たいせつな人は、きっとうんちが教えてくれる
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:竹下優(ライティング・ゼミ平日コース)
「くっ…! お尻の穴が自由自在に広がれば良いのに…!」
便座に腰掛け、思いっきりいきみながら、トイレで悪態をついた。
うんち。
うんこ。
いや呼び方はどうだって良いのだけれど、本当にコイツには苦しめられる。
全人類に分け隔てなく“大ピンチ”を与える悪魔の様なヤツだ。
この日は大きすぎて固すぎて、いやもうコレどうしたら良いんですかね状態で、頑固なヤツと闘っていた。
いきんでみたり、お尻の穴をすぼめてみたり。
悪戦苦闘しながら、ふと、あの日の事を思い出した。
「うんちと死闘を繰り広げる時に思い出す人が、自分にとって一番大切な人なんだよな~」
2019年11月、福岡市郊外のプチ田舎に住む私は、いつものように地下鉄の駅へと向かっていた。
プチ田舎からの通勤における難点はただひとつ、通勤路にトイレが無いことである。
家を出る時には“きゅるり”の“き”の字も無かったのだけれど、
駅へ向かうほんの10分の間に、事態は急展開を見せていた。
お腹が、そりゃぁもうめっちゃ痛いのである。
30年以上も生きていれば、痛みの種類でおおよその見当はつく。
これは、最大級にヤバい。危ない。
きゅるきゅると音を立てながら、刺し込むような痛みが襲ってくる。
これは…ゆるゆるのヤツが、結構な量出るやつだぞ。
くそ、昨日ご飯お代わりしなきゃ良かった。
しかし、無いものは無いのだ、トイレは駅の改札の向こう側。
気合を入れてお尻の穴に力を込め、ちょっとお腹を突き出しながら早歩きをする。
…やった!見えたぞ、駅だ!
きゅるきゅるきゅるんっ!
気の緩みからうっかりお尻の穴まで緩みかけ、絶体絶命のピンチがやってきた。
駅の入り口から改札をこえ、トイレまでは200m以上ある。
その距離を持ちこたえられるかどうか、極めて微妙なラインだ。
というか、自信が無い。
滲む脂汗、ドクドクと高まる鼓動。
その場にうずくまりたいけれど、止まったらもう後が無い、すり足でそろりそろりと前へ進む。
「駅の構内でズボン下ろしてうんちするのと、このまま漏らすのだったら、どっちがヤベェ奴かな」
「30歳過ぎてうんち漏らしたら社会的には死んだも同然だよな」
「“うんち漏らしたけん、着替え持って迎えに来て”って、誰に電話しよう」
意識も薄れそうなほど辛い時に限って、しょうもない事ばかりが頭に浮かぶものだ。
この時、私の脳裏で笑顔を浮かべていたのは、母親と夫の2人だった。
きっと爆笑しながら迎えに来てくれるだろうし、駅員さんにも代わりに謝ってくれるだろう。
今すぐ消えてなくなりたいほど恥ずかしい姿も、あの2人になら、見せられる気がする。
そう、私にはあの2人がいる! 怖いものなんかない、何があっても大丈夫だ!
覚悟を決めて、大きな賭けに出ることにした。
残りの50mを、走り抜けたのである。
衝撃で漏らすかも、という不安は残るものの、今の私にはリスクを犯す勇気がある!
間一髪で滑り込み、バッグをそこいらに投げ捨てトイレに座った時には生きた心地がしなかったけれど、
無事にコトが済み、下着もズボンも汚れていない事を確認すると
「人間、大切な物ってのは、案外少ないもんなんだなぁ」と妙にしみじみしてしまった。
お金も、地位も名誉も(そんな物持ってないけど)、このピンチでは何の役にも立たない。
このピンチに破れてしまった時、支えてくれるのは“愛し、愛されている相手”のみなのだ。
うんち。
うんこ。
いや呼び方はどうだって良いのだけれど、本当にコイツは人間のことを振り回す。
けれど私は、“自分にとってこの人は、どんな存在なのか”を見極めたい時、非常に有効だと思うのだ。
私のような絶体絶命のピンチを経験して欲しくは無いけれど、
・一緒にいる相手に「お腹痛いからトイレに行きたい」と言い出せるかどうか
・トイレでうんちをした後に、トイレットペーパーが無いことに気がついたら、「持ってきて」と頼めるかどうか
くらいは指標として有用ではないだろうか。
後からからかわれたり、知らない所で誰かに話をされたりするのが怖い?
そんな相手は友達じゃないよ、いてもいなくても…嫌、あなたの周りにいなくて良い人だ!
大好きだから、恥ずかしくてそんな事は言い出せない?
うーん、その相手は、あなたが追いかけるばかりの恋になって、辛くなるんじゃないかな。
かつては私もそうだった。
ドライブデートの途中でお腹が痛くなり、コンビニに寄ってもらったけれど、思いのほか時間がかかって
「前の人がなかなか出てこなくてさぁ」とウソをついたことは、一度や二度ではない。
でも、その相手とは、やっぱり上手くいかなかった。
いつだって“ちゃんとした自分”でいようとして、背伸びして無理して、疲れてしまったのだ。
“自分の恥部=うんち”との死闘。
その時に頭に思い浮かぶのは、あなたが絶対的に信頼し、愛し、ありのままのあなたをさらけ出していて、
相手も、そんなあなたをまるっと、絶対的に愛してくれている! という、自信を持てる人なのだ。
だから。
「試着室で思い出したら、本気の恋だと思う」という理論に対抗して
「うんちとの死闘で思い出したら、運命の愛だと思う」という理論を提唱してみようと思う。
さぁ、あなたが思い出す人は、誰ですか?
***
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