃれは前髪で勝負するしか無くなってしまった。前髪だけならアイロンでコントロールできる! と小顔効果も狙って触角(顔の左右に顎くらいまでの長さの髪を垂らすこと)も作った。
それからずっと、毎日前髪と触角をストレートにして過ごすことに。
だが、湿気の多い日や汗をかく夏にだんだんとバレていくくせ毛。
特に触角はまっすぐにしていたので、少しでもはねてしまうと触角としての機能も果たさない。
新しい関係性は築かれることなく長期冷戦状態だった。
 
2019年のある日、くせ毛の歴史に刻まれる出来事が起きた。
ふと流れていたCMだった。
くせ毛に悩む有村架純さんに吉田羊さんがこう声をかけたのだ
 
「コンプレックスは綺麗の原石」
 
いつもなら鼻で笑って「私のくせ毛バカにしてんじゃないよ」と酒でも引っ掛けていたところだが、何故だかその時はストンと入ってきた。今にして思えば、好きな人と会う予定があったからそれに向けて少しでも何かに縋りたかったのかもしれない。
 
コンプレックスのくせ毛を「隠す」のではなく「活かす」ことができたほうが人生得に違いない。
まずは垂直に伸ばしていた触角を、アイロンをかけるときに緩く巻いてみた。くせ毛に歩み寄ろうと試してみたのだ。
するとどうだろう。顎にかけて沿うように髪がカーブすることで、自分でもわかるくらいに顔が小さく見えた。さらに緩く巻きがが入っているため、くせ毛はくせ毛でもゆるふわおしゃれさんに近づいた気がした。
前髪もまっすぐぱっつんから、横に流しながらアイロンで最後にクルッと軽くひねりを加えてみた。重たい印象だった目の上が明るくなり、髪に軽さができたように見えた。
 
びっくりした。今までは隠すために、自分の「くせ」を殺すために使っていたアイロンだった。それが少し手の角度を変えたり引っ張る方向を変えるだけで、「くせ」は自分が思っていた以上に良い味方なっていた。むしろ個性を引き立たせてくれる。気づけば将軍の側近として最高の仕事をしている。
 
この第一次革命から数ヶ月。
2020年を迎え、己の可能性にもっと賭けてみたいと思った将軍。
ついに完全敗北という苦い過去を持つ「後ろ髪」との再合戦に挑んだ。
髪を10センチ以上、ギリギリ結べるくらいの長さに切ったのだ。
 
ボリュームが出るのは把握済み。頭の上半分の髪を結うというハーフアップ作戦を決行。「くせを以てくせを制す」をスローガンに、髪の結び目を半分に割りそこに結んだ毛束を通す。通称「くるりんぱ」法である。すると、敵の大きな戦力だったボリュームが抑えられる。さらに、上から髪で抑えられたことで下半分の髪も爆発すること無くウェーブだけが引き立つようになった。
使えないからと買いもしなかった髪飾りも調達し、つけてみると「くせ」は嬉しそうに飾りを抱えたように見えた。
周りからの評判も良く「いいね!」の一言は、髪政治で功績を残したことのない21年間の歴史に刻まれた。
 
苦節8年。完全勝利だ。
だが完全和平ではない。雨天時の協力体制、歳を重ねTPOが複雑化しても対応できるマニュアル作成、静電気紛争。「くせ毛」と共に研究することはたくさんあるのだ。
 
「コンプレックスは綺麗の原石」。
どんな環境でも時代でも年齢でも、この言葉を掲げコンプレックスとの共存を目指せる人になりたい。
 
 
 
 
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2020-01-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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