メディアグランプリ

飲食店をテイクアウトで応援! どころか、こっちが励まされて帰ってきた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ヨシオカ ユーコ(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 

「テイクアウト! って店の表の看板に貼るようなポスター、作れない?」

 

行きつけのバーのマスターから私にLINEがあったのは、コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が、私が住む街に出されてすぐの頃だった。
営業自粛や休業を余儀なくされた飲食店の中から、テイクアウト営業を始める店舗が次々と登場していた。マスターも、バーでフードのテイクアウト営業をこの度始めるという。
 

このマスター、実はめちゃくちゃ料理が上手い。彼女のお店は、本来はお酒を楽しむのがメインのバーなのだが、マスター手作りのフードも隠れメニューとして用意されている。それがとても美味しい。私は独身時代、残業で帰りが遅くなった時、遅くまで開いていて、かつ美味しいここのバーのごはんに、しょっちゅうお世話になった。

 

そんな彼女のバーごはんが、テイクアウトを始めるという。ポスター制作ぐらい、お安い御用だ。
私はマスターに頼まれたテイクアウト営業の告知ポスターをえっちらおっちらと作り、仕上がったポスターを担いでお店まで自転車を飛ばした。
 

こんな大変な状況で、果たしてマスターはどう過ごしているのだろうか。私は3月の時点で外食を控えていたので、もう1ヶ月近く彼女の顔を見ていない。先の見えない不安の中で、大丈夫だろうか。
そんなことを考えながら、久々にお店を訪れた私を出迎えたのは、
「テイクアウト、SNSで告知したらみんなめっちゃ注文してくれて、本当に泣けるー!」
と感激する、明るい彼女の声だった。
 

バーカウンターを挟み、感染防止のためのソーシャルディスタンスを保った上で、作ったポスターをチェックしつつお互いの近況報告をする。カウンターの内側にいるのは、まるで自粛ムードなんて嘘のような、いつも通りの元気で溌剌とした様子のマスターだ。
「コロナのおかげで、もう大変よー!」と嘆きつつ、マスターは言った。
 

「でもね、コロナウイルスのおかげで、最近の自分は頑張りが足りてなかったなって、反省したわ」

 

いやいや。
昨今のこの厳しい状況は、未知のウイルスの感染拡大というどうしようもない事態のせいであり、彼女のせいではない。それに、テイクアウトを始めた途端、常連さんたちから注文が来るのは、彼女が日頃、お店を頑張っているからこそではないのだろうか。
 

しかし、そうではないと彼女は言う。
「きっと今のままの私で営業を続けてたら、コロナのことがなくたって、うちはお客さんが来なくなってたかもしれないって思って」
 

確かにお客さんが少ない日もあったけれども、満席に近かったという日もあり、なんやかんやで5年続いているこの小さなバーは、これからもマスターと一緒にずっと元気にやっていくものだと思っていた。
それに今は、状況が状況だ。感染拡大予防のため、客側も飲みに行きたくてもいけないし、お店側も営業したくでもできない。コロナのせいで会社が危うい、お店が危うい、補償はどうなるんだと、皆がコロナがもたらした損害と必死に戦っている。
しかしそんな状況で、マスターはこう考えたという。
 

「お店以外のことが忙しかったり、もうやめようかななんて迷いがあったりして、正直、最近お店のことにあまり手をかけていなかった。惰性でやっていたなって。
でも、もしコロナがなかったら? って考えたとき、コロナがなくても、自分の仕事に対する気持ちや頑張りが足りてなかったなって、気づいたの」
 

もし、コロナがなかったら。
多くの人にとって、この「もし」の続きは、こんなことができるのに! と今できないことへの願望を語るか、こんな風に困ることはなかったのに! と今の不運を嘆くか、どちらかになると思う。
しかし、この人は違う。
もし、コロナがなかったらという「もし」を、今までの自分を冷静に見つめ直し、反省するきっかけにしている。
そして、
「自分が頑張ってなかったってこと、コロナのおかげで気付けたから、よっしゃこれから頑張ってやろうって思えたわ!」と、明るく言い放った。
 

……初めて見たかもしれない。コロナウイルスの影響で窮地に立たされているにも関わらず、こんな風に「コロナのおかげで」というフレーズを、前向きに使える人を。
もちろん、彼女は困っていないわけではない。生活やお店をどうするか考えるたびに落ち込むし、休業補償についての情報が気になって、ニュースから目が離せない毎日だという。不安で、家族に八つ当たりしてしまったこともあるという。
 

それなのに、どうしてこうも前向きな気持ちを保てるのだろう。私の分のテイクアウトを準備しながら、彼女はさらに話を続けた。
「でも本当泣ける。テイクアウト、いろんなお客さんが注文してくれて」
そう言って、マスターはいろんなお客さんの名前を挙げていく。
「SNSで注文してくれたあの人。テイクアウトは注文できないけど、頑張ってとメッセージをくれた遠方のあの人。本当に涙が出るほど嬉しい。コロナのおかげで、お客さんのことがよく見えて、良かった」
そう、きっと彼女にお店を諦めさせないのは、お客さんの存在だ。
 

とここで唐突に「ねぇ見て、綺麗にできてるやろ!」と、カウンター越しにマスターがテイクアウト用のチキンライスを見せてくれた。紙の容器の中に、赤や緑の野菜と、黄色のターメリックライスが彩り豊かに盛り付けられていた。いつも奔放に明るく、前向きな彼女の人柄をそのまま表したような華やかな一品だった。

 

「こうやって応援してくれるお客さんもいるのに、自分の頑張りが足りてなかったなって思ったまま、店を終わらせるのは悔しい。コロナでやめただけは、言いたくない!」
そして彼女は、
「だから応援してねえー! 明日も注文、待ってまあーす!」とケラケラと陽気に笑った。
 

応援してねえー、なんて言われても。
応援してとお願いされたこちらの方が、マスターの並々ならぬポジティブさに圧倒され、元気をもらってしまったではないか。
私だって、こんな人がコロナでお店をたたんでしまうなんて、悔しい。
 

彼女の明るい強さがふんだんに詰まったチキンライスを自転車のカゴに乗せ、次は何を注文しようかと考えながら家に帰った。

 
 
 
 

***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
 

★10月末まで10%OFF!【2022年12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《土曜コース》」

 

天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

天狼院書店「プレイアトレ土浦店」 〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


2020-04-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事