宇宙人と結婚する方法
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:Aya Fukuhara(ライティング・ゼミGW集中コース)
「お前のことは宇宙人だと思ってる」
夫に、行きつけのラーメン屋でそう言われて一瞬絶句した。
それは10年以上付き合った末に結婚した妻に言う言葉かい?
釈然としない様子の私を無視して夫は、
「俺たちの考え方が間逆なのはわかっているから、そもそも理解しようとは思ってないし、諦めている」
と更に続けた。
「えー! 理解しようとしてよー、 夫婦なんだからさー」
とブツブツ言いながら味玉味噌ラーメンを啜った。
夫と私は趣味も生い立ちも全く違うし価値観も正反対だ。
それでもあまり喧嘩もしないし、長い間良い関係性を保っている。
私は海外一人旅を生きがいにしている。突然休暇をとって1週間ほど家から居なくなることはしょっちゅうだ。
一方夫は海外どころか旅行にも一切興味がない。趣味といえば家で漫画を読むことくらい。
それでも私の趣味を否定されたことはないし、咎められたことも一度もない。
私達が滅多に喧嘩をしないのは、夫が私の行動に対して怒ったり口出ししたりすることがないからだ。
その理由は「嫁が宇宙人だから理解できないので諦めている」ということだったのか。
私はてっきり無償の愛で見守ってくれているものだと思っていたのだけれど……。
ウィージャという男の子のことを思い出した。
15年前学生バックパッカーだった時、インドのヴァラナシという町に10日間滞在した。
お金がなかったし暑かったので大して観光もせず、暇そうな現地人や旅行者達とトランプや散歩をしてだらだらと過ごしていた。その中でも当時10歳のインド人ウィージャとは、特に仲良くしていた。
帰国直前の最終日に事件は起こった。
それまで弟のように遊び相手をしてくれていたウィージャが、金の無心をしてきたのだ。
私は本気で怒った。
あなたは私からお金を取るために10日間一緒にいたのか? 対等な友達ではなかったのか? 旅行者相手にボッタくる奴らと一緒じゃないか。友達は助け合うものだけど、お金目的で仲良くなるなら友達じゃない。日本人は金持ちだと思ってるかもしれないけど、このお金は私が長時間バイトで苦労して稼いだお金だ。これだけあげるけど、もうあなたとは友達じゃない!
一気にまくし立ててお金を押し付けた。
「Thank you」
ウィージャは私の剣幕に今にも泣き出しそうな顔をして、うつむきながらお金を受け取ると、背を向けて去っていった。
その場にいた他のインド人たちは呆然としていた。
そのままウィージャとは口を聞かないまま帰国した。
当時の私にとって、友達が金の無心をするなんて信じられないことだった。
だから裏切られた気がして怒った。
だが、本当に困っている時に、少し余裕のある友達に援助をお願いすることは、彼にとって普通のことだったのかもしれない。
あの時彼の価値観が理解できないからといって怒らずに、
「理解できない価値観」として諦めて、私の意見を伝えておけば、お金を渡しても渡さなくても、気持ちよく旅を終えられたかもしれない。
私が彼を理解できなかったように、彼からしたら私は宇宙人だったはずだ。ウィージャとは生まれた国も育った環境も全て真逆だったのだから。
そういえば、ウィージャは靴も履いていなかった。
相手の価値観自分と全く違っても、怒ったり、ましてや自分の価値観を押し付ける必要はない。理解しようとしなくたっていい。
夫は私の価値観を理解してくれなくても、受け入れてくれているし、その結果仲良く十何年も一緒にいる。
このことに気がついてから、人との付き合いが楽になった。
元々気が強い私は、自分と違う意見を聞くとつい突っかかって、反論したり怒ったりしてしまうことがあった。
でも、「価値観が違っても無理に理解する必要はない」と知ってから、反論せずに受け入れることができるようになった。
更に、価値観の違いを受け入れることで、海外の旅や異文化交流がより楽しめるようになった。
「なるほど、この国の人はこういう考えの人が多いんだ! 面白い!」
「日本人は普通こう思うけど、この人は違うんだな。へー」
と一旦素直に受け入れると、驚くほどストレスがない。
もちろん外国人だけではなく、身近な人にも当てはまる。
価値観が違うと言えば、父もそうだ。
父は寡黙なため誤解されやすい。家族との関係は悪くないが、私は実家に帰る度についついダメ出しをしてしまう。
「なんで思っていることをちゃんと伝えないの? お母さんにもっと感謝しないと!」
口数が少ない父は、私が文句を言っても黙って聞いている。
ある日母と電話をしていて父の話題になった。
「そういえば、お父さんって私がやることに口出ししたことないよね」
「うん、お父さん、あんたのこと宇宙人だと思ってるからね」
***
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
★10月末まで10%OFF!【2022年12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《土曜コース》」
天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら
天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
天狼院書店「プレイアトレ土浦店」 〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
【天狼院書店へのお問い合わせ】
【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。