マーケティングに失敗したパソコン講師の話
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:森北 博子(ライティング・ゼミ通信限定コース)
お客さまにインタビューした音声を文字起こししながら、キーボードを叩いた。
「あぁ、そういうところなのか」と思った。
私は、自宅でパソコン指導とホームページ制作をしている個人事業主だ。
新しいサービス展開を模索して、マーケティングの基本に立ち返り、リピーターのお客さまに協力を仰いでインタビューとアンケートを行った。お客さまが求めているものが何なのか、自分の強みはどこにあるのか、リアルな声を聴くうちに理解が深まっていく。
「あのとき、ちゃんと、何がしたいか聞いてみればよかった」
ふと、苦々しい記憶が蘇ってきた。
話は十数年前にさかのぼる。
私は当時、中高年を対象としたパソコン教室に勤めていた。1クラス最大20名の学校形式の集団レッスンで、受講生は50代~80代までと幅広かった。入門から実践までレベル別にクラス分けされていて、3カ月で1タームが終わる。各タームの終わりごろには、次のレベルのクラスに継続してもらうため、一人一人に声掛けをする。
私はその期間が、憂鬱で仕方なかった。
会社の経営を考えたら、継続率を上げるために手を尽くさねばならない。まして受講者数に応じて時給が変わるシステムだったから、収入アップというモチベーションもあった。言い換えれば、継続率は、自分の仕事ぶりに対する受講生の評価でもある。
しかし私の担当するクラスは、いつも継続率が悪かった。
受講生が継続しない理由はさまざまで、体調不良や親の介護というのは年齢的に考えても仕方ない。「ついていけるか不安」というのが理由なら、「手厚くフォローするから安心してください」と励ますと、継続していただけることもあった。
でも、「何となくわかるようになったから、これでお終いにする」とか、「ほかに用事ができたから、もう来られない」といった理由は、オブラートに包んではいるが「授業がつまらなかった」「自分の求めていたものではなかった」「興味がなくなった」といった意味も含まれていたように思う。私が受講生の立場でも、そんな大人の断り方をしていただろう。
今思うと、私はマーケティングに失敗していた。
当時、私は「教室とはこうあるべき」という考えに縛られていて、学び、上達し、パソコンを使いこなせるようになって卒業していくことが、受講生にとっての最良のゴールだと信じていた。しかしこれが間違いのもとだった。
例えば、私がやらかした失敗に「タイピング強要事件」がある。
受講生が「パソコンは難しい」と思う理由の一つに、文字入力への苦手意識があった。入力が速くなればパソコンが楽しくなるはずだと思い、タイピング練習の課題をたくさん用意した。けれど、意欲的に取り組んでくれたのは50代の若い受講生ばかりで、タイピングが苦手な年配の受講生の反応はイマイチだった。
実はタイピング課題の導入を提案したとき、上司や先輩講師の大反対にあっていた。たぶん、受講生の反応が予想できていたのだと思う。
受講生が求めていたのは、もっと別のものだったのかもしれない。
週に1回、年齢も住む環境も違うクラスメイトたちと会って、世間話をしたり、「難しいね」「よくできたね」などと感想を言い合うことが楽しかったに違いない。学びは二の次で、「教室」という名を借りて、学生の時のような時間を過ごしたかったのではないか。
でも、本当のところはどうだったのだろう?
今さら考えても、もう遅いのだけど。
私はその会社に8年勤めたのち、独立して、自宅でパソコン教室をはじめた。
「知りたいことだけ習える教室」というコンセプトを掲げて、いわゆる一人起業の女性を対象に、ブログの使い方やチラシの作り方をマンツーマンで指導した。かつて叶えられなかった自分の理想は、「集客したい」という人たちにこそ必要とされるものだと考えた。
しかしふたを開けてみると、少し違っていた。
「自分で出来るようになりたい」というニーズは一部にしか無く、「いま困っていることが、この場で解決されればいい」という切羽詰まったニーズのほうが圧倒的に多かった。今日覚えたことは、半年後には忘れている。忘れたころにまた、似たような問題解決のために教室に来てくださる。
私の理想とはズレたところにお客さまのニーズがあり、知らず知らずのうちに私はそれを叶え、感謝され、口コミが広がり、人気の教室となった。「知りたいことだけ習える教室」は、「解決したいときに解決できる教室」として支持を得た。
私の独立起業に関しては、マーケティングもへったくれもなかった。
求められるままに応えてきた結果、たまたま今がある。
そして今年、新たなサービスを提供するために、初めてマーケティングについて学んでいる。「ずっと必要とされて、役立つためには?」と、たくさんの本を読んだ。そして、答えはいつもお客さまが知っている、と気づけていなかった私は、つくづくバカだなと思った。自分の頭の中だけで考えたことは、決してお客さまのリアルな声などではない。
ボイスレコーダーを再生しながら、お客さまの顔を思い浮かべた。
快くインタビューに応じていただけたことに、胸がいっぱいになった。
お客さまの声に応え続けることこそ、私が独立起業した意味がある。
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