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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:近藤泰志 (ライティング・ゼミ平日コース)

 
 

僕は何度か人の不幸を呪ったことがある。

 

最初に呪ったのは今から4年前の秋だった。

 

相手は当時僕のチームに途中参画してきた新リーダーのSさん。彼は温厚な前任のMさんとは真逆で、かなりのトラブルメーカーだった。

 

声を荒げるのは日常茶飯事で、あげく会議中にお客様と言い争いをするようになっていた。
会議の後、不機嫌なSさんは決まって僕たちメンバーに怒鳴り散らした。
 

「馬鹿しかないのか! この現場は!」

 

……もう限界だった。

 

彼が来てからチームの評価は急降下してしまった。

 

「どんな形でも良いのでSさんがチームからいなくなってほしい」

 

「前のように心穏やかに仕事がしたい」

 

そんな悲痛な願いを抱えつつ心身を削りながら毎日を送っていた僕は、気分転換に日帰り京都旅行へ出かけた。

 

河原町から東山方面に歩いていると、大きな看板がかかっている鳥居にたどりついた。どこか名のある神社なのかなと思い、僕は見上げて看板の文字を読んだ。

 

『悪縁を切り良縁を結ぶ』

 

僕は吸い寄せられるように鳥居をくぐった。

 

そこは『安井金毘羅宮』という神社で、悪縁を切り良縁を結んでくださる神社だった。
悪縁で悩む僕はそうとは知らずにこの神社にたどり着いたのだ。
 

「ここでお願いをしたら、もしかしたらSさんがいなくなるかもしれない」

 

僕は絵馬に『Sさんが消えてしまいますように』と書いて飾り、これからおとずれるであろうSさんの不幸を一心不乱にお願いして神社を後にした。

 

『困ったときは神頼み』とよく言われるが自分以外の誰かの幸せを願うために神社を参拝したことは何度もあったが、他人の不幸をこれでもかと呪ったのはその時が初めてだった。

 

するとほどなくして願いが叶った。

 

Sさんがチーム不振の責任を取る形で常駐先から退場させられたのだ。

 

どうやら彼をよく思っていなかった上層部が彼を退場させたようだ。そして前任リーダーのMさんが復帰した僕のチームは今までの悪夢のような状況が改善して以前のような良いチームに戻った。

 

Sさんはしばらくして別の現場に移ったが、そこでも同じようなトラブルを起こしてしまったそうだ。彼はその後、心を病んでしまいそのまま退職をした……と数か月後にMさんが教えてくれた。

 

Sさんが今どこで何をしているのか僕にもわからない。でも彼の性格上きっとあまりいい境遇にはいないような気がする。

 

その後も僕は安井金毘羅宮に通い、僕に仇を成すような人達との縁が切れて、その人たちが不幸になるようにと幾度もお願いをしてきた。きっと主祭神の崇徳天皇(崇徳院)に気に入られたのだと思う。僕が願うと『嫌な人達』には不幸な事が起こり、僕の目の前からいなくなってしまう。その人数が8人を超えた時はさすがに恐ろしくなった。でもいなくなってくれるのは良いことなので、その点については素直に感謝をした。これからは気心の知れた人たちと幸せな毎日を送って生きていけるのだと僕は安心していた。

 

だが、話はそこで終わらなかった。

 

あれは一昨年のご参拝の時だった。僕は崇徳院様にこうお願いをした。

 

「これからは崇徳院様のお側で自分のやりたいことをして生きていきたいです」……と。

 

数日後、またしても願いが叶った。

 

僕は会社から大阪転勤の話を打診された。しかしあまりに突然だったので僕は断った。
その直後、僕は仕事で椎間板を損傷してしまい、休職をする羽目になってしまった。
 

「これはきっと崇徳院様が怒っているんだ。そうとしか思えない」

 

僕は痛み止めを飲んで新幹線に飛び乗り安井金毘羅宮へ向かった。

やっとのことで神社にたどり着いた僕は、崇徳院様に心からお詫びをした。

 

「お心遣いを無駄にしてしまい、申し訳ありませんでした。お側で暮らすようになったら毎月必ずご挨拶に参ります」

 

崇徳院様は僕を許してくれたのか転勤の話はその翌月に再燃し、京都で暮らすために必要なものを全てそろえる形で僕の願いを再び叶えてくれた。

 

今、僕は京都で暮らしている。

 

月初めの週末には欠かさずに安井金毘羅宮に出向き、崇徳院様にご挨拶をしている。京都に移ってきてからは誰かを呪ったりすることはなくなり、その代わり僕のことはもういいので、僕の周りで困っている人たちの力になっていただきたいと切に願うようになった。

 

決して悪ふざけをしていたわけではない。だが他人を呪うだけのために参拝をしていた僕はいったいどんな顔をして拝んでいたのだろう。多分、鬼のような顔だったと思う。『人を呪えば穴二つ』という言葉があるが思えばあの時、僕が椎間板を痛めたのは僕がそれまでに他人を呪ってきた代償だったのかもしれない。

 

悪縁を切ってくれる神社とそこに住まう神様……僕は身をもってそのご利益を体験して、そしてその報いを受けた。

 

そしてこれまでの一連の流れは崇徳院様が僕を側に置いておくために仕組んだ巧妙な罠だったのではないかと信じている。

 

僕はもう京都から離れることはできないんだなと思った。

 
 
 
 

***
 
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2020-04-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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