軽焼きまんじゅうは2度おいしい
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記事:結城 智里(ライティング・ゼミ日曜コース)
「軽焼きまんじゅう」って知っている?
知らない?
それではどんなおまんじゅうだと思う?
きつね色に焼けた小麦粉の皮のおまんじゅうだろうか?
小豆のあんこがはいっているのだろうか?
「軽焼きまんじゅう」を食べたことがないという人は、少ないはずだ。なぜなら軽焼きまんじゅうとは、シュークリームのことだから。一度は口にしたことがある人が多いと思う。
赤毛のアンを最初に日本に紹介した村岡花子女史が、「赤毛のアン」シリーズの1冊の中で、シュークリームのことを「軽焼きまんじゅう」という言葉で表現したのである。たしかに、シュークリームはまんじゅうと言っていい形状かもしれない。そして薄皮の中にあん(クリーム)がはいっている。子どもの頃、赤毛のアンシリーズを読んでいた私は、「軽焼きまんじゅう」という言葉を特に気にも留めず、そんなお菓子があるのか、と思ったきりだった。大人になってから、赤毛のアンをテーマにしたお料理本で「軽焼きまんじゅう=シュークリーム」と知ったときは、「ええー!」と「なーんだ」という言葉が一緒に出たものだ。シュークリームというものをまだ多くの人が知らない時代だったから、「軽焼きまんじゅう」にしたのだろうか。だがこのシリーズではパイやタルトはそのままの名前で登場する。タルトのほうがシュークリームよりハードルが高い気がするのだが。
そもそも赤毛のアンシリーズが邦訳されたのは戦後だし、「軽焼きまんじゅう」が登場する本はシリーズの最後だから、昭和30年代だったのではないだろうか?その時代、シュークリームはみんなに知られていなかったのか?
それではシュークリームって日本では、いつごろから食べられていたのだろう。
インターネットで調べてみた。まったく便利な世の中である。シュークリームを特集した「シュークリームNAVI」サイトがあるではないか。モンテールというコンビニやスーパーで販売されている洋菓子のメーカーのサイトである。その中の「シュークリームの歴史」によると、明治の終わりには、洋菓子が一般家庭に広まり、昭和に入ると冷蔵設備の発達もあって、クリーム入の入った生菓子も気軽に食べられるようになったという。
というわけで、村岡女史が赤毛のアンシリーズを訳した時代には「シュークリーム」はかなりの人が知っていたのではないかということになる。
そもそも「シュークリーム」は和製英語で、この菓子はフランスでは「シュー・ア・ラ・クレーム」、英語圏では「クリームパフ」と呼ばれているらしい。
とすると村岡花子は和製英語を使うのがいやで徹底的に日本語に直したのだろうか。「軽焼きまんじゅう」と。まさかとは思うが。でもご本人が存命だったら聞いてみたいところである。
赤毛のアンシリーズには「軽焼きパン」という食べ物も登場する。初めて読んだとき、私は「しっかり焼いたパンではなく、かるーく焼いたパンね」、と考えてこれもスルーしていた。ところがこれも今ではよく知られている食べ物だった。「マフィン」である。こちらは昭和30年代だったら、ほとんど知られていないから、そう訳したのかもしれないな、と納得できる。
今はテレビやインターネットで映像や画像をみることができるし、生活の中にも普通に外国の食品が入ってきているので理解できるし、調べることもできる。
だが、私が子供の頃、外国の本を読むと、目にしたこともない、聞いたこともない食べ物がたくさん出てきた。そんなとき、想像して食べ物のイメージを作り上げるのはとても楽しかった。食べ物が登場する本がとても好きで、それは今でも同じである。
「秘密の花園」を読んだ時も、ストーリーもとても気に入ったが、そこに登場する食べ物に興味を持った。「ライスプディング」である。そのとき小学生だったが、プディングがプリンであることは知っていた。そのころプリンといえば、インスタントの粉を買ってきて、冷蔵庫で固めて作る「ママプリン」がおやつの定番だった。私は頭のなかで「ライスプリン→ママプリンのなかにおいしいポン菓子のあめがけのようなものがはいっている」と想像して、食べてみたいものだと思った。
大人になって、イギリス料理の本などで「ライスプディング」を調べると、米をミルクで煮たものだと知ってなんだかとてもがっかりした。
イギリスの児童文学「ツバメ号とアマゾン号」にもたくさんの未知の食べ物が登場して楽しかった。よく出てくる食べ物に「種入り菓子」というのがあって、これはなんだろう、何が入っているのかな、種というのはなにかとてもおいしいもの実でもはいっているのだろうか、とにかくおいしそうだな、と思っていた。ところがこの物語のファンサイトに解説があって、「シードケーキ」(キャラウェイシードなどがはいったパウンドケーキ)のことだとわかって、なるほど、と思うと同時にちょっとがっかりした。長年持ち続けていたイメージがあっさりこわされてしまった。
こうしてみると、「未知の食べ物」を想像するというのは私の子ども時代の読書の楽しみのかなり大きな部分を占めていた気がする。単に食いしん坊だったのかもしれない。だが「想像する楽しさ」は計り知れないものがあったと思うのである。私にとって読書はまさに「2度おいしい」ものだったのである。
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