映画館で映画を見るということ
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記事:土屋 智子(ライティング・ゼミ平日コース)
はっきりと覚えている、映画館で見た映画は「ゴジラ対メカゴジラ」。
確か、父と兄と3人で行った気がする。話の中身は記憶には無いけれど、メカゴジラの巨体が銀色にギラギラしていたことだけは記憶に残っている。
それは後に水族館で見た、水槽の中でぐるぐる止まることなく泳いているマグロのような色だった。
次に覚えている映画の記憶は「日本沈没」。
伊豆半島の下田から日本が沈没していった。私の実家は伊豆半島だった。兄がいつもいつも、「下田から沈むんだぞ! 」と言っていたが、今思えばそんなことを言う兄が一番ビビッていたのではないだろうか。
初めて友達と見に行った映画は、当時大人気だった山口百恵の「絶唱」。
相手役は今の旦那さん、三浦友和。幸せから遠いところにいたヒロインが、様々な困難を経てやっと幸せを目の前にしたその時に、病気で絶命してしまう。
当時の私は、もし彼女が生き続けていたらどんなストーリーが続いたのだろうかと、あれやこれや想像を膨らませていた。
どの映画も、当時地元にあった映画館で見た。
今はさびれてしまった故郷のアーケード街にあったその映画館は、幼い頃の私にはとても大きくてきらびやかで、そこに足を踏み入れると、いとも簡単に夢の世界に入ってゆくことが出来た。
記憶の中の地元の映画館は、今ある映画館のように座り心地の良いシートでもなく、通路も狭いし何ならトイレの匂いが漂っていた。
スクリーンだって、思い返せばそれほど大きくもなかったはず。
けれど、ぎしぎし音が鳴る座席や、決して心地良くない匂いもひっくるめて、あの場所にいた私はとても幸せで、とても興奮して、見たことのない世界に何の躊躇もなく飛び込んで想像の世界をどんどん膨らませていった。
それから数年が経ち、ビデオデッキやDVDで自宅でも映画が見れるようになると、何となく映画館から足が遠のいた。自宅ならば好きな時間に好きに見れるし、泣ける映画ならば映画館だと周りを気にしてしまうけれど、自宅なら思いっきり泣ける。何ならお酒飲みながら、酔っ払って号泣しながら見たりもした。
気に入ったシーンがあれば、しつこいくらい再生を繰り返して、そのうちセリフを覚えたりして、それはそれで楽しかったし、たくさんの映画を見た。
シネマコンプレックスがあちこちにできて、見やすくてキレイな映画館が増えてきてから、再び映画館に足を運ぶようになった。会員になると、何回か見ると1回無料になったりする、ちょっとお得感をくすぐるシステムに惹かれたのがきっかけだったのだけれど。
久々に映画館で映画を見るようになって、興奮している自分に気がついた。
本編開始前のコマーシャルが終わり、館内の灯りが落ちると「さあ、これから始まるよ!」と言われてるようで、ちょっと気分が高揚する。
大きいスクリーンが目の前に広がり本編が始まると、その作品の中に軽々と入り込めてしまう。ほんの2時間ほどの間、映画館の中の空間がどこかに移動したかのように私は簡単に別の世界に飛んでゆける。1,000円ちょっとで、時空を超えさせてくれる。
「STAR WARS スカイウォーカーの目覚め」を見て宇宙の果てを夢見て、フォースと共にある自分を妄想し、レジスタンスとなり一緒に戦う。
「ターミネーター ニューフェイト」で復活したシュワちゃんと、再び繰り返される戦いに興奮し、次の未来には何がやってくるのだろうと思いを馳せる。
「天気の子」で雨が降りしきる東京の街並みを眺めながら、愛にできることはまだあるか? と考えてみる。
「ボヘミアン・ラプソティ」を見て、ありし日のQueenを思い出し、当時の興奮をつい昨日のことのように思い返す。
子供のころに、ゴジラの戦いに興奮し、日本沈没に恐怖し、百恵ちゃん演ずるヒロインの運命に涙したように、当時の自分が感じた興奮に勝る感動を今の私が感じることは多分難しいかもしれないけれど、映画を見て知らない世界を垣間見てみたい。もっと興奮を感じてみたい。
ただ一つ分かっていることは、今はもう取り壊されて無くなってしまった故郷の映画館が、私を初めて未知の世界にいざない、知らない世界への好奇心と、今いる場所から飛び出す扉を開いてくれた。
あの映画館の入り口から、私は自分が望む世界に飛び出した。その世界にはまだ到達できていないけれど、今までの道のりも悪くはないし、これから歩む道もけっこう楽しめそうな気がする。
ただ、ハリウット版ゴジラ最新作「ゴジラキングオブモンスターズ」は、自分の中ではゴジラではない別物。ゴジラのような恐竜でしかない。私の映画のスタートが昭和のゴジラだからかな。
この作品が初めて見た映画だったとしたら、この令和のゴジラがオリジナルのゴジラになるのだろう。そして、そこから色々な世界が広がっていくんだろう。それはそれで悪くはない気がする。
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